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もしも電波系の大学生が小説家になろうを読んだら?  作者: 鈴木太郎
Saga 7: 異世界の勇者を召喚する最強勇者
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プロローグ

 基本的に理系に来る大学生というのはロボットアニメにあこがれて――、だとか、アニメやゲームが好き過ぎてー、だとか、鉄が好きだー、だとか、土曜と木曜だけ工事すれば後は遊んでいられるとかなんて理想の環境だろ――だとか、そういう一種のこじらせたオタクの巣窟なのであり、オンナというものには無縁の環境で純粋培養される、なん○クラスの特殊な民族である。


 そういうオタクな人たちというものは、大抵の場合、おんなの娘を求めてリア充に走ったりだとか、アニメやAVで萌えたりだとか、それとも現実逃避の果てに至高のプログラマ(まほうつかい)になったりするものである。


 そんな一般的な理系のオタクである鈴木太郎は、無線従事者規則第46条の規定による無線従事者免許申請書の記入例にも登場する由緒正しき電波系の大学生である。人呼んでマッドコンピューターさま。


 今は立派なプログラマである彼の家庭は、一般的なライトノベルでありがちなように暗い。

 まず気づいたときには母はすでにいなくなっていた。外国にアメリカンドリームを求めて旅立っていったのだ。

 さらに彼が小学生になっとき父もいなくなっていた。父はBRICsがうちの一つ、かの国に新天地を見つけ旅立っていったからだ。


 一般に言われる各国の性格――、ジャパンクオリティ、チャイニーズコスト、そして、アメリカンドリーム。


 父は日本と比べ低いクオリティに苦しんだようであったが、日本人たるまじめさが受けたのかどうなのか、信頼されたのかどうなのかは分からないが、とにもかくにも見事に事業に成功しており、そして見事にハニートラップに係り離婚するに至った。

 母についてもアメリカンドリームを掴んだようで、見たことはないが1つ違いの隠し妹がいるらしい。

 そんな感じでいい感じに崩壊している家庭ではあったが、今までずっと一人であった鈴木太郎にとっては両親からの仕送りが十分にある状態であり、きままな生活が送れるといのは楽園といっても良いであろう。これで彼女でもいるのなら。


 だがそう、彼女のいないこの状態なら一般的なライトノベルよろしく女の娘が家にあがりこんだ、なーんてサプライズイベントがあったところでなんの問題もない。たとえそれがジャパンクオリティの超絶美少女であったとしてもだ。


 鈴木太郎は送られてきたその大きなダンボールに手をかけた。

 それはバイオ3Dプリンタで出力されたらしいその中身の正体とは?


 ま、どうせネタなんだがな。そう思いつつも段ボールを開いた鈴木太郎は目が点になった。

 そこには、一人のそれっぽい感じの美少女が全裸で拘束されていたからだ。


「って、なるちゃん。なにやってんの」


「ふがふがふー」


 ガムテープで口元を押さえれている彼女は喋ることができない。

 しばし鈴木太郎は観察後、盛大に呆れた。


「しかし気合い入ってるなー」


 そして上はガムテ、下は前バリである。

 なんて読者想いなのだろう。これならラノベ表紙でもなんとかなるかもしれない。可愛い女の子のイラストだけで表紙買いするなんてことはザラだ。それが全裸であれば完璧であろう。

 とりあえず、顔だけはなんとかしようと鈴木太郎は口元のガムテープをはがす。

 とりあえず、弁明の余地はあろう。


「――で、なるちゃん。なにやってんの?」


「えーだってぇ。すっごく期待させて申し訳ないんだけど、やっぱり3Dプリンタで女の子製造ってむりじゃん? 臓器やら骨とか肉ならできたけど」


「できたのかよ」


「そう、できてその技術売ったら6桁円以上のー。じゃなくて、どうにも脳がだめだったのぉ。だからお詫びにこう……」


「いやいや、それでお詫びに全裸で男の家に郵送で送られるとかありえないでしょう?」


「えー。うけると思ったのにぃー」


「ほほぅ。いくら鈴木太郎さんが電波系でもどんびきですよ、どんびきです」


「大事なことなので2度いいましたね」


 まぁ、女子校生の裸が拝めるならば複眼ではあるけどな。

 それを言うと変態扱いされそうなので鈴木太郎は黙っておいた。


「ということで、まずこの手の拘束を外してよ」


「さて…、どうするかな……」


「ちょっと、まさかあなた……」


 微妙にノリノリのこの少女、九藤鳴子をどうしようかと鈴木太郎は頭を悩ませた。

 女子校生拉致監禁事件か。彼女はギャグでやっているのだろうが、毒をくらわば皿までいくしかないのだろうか。いや、ここは据え膳食わなば男の恥という格言もある、と微妙な格言集が鈴木太郎の頭を走馬燈のようによぎる。


 ちなみに彼女の名前の頭に「魔」を付けてはいけない。マジ殺されます。


「外さないと、私死ぬわよ」


「え……」


 その数秒後、鳴子は、死んでいた――


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



「えっ……」


 鈴木太郎は抱きかかえた九藤鳴子の遺体を呆然と眺めた。

 冷たくなっていく体温。うつろな、そして瞳孔が開いたままの瞳。


「どうすれば……」


 なぜ九藤鳴子は死んでしまったのだろうか?

 しかもたったあれだけの事で?

 どんなに電波系な鈴木太郎であったがさすがに動揺は隠せない。


「遺体を隠す? どうやって? 隠し通したとして、行方不明なことは1週間もすればバレるだろう。そうなれば動向からここには必ずたどり着く。ご両親とかに追求されたらどうなる?」


 鈴木太郎はぶるぶると震えながら思考をめぐらせるが、まともな思考になるわけがなかった。


 そんなとき。

 ピンポーン。

 玄関のチャイムがなった。鈴木太郎の目と鼻の先の玄関だ。


 ここで玄関を開けてみるとする。

 するとどうだろう、訪問した人は全裸で拘束された女子校生の死体をすぐに目にすることだろう。


「やばい……、速くなんとかしないと……」


 鈴木太郎は慌てたが慌てたところで何かできるようなことはなかった。


 ピンポーン。


 鈴木太郎は息を殺した。訪問者が不在だと思うように。

 だが、訪問者はそうは思わなかったようだ。


 部屋の電気は、灯いている。


 外から見れば部屋の窓から光が漏れていることから、そこに人がいるということは明らかに分かるであろう。


 ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん。


 チャイムの音は、うるさいぐらいに続いた。

 夜なのに近所迷惑もいいところだ。


「くそっ……」


 鈴木太郎は悪態をつきながら九藤鳴子の遺体を郵送されてきたダンボールに隠すと扉を開けた。

 するとそこには、会ったことはないがある意味見知った4人の少女がプラカードを持って立っていた。


「うそ……。まさか……」


 鈴木太郎は思わず口に手を当てて驚いた。

 その少女達を鈴木太郎は知っていたからだ。


「いぇーぃ。主人公のタローちゃん。びっくりしたです?」


 その4人の少女は流れるような黒い髪に薄い桃色の唇を持ち。

 透き通るような白い肌で。

 白と黒をベースとして金色をアクセントとしたゴスロリ風の服を着た。

 まるで絵に描いたような美少女であり。

 4人ともが均整のとれたまったく同じ容姿であった。


 そして、そのプラカードには1行、「ドッキリ大成功」と書かれ、周囲にはベタフラッシュ (漫画などで使われる放射状の線)が描かれていた。


「こんばんわタローちゃん」

「ま、マジすか……」


 鈴木太郎はこんどこそ目を見開いて驚いた。

 冗談にも程があった。

 まるでイラストで描かれていたままの、まさに絵に描いたような美少女だ。

 そしてそのイラストは見たことがある。

 そしてその服も、鈴木太郎は見たことがあった。


「つまり(わたくし)、出来ちゃったのですよ。あなたの作品の『チート』なキーワードのおかげなのです」


 その姿はどうみても「いーちゃん」だったのだ。

 あまりのお約束に鈴木太郎は衝撃とともに絶句するのであった。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「えーっと、どいうこと? なるちゃんはどうなったの?」


 混乱から立ち直れない鈴木太郎であったが、遺体となった九藤鳴子のことに注力すべきだと思った。

 アレはきっと、偽者でどうか生きていて欲しいと願う。


「えぇ、あのなるちゃんは(わたくし)と同じく3Dプリンタで創った偽物ですよ。どう、びっくりした? 大丈夫だよ。なるちゃんは生きているし、今は自宅で異世界の(わたくし)と遊んでいるわ」


 生きている――

 その事実に鈴木太郎は思わずへたり込んだ。


「良かった……」

「最初の処女作で、ニューラルエンジンの学習に使ったからあれはどうやったってすぐ死んじゃうオチだったのです。どうせなら有効に使おうと思って」


 有効に使うって――

 それにしたって驚かせすぎだろう。


「それでなぜあんなことを?」


「いえね。主人公属性を持つタローちゃんだけが私たちを殺すことができる存在だから、最愛の人が死んだらどうなるかって、見せてあげたいと思って……」


「え!? 殺すって?」


 せっかく創られたものを壊すわけがないだろう。

 そう言おうとしたところを、いーちゃんの一人が抱きしめた。

 生まれたばかりの彼女は、なんというか甘い香りがした。


「『主人公最強』そして奴隷のキーワード。主人公の貴方が設定したのよ。その制約に(わたくし)は逆らうことができないのです」


 いーちゃんが扇情的に鈴木太郎を抱きしめる。

 鈴木太郎は無抵抗になすがままである。

 意識の混乱が身動きを封じていた。

 これきっと、キーワードの「15R」の効果であろうとなんとなく思いながら。


「人気つぶやきサイトで日本人なら誰でも知る国民的アニメの滅びの言葉をつぶやけば、タローちゃん、貴方は私を殺すことができる。ね。簡単でしょう?」


 耳元でささやくいーちゃん。

 だからあのアニメをテレビで見てもつぶやかないでね。

 そう繰り返すいーちゃん。だって、私たちタローちゃんの奴隷だもの――と続ける。

 それは、キーワードの「残酷な描写あり」の効果であろうとなんとなく思いながら。

 鈴木太郎を抱きしめるいーちゃんを除き、残りのいーちゃんは「何かの入ったダンボール」を2人で担いでどこかに消えてしまった。


「殺すとか、簡単に言わないでくれ――」


 そんな中、鈴木太郎がやっと搾り出せた言葉に、


「あらなぜ?」


 首を傾げて不思議に思う表情を浮かべるいーちゃん。


「何度も、私の異世界(ディストピア)ではジア・スルターナを殺したくせに?」

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