表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/33

第10話「斬殺せず圧殺」

「ではまずお返しの一発を……」


 軽井沢がそう言って振りかぶった突如に、

 斬ッッ!! と青年の腕を握っていた彼の腕が斬り飛ばされた。

 茶髪の青年は、その衝撃で尻餅をついた。


「おおっ!?」


 軽井沢が驚いて後ずさる。彼の左腕は、非常に切れ味の良い"ナニカ"に断裂されていた。

 しかし、彼の周囲には刃物ような物は見当たらなかった。無慈悲に切断された腕が、くるくると宙を待っている。

 軽井沢は、自分の腕を断った人物に心当たりがあった。


「……天願寺、なぁにするんだよ藪から棒に」

「ボクの忠告を無視した罰だ。これ以上斬り裂かれたくなかったら今すぐ直れ」

「忠告を無視したくらいで僕の腕を斬り飛ばしたの!? 時代錯誤のサムライじゃないんだから! 狭量が狭いにも程はあるよ天願寺ッ!!」


 軽井沢は斬り飛ばされた自分の腕がある所まで行き、それを慎重に拾い上げた。

 そして在ろう事か彼は、その腕を斬られた断面と断面に引っ付けるように重ねたのだ。

 そしてそれをぐりぐりと擦れつけたかと思うと、彼の腕はあっという間に元通りの状態にくっ付いてしまった。

 軽井沢は左腕の調子を確かめるようにブンブンと腕を振り、そして不愉快そうに天願寺の方を向いた。


「あーそうかい。そっちがその気なら僕にも考えがあるからね」

「……っ」


 天願寺に緊張が走る。

 軽井沢はズンズンと天願寺の元まで歩いていき、お互いの距離は徐々に近づいていった。


 何かが起こる。

 皆が軽井沢の行動に注視し、いよいよ彼が何かをしようとした直後、

 ……それは起きた。


「……ムッ!? むむむむ…………っっ!!」

「……?」


 突然、軽井沢に巨大な圧力が襲いかかった。

 それは肉体的重みというより精神的な圧迫感の様なもので、彼は見えない壁にぶつかった様な衝撃を喰らった。

 例え肉体を斬り裂かれてもダメージを受けない彼でさえ、この現象には多大な負荷を負った。

 軽井沢は圧迫されたそのままの状態で、視線だけ動かした。

 彼の瞳に、この現象を起こした人物が写し出される。


「ぐぐぐぐッ、…………ちょっと、キミまで僕の邪魔をするのかい?」


 そして、軽井沢の動きを封じた"彼女"は、ふっと息を吐いて胸を撫で下ろした。


「最初に言ったと思いますけど、私は将棋部と生徒会なら生徒会を優先しますからね。……天願寺さんに危害を加えるのなら、私が許しません」


 そこに居たのは、中鉢木葉だった。

 彼女は軽井沢に莫大な負荷をかけていた。並みの人間なら発狂してもおかしくない精神の重圧。この負荷に耐え切れるのは、この学校では軽井沢を含めてそう多くは居ないだろう。

 そして遂に、軽井沢は直立し続けるのが困難に陥り、膝を着いてしまう。


「グギギギギこの僕に膝を着かせるとは、中鉢ちゃんは将来巨匠になれるよ!!」

「何の巨匠ですか。というか、軽井沢先輩巨匠の意味知らないでしょう」

「しかしこのプレッシャーからは熟練の風格が醸し出されてウゴゴゴゴゴゴゴッッ!!?! ……ちょ、タンマ!! 分かった、僕が悪かったから!! もう大人しくこの場を離れるよ!!」


 軽井沢は堪らずそう叫んだ。

 それを聴いた中鉢は、発していた力をスゥッと緩めた。その瞬間、軽井沢に纏っていた重圧は途端に消えた。

 彼はバタリと倒れる。

 彼の額には嫌な汗が流れていた。相当疲弊している様だ。


「……ふぅ、危うく圧殺されるところだったよ精神的に」

「先輩大丈夫でしたか? すみません、少しやり過ぎたかも知れません」

「まあ、心臓止まるかと思ったけど大丈夫」

「軽井沢先輩は先に校舎に入って行ってください。私が後片付けやっておきますから」

「ありがとう、中鉢ちゃんは良い後輩だね」

「…………」


 軽井沢はヨロヨロと立ち上がると、ゆっくり玄関へ移動を始めた。その足取りは覚束なく、病人のような不安定さを感じた。


「あっ、しまった忘れるところだった」


 と、軽井沢は何を思い出したのか、突然人集りの方へ振り返った。

 ビクッと生徒たちがざわめく。彼の一挙一動を注意していた。

 そして彼、軽井沢春太はビッと人差し指を突きつけた。


「ポイ捨て、やめろよ。今日はこれを言いに朝早くから来たんだからな」


 そしてプイッと玄関口へと向かって行った。


 ……ポイ捨てを無くすための活動。

 ただそれだけの行動が、何故これほどまでに周囲を動揺させてしまうのか。

 答えは単純だ。


「軽井沢春太。お前は、人の真似をするには強大過ぎる」

 天願寺のふとした呟きは、奇しくも誰の耳にも届かなかった。


 こうして、学校からはゴミのポイ捨てが無くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ