第14話「土下座するから許して」
(コーヒーを奢るのは渋るのにお茶は良いのかな?)
中鉢は、そんな益体も無いことを考えていた。
しばらく身体を休めたおかげで少しだけ調子を取り戻した野木に、軽井沢が進んでお茶を差し出していたので、ふと疑問に感じたのだ。
まあ、今はどうでも良いことである。
「……それで、軽井沢くんはおいらに何の用があるんでやんすか?」
「Line見てないのかよ。迷子のペットを探すから、手伝ってほしいんだ」
「ペット? もしかして、軽井沢くんの飼っている"シャーナ"が居なくなったんでやんすか?」
「違うよ、うちのシャーナは外出しても夜には戻ってくるから、居なくなったとしたら迷子じゃなくて誘拐の類さ」
軽井沢は、野木に例の写真を手渡す。
「この犬を探すんでやんすか? ふぅむ……」
野木は、何かを模索する様にその写真をじぃ〜っと見つめている。
その間、有沢はポンポンと軽井沢の肩を叩いて来た。
「んっ、なんだい有沢ちゃん。ああ、有沢ちゃんって野木くんの事は知らなかったっけか?」
「いや、以前あった事はあるの。あんまり話した事はないけど」
「そっか、じゃあちゃんと自己紹介しなくちゃな。野木くん」
「むっ、別に構わないでやんすよ」
野木は写真を畳に置いて、くるりと有沢の方に振り向いた。
「おいらは野木世二っ! 年は17歳と2カ月、好きな食べ物はスナック菓子! 趣味はアニメとガジェット作りでやんす! メカニックについてはある程度心得があるので、興味があったら是非話しかけてほしいでやんす」
野木はメガネをクイッと押し上げてキメポーズを取った。
「……ふーん、野木世二先輩か。なんか濃い先輩なの」
「なんかのゲームに出て来そうだよね。野木くんは、我らが将棋部の"諜報担当"なんだ。彼の能力を使った情報収集力はなかなかのものだよ」
「照れるでやんす」
「普段は将棋部には参加せず、将棋部の地下室でガジェット作りに勤しんでいる。だから、部には顔を出してるけど、部活動はしてないから幽霊部員扱いになってるんだ」
「いやいや、通常の将棋部の活動も大概でやんしょう?」
「将棋はしてる。他にも色々やってるってだけさ」
「ここの地下がガジェット研究に最適だったから入部したんでやんす。将棋自体にはあまり興味ないでやんす」
「僕もあんまり興味ない」
「軽井沢先輩正直過ぎますっ!? わ、私は好きですよ、将棋!!」
慌てたように中鉢が将棋を肯定的にフォローした。
全員の視線は、まだ発言をしていない樋口秋人に寄せられていく。
樋口は皆と話そうともせず、今も将棋の本を読んで勉強をしていた。
「…………、うん? ああ、俺も将棋は別段好きって訳じゃないぞ」
「ええっ!?」
中鉢は、樋口の意外過ぎる発言に驚き戸惑った。
樋口は部室にいる間、雑談の輪にも入ろうとせず、将棋の本を読んだり詰将棋をしたりしていたのだ。
だから中鉢は、てっきり好きだから将棋をしているのだと思っていたのである。
「いや、将棋は暇だからやってるってだけで特に夢中って訳じゃあないんだ。俺もこんな部活放って、まっすぐ帰ってもいいんだが……」
「ダメだよ! 秋人は僕の話し相手なんだから、勝手に帰ったら僕は誰とおしゃべりすればいいんだよ!?」
「中鉢とでも話せば良いだろう」
「ええ……。中鉢ちゃんってホラ、二人っきりになったら何してくるか分かんないところがあるからさぁ」
「軽井沢先輩は私をなんだと思ってるんですかっ!?」
「何って、"広域殲滅型瞬間制圧兵器"だよ」
「その不名誉なあだ名はやめてください! 怒りますよ!?」
「えっ、中鉢ちゃんが怒るって!?」
それを聞いた軽井沢は、ビクッと震えて即座に土下座を開始した。
彼の土下座は思わず息を呑むほど鮮やかなもので、それはそれは見事な形を作り出していた。
「おおっ! これは見事な土下座なの」
「美術館に寄贈できるレベルの芸術性を感じるでやんす。これは、国宝ものでやんすねッ!!」
「……えっと、そこまで誠意を持った土下座をされたら、私も反応に困るんですけど」
「謝るので許してください」
「というか、土下座なんてしないでください。私もそこまで怒ってる訳じゃないんですから」
「許してくれないなら、高校の裏サイトに『中鉢木葉が先輩の男子生徒を土下座させて悦に浸っていた』って書き込むから」
「その姿勢でもやることはクズいんですねっ!? もう、許しますから顔を上げてくださいッ!!」
「やった、許された!!」
軽井沢が顔を上げると、そこには満面の笑みがあった。
(……本当にこの人は、調子を狂わされるなぁ)
彼と初めて出会って、もう2ヶ月程になるがいつもペースを崩されてしまう。……これでは、彼から人が離れていくのも納得である。
中鉢木葉は額に手を当てて、頭に溜まった熱を感じ取ろうとした。
額はとても熱かった。




