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最果ての帝壁 -狂者と怪人と聖愛の女王-  作者: 極大級マイソン
第3章:最悪と悪と異能使い
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第25話「生徒会の問題児」

 ノック音がした玄関口の方向を見ると、ガチャリと扉が開き、外から小学生くらいの背丈をした少年が入ってくるところだった。


「失礼します」


 身長は140センチより低いくらいだろうか? 高校生の平均より背が低い軽井沢や野木よりもさらに一、二回りは小さい彼は、特徴的な漆黒の長い髪をしており、それを後ろでひとまとめにした、非常に目立つポニーテールをしている。

 その少年は、一見にして高校にいるのはあまりに不自然な出で立ちではあるが、歴としたここの生徒だ。その証拠に、彼の服装は軽井沢や樋口、野木と同じ、黒い学ランを着用している。

 少年が将棋部に入ってくると、軽井沢はおおっと驚き微笑んだ。


「なんだ冬夜じゃん! お前からここに来るなんて珍しいな!」

「そうですね、ここに来るのは結構久しぶりかもしれません」


 彼の名は冬夜。

 中鉢木葉と同じ一年生であり、将棋部の最後のメンバー。

 そして、


「あら冬夜! ちょうど貴方の話をしていたのよ」

「あれ、"義姉さん"もいるなんて珍しいですね。野木先輩もいるようですし、もしかして今日は何かの集まりだったんですか?」


 そう、この少年は日ノ本夏輝の義弟。

 "()(もと)冬夜(とうや)"なのである。


「いや、今日は偶々集まっただけで特にはムグッ!?」


 その時、軽井沢が何を思ったのか、夏輝の口を片手で塞ぎ始めた。


「?」

「いやいやいやいや! はははっそうなんだよ。実は今日は将棋部についての重要な相談事があってね。いやーだからちょうどメンバーを集めようと冬夜を呼びに行くところだったんだよ!」

「ああ、それじゃあ本当にちょうど良いところに来れたんですね」

「そうなんだよ! いやー手間が省けて良かった、はははっ!」


 軽井沢は溌剌とした表情で笑っている。

 そんな彼に問いかけるように、樋口が顔を近づける。


『……おい春太。俺は重要な相談があるなんて聞いてないんだが』

『あーただの口実だよ。ほら、折角冬夜も来たんだからさ、どうせなら将棋部全員集合させたいじゃない? だったら大切な話があるっていう事にして、それを理由に中鉢ちゃんを呼ぼうって思ったのさ』


「……しかし、重要な相談事とは、一体何を話し合うんですか軽井沢先輩」

「ああ、それは全員が集まってから話すよ」

「そうですか。……どうやら中鉢さんがまだ来ていないようですね」

「そうなんだよ。どうも彼女は生徒会に呼び出されているみたいでさぁ、そっちの方に行っちゃったんだ。でも、すごく大事な話をしないとならないからどうしても部室に来て欲しいんだよ」

「ふむ」


 軽井沢は、非常に困った顔をして冬夜の方をじっと見つめた。


「それでだ冬夜。悪いけど、彼女をここに連れて来るために生徒会室に行って来てくれないか?」

「そんなの春太、お前が行けば済む話だろう」

「僕が生徒会の連中に会っても、取り合ってもらえないよ。その点、冬夜なら品行方正だし、中鉢ちゃんともクラスメイトだから話しやすいでしょう」


 彼は、生徒会でも一目置かれている、日ノ本夏輝の義弟なだけあり優等生で、学内の評価も非常に高かった。学年でトップの成績を持ち、幼い頃から道場にも通っているため、剣道の技術にも長けていた。

 才色兼備、文武両道。

 そんな肩書を持つにふさわしい人格者である彼なら、生徒会のメンバーも悪い顔はしないだろう。そう、軽井沢は思ったのだ。


「でも、生徒会の皆に迷惑になるんじゃない? 会議があるって言っていたけど」

「大丈夫大丈夫! どうせ大した話はしていないさ、何てったって僕らがここに居るんだから!」

「キミとおいら達を一括りにまとめられるのは、若干の抵抗があるでやんすねー」


 HAHAHAと、楽観的に笑う軽井沢だったが、一方で冬夜は気の進まない顔をしていた。


「いや、しかし……」

「無理だ春太、生徒会には"あいつ"がいる」

「……ああ、そうだった。忘れてたよ」


 軽井沢はしまったと、自分の頭をぺしりと叩いた。

 ……将棋部と生徒会には因縁がある。しかしそれとは別に、日ノ本冬夜には生徒会に一人で行けない理由があった。

 それは、現生徒会のメンバーに、彼の天敵とも言える存在がいたからだった。

 日ノ本冬夜は優等生、つまり彼が生徒会室に行きたがらない理由は、軽井沢のような問題行動を起こすからだとか、そういう後ろめたい理由があるせい、とは違う起因がある。

 謂わば、『逆』だった。

 学内の平和を重んじる生徒会執行部。ただ、彼女たちも全くの善人というわけではない。

 その最たるものが、日ノ本冬夜の天敵とも言える、"彼女"だった。

 "彼女"の存在が、冬夜、あるいは学内の男子生徒全員を脅かす要因ともなっている。

 それは、生徒会の正義的活動とは別の、もっと私的な理由での行動であり、ある意味で"彼女"は、軽井沢春太と同列視されるレベルの問題児であると言えた。

 そんな彼女がいるであろう、生徒会室に冬夜一人で行かせるのは、あまりに酷である。奇怪な行動が目立つ軽井沢も、そこまで鬼ではなかった。


「あーじゃあ、仕方ないな。気は進まないけど、僕が生徒会室に行ってくるよ」

「いや、今日は夏輝がいるんだからこいつが呼んでくれば良いんじゃないか? 夏輝なら生徒会(あいつら)も無下にはしないだろう」

「おぉー! そうだそうだった! それなら、夏輝が頼まれてくれないか? 中鉢ちゃんを呼んで来る係」

「何を相談し合うのかは分からないけど、大事な話があるなら仕方がないわね」


 日ノ本夏輝は、軽井沢の突然の思いつきである『重要な相談事』とやらを信じ、生徒会室へ赴こうと腰を上げた。


「……すいません義姉さん。どうも私、あの人と会うのは苦手で」

「気にしないで、私は冬夜のお姉ちゃんなんだから! 弟が困っているなら見過ごせないわ」


 そうは言っているが、日ノ本夏輝は例え身内でなくても、困っている人は見過ごせない女子である。

 いつ頃からこうなったのだろう、と軽井沢はふと思った。

 昔はここまで率先して他人のために動く奴じゃなかった。いや、"動ける奴"じゃなかった。

 高校に入り、自らボランティア活動などもするようになり、何が彼女を変えたのだろうか。

 軽井沢は、幼少期から日ノ本夏輝という人物を知る幼馴染みとして、彼女の変化の原因を少し模索してみた。


「…………春太? どうしたの、ボーッとして」

「ん? あ、いや、何でもないよ」


 そこで、いつの間に近づいていた夏輝にはっと我に返り、軽井沢は何事もなかったように平静な表情を作った。


「どうせ春太は、『夏輝の奴、いつの間に他人のために動けるお姉さんになったよなぁ〜』とか、そんな益体も無い事を考えてたんだろうよ」

「……秋人くん? 人の心を見透かしたような発言をするのはやめてもらえませんかね」

「でも当たっているだろう?」

「はぁ!? 全然当たってないし!!」


 それはそうと、今は中鉢木葉を呼びに行くために、夏輝が生徒会室へ赴くという話である。

 冬夜は、義姉が役割を交代していると安堵し、ほっと胸を撫で下ろしていた。


 --その、次の瞬間である。


「………………ッ!!?! ムグッ、ムゥウウウウ!!?!!?」

「「「「!?」」」」


 突然、日ノ本冬夜の背後から、複数の鎖のようなものが現れたのを、冬夜を除く将棋部員全員が目撃した。

 そしてその鎖のようなものは、瞬く間に近くにいた冬夜を拘束すると、とてつもない力で部室の外へ引き摺っていった。


「ムグゥ!? ムゥウウウウウ!!」


 冬夜は口元を鎖で覆われ、まともに喋ることもできない状態になっていた。

 外に連れ出された彼はズルズルと向こうへと引き摺られていき、その音は次第に遠のいていく。

 そして、最後は引きずる音も、冬夜の呻き声も聞こえなくなり、何もない静寂だけが、将棋部全体を包み込んだ。


 将棋部員全員は唖然としている。

 最初に言葉を発したのは樋口だった。


「ああ、これはまた……、面倒なことになったな」

「ななななな何が一体!? 一体何が起こったの!?」

「何が起こったも何もあの鎖、間違いなく"彼女"だよ」

「えっ!? もう嗅ぎ付けて来たんでやんすか!?」


 そう、"彼女"。

 将棋部員たちも危険視している、生徒会最悪のメンバーが、いきなり襲撃し、日ノ本冬夜を攫ったのだ。

 彼らのこれまでの経験からして、その可能性は極めて高かった。

 軽井沢はスッと腰を上げる。


「これは、僕も生徒会に行く必要ができたみたいだね。夏輝、一緒に来てくれ。そして冬夜を取り戻そう」

「う、うん!」


 夏輝は義弟を攫われて少し動揺しながらも、すぐに立ち直って軽井沢に頷いた。


「あの野郎……。うちの後輩を攫った罪、この僕が直々に悔い改めさせてやる!」


 この時、軽井沢春太は憤ったような表情をしていた。

 ……しかし何故だろう。その顔は"彼女"に対する怒りとは別の、"愉快"な感情が見えたような気がした。

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