第27話「殺人事件デス」
「遅くなりました、皆さん」
生徒会室に入ってきたのは、如何にも真面目そうだと言った女子生徒だった。
細身の長身に短髪で艶のある黒髪、鼻の上に置かれたフレームの細いメガネは彼女のクールな雰囲気と相まって良く似合っている。
彼女の名は桐谷症子。
生徒会執行部書記担当の2年生である。
「随分遅れたな桐谷。何かあったのか?」
「いえ、取り留めもないことですよ会長。ここに赴く際、ひときわ明るく光る太陽を見つけましたので、少し時間を掛けてしまいました」
「う、うん? そうか……」
桐谷は、意味ありげな言葉を残した後、そのまま自分の席へと着席しようと中を歩いた。
まるでモデルのような抜群のスタイルを持つ彼女は、その歩き方も様になっている。桐谷が歩を進めるたびに、彼女の後ろから子気味良い音色が流れてきていた。
「ちょっと待った」
と、そこで桐谷を止める人物が現れた。
生徒会会計、尾崎利里である。
「……? どうされましたか尾崎さん」
「どうされました? 桐谷、貴方自分の今の状況を説明できる?」
「……ふむ、やはり遅刻したことについて、尾崎さんは思うところがあるのでしょう」
「違う! 貴方が抱きしめている"彼"のことを言っているの!」
「ああ、彼ですか」
そう言って、桐谷は自分が抱きしめている人物に視線を向けた。
そこには、小柄な体躯に長いポニーテールを持つ少年、日ノ本冬夜の姿があった。彼は目を回して気を失っているようで、さっきからピクリとも反応してこない。
そんな彼と桐谷を見て、尾崎はスゥっと息を吸い、言い放つ。
「桐谷! また冬夜くんを攫ってきたのね!?」
「攫ったとは失礼な。ちょっと軽く連れて来ただけです」
「好き勝手に後輩を連れ回さないの、冬夜くん気絶してるし!」
「長時間くっついていたので逆上せただけですよ」
どうやら生徒会での一悶着とは別の所で、桐谷と冬夜も密着状態だったらしい。しかし冬夜はともかく、桐谷は鉄壁の顔面を1ミリも崩さないクールビューティを貫いており、寧ろ何だか肌が潤っているようにも見えた。
「年下の子を連れまわすとか、状況が状況なら犯罪行為よ!」
「こんな素晴らしいショタを目の前にして見過ごせるはず無いでしょう!?」
「逆ギレ!? なんて変態じみた開き直りなの!?」
桐谷症子、彼女は"ショタコン"だった。
おおよそ『男の子』という存在に目がない彼女は、ひょっとすれば小学生と間違えられるくらい幼い容姿の冬夜をいたく気に入っていた。
さらに言えば桐谷は欲望にまっすぐな性格であり、ショタを見ると抱きしめずにはいられなかった。
「症子先輩、抱きしめたいならほらっ! 炎乃がいつでも抱かれてあげるの」
一方、有沢は両腕を広げてウェルカムの構えを取り始めた。
因みに、有沢は男の子と女の子で、どちらが好きかと言われたら『女の子』が好きだった。
「炎乃ちゃん、今は自重して。桐谷、悪いことは言わないから彼を元いた場所に帰してあげなさい」
「あと5分だけ……」
「そんな言い分は通りません! 早く帰して来なさい」
「こんな可愛いショタを1人置き去りにしたら悪い大人に襲われてしまいます!」
「今まさに変態に襲われているけどね!」
「えっと、取り敢えず冬夜くんを起こしたほうが良いんじゃないですかね?」
桐谷と尾崎の押し門灯に若干遠慮がちになりながら、中鉢はそう提案した。
言われてみればその通りだと、尾崎が両手を打ち、しかし桐谷は首を横に振った。
「起こしたいのは山々ですが、最初の拘束でかなり強く締め付けたせいか、いくら揺すっても目を覚まさないんですよ」
「貴方どんだけ強く締めたのよ!」
「眠っている王子様を起こしたいなら、お姫様のキスが定番なの」
「……!? ……有沢さん、貴方は神ですか? ナイスアイデアです、早速わたくしが彼を起こしましょう。という訳で失礼して--
「やらせないから! 炎乃ちゃんも、桐谷に妙な知恵を教えないで」
「エヘッ♪」
有沢はあざとい笑みを浮かべた。
「水でもかけるか?」
「それもそれで強引なの」
「まあ、別に今すぐ起こす理由がある訳ではないしね」
「いえ、わたくしは今すぐ冬夜くんの反応が見たいです」
「……なんか、今日は会議が出来そうな感じじゃありませんね」
ひとまず気絶している冬夜を床に寝かせて、生徒会の面々がそんな風に相談をしている、--その直後だった。
突然、生徒会室の扉がドタンッと勢いよく開かれる音がした。
「よぉよぉやってくれたじゃないか生徒会の諸君ら! よくも我が部の後輩を攫ってくれたな! このお礼は将棋部参謀担当であるこの--
「瞬神剣!!」
その瞬間、断裂が起きた。
それはあまりに一瞬のこと。常人には何が起きたかまず理解できなかっただろう。
ただ事実を述べるならば、生徒会室に入ってきた『何者か』を、天願寺が台詞を言い終える前に斬り裂いた、ということである。
そして恐ろしいことに、『何者か』の胴体は真っ二つに分離し、上半身と下半身が別々に別れてしまった。
さらに、
「失せろ害虫が」
冷徹な視線で、桐谷が『何者か』を罵倒した直後、彼女の周辺から無数の"鎖"が出現した。その鎖は、獲物を狙う蛇のような動きで上半身を拘束し、そして、
「お、おおおおおおおおおおっっっ!?!?」
抵抗する暇もない。
拘束された彼は無数の鎖にミシミシと全身を締め上げられる。それは、本気で絞殺されるが如く強烈な"縛り"だった。
「圧死、絞殺」
桐谷が無情に言い放つ。
その直後、彼の上半身は鎖の圧力によってひしゃげた。肉体の亀裂からは大量の血が流れ、それがまるで噴水のように吹き出し、生徒会室を血で染め上げていく。
「か、軽井沢せんぱぁぁぁぁぁぁぁぁいッッ!!?!?」
中鉢の絶叫が、生徒会室を越えて校内全体に響き渡る。
絞殺された彼、『軽井沢春太』は残酷なまでな姿に変わり果てていた。




