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もしも電波系の大学生が小説家になろうを読んだら?  作者: 鈴木太郎
Saga 7: 異世界の勇者を召喚する最強勇者
32/40

いーちゃんなりきりセット

 その新しいアイテムに不安と期待をないまぜにしながら、イナームはそのアイコンに手をかざす。

 まずは服からだ。

 するとそのアイコンの中身のイメージと説明がウィンドウに表示された。


「うわぁー。かわいぃ……」


 そこにはとても可愛らしい服が表示されていた。


『◆アイテム名::いーちゃんなりきりセット(服)

レア度:10(ヒストリカル・ブラック)

ランク:A(生産級)

補正:AGI+2、MAG+1、VIT-1、容姿+2:隠しパラメータ

効果;なし

装備位置:上着ワンピース(上下)

説明:

異世界から召喚された勇者「鈴木いーちゃん」になりきるために用意された服です。

白と黒がベースで金色がアクセントのゴスロリ服であなたも魔法少女に!

ゲームバランスが崩れるのでさすがに電磁投射砲は撃てませんが、いまならなんと、きらめく星のエフェクト付き! きらきら星で周囲のみんなもイチコロさッ☆(物理)』


「こんな可愛らしい服、頂いてしまって良いのでしょうか?」


『もちろん! 着たらスナップショットとか取らせてよ』


「ありがとうございます」


「それと同じ服を私も着るからおそろいだね(不本意だけど)」


 結局のところ、九藤鳴子がその服を着ることは確定らしく、GMは九藤鳴子専用に服の発注を既にしていた。

 というか、商品として売り出すみたいだ。

 着るのは私だけじゃ嫌だと九藤鳴子がいうと、GMは全員着ることになったようだ。

 もちろん技術者の男性もだ。

 逆に九藤鳴子は追い詰められてしまった。


「えっ……。あ、ありがとうございます」


 そんな思いを知ってか知らずか、イナームは感極まった表情でアイテム一覧からクリックして服を取り出し、その白黒の服を抱きしめた。


 あー。やっぱり可愛い子がそんな動作をすると可愛いな――

 九藤鳴子は胸がキュンとするような動作に非常に弱く、身もだえる。


 MMO-RPGに出てくる魔王の徒(キャラクター)は、魔王(ユーザー)の意に沿うような形で当然のように美形だった。誰しも操作したいのは美少女であり、そしてイケメンに限るというものだ。

 もっとも、いわゆるツボを突いて敵を倒すマンガの雑魚キャラのように「ひゃっはー」したいような魔王の徒(キャラクター)を望む魔王(ユーザー)も極一部にはいて、そいつらには理想に沿ったぶさメンが提供されている。どうもそういうキャラで「ひゃっはー、汚物は消毒だー」などと叫びつつ善行をするといったことが流行っているらしい。

 中にはこの土地は我々のものだと宣言し、公園のお花に水をやり、市民をむりやり労働させて私腹をこやさせ、魔物に至っては彼らに討伐させる悪者となるものもいた。

 そう、魔王の徒(キャラクター)は課金によっていろいろと選択できるのだ。


「次はこれかな……」


 イナームは電撃のイメージのアイコンに手をかざす。

 ウィンドウで表示される画像は、服とは違いやっぱり電撃をイメージしたイラストだけだった。


『◆アイテム名:電波系魔術師のブローチ

レア度:5(イベント)

ランク:C(譲渡不可)

補正:なし

効果:装備時のみ(ジョイント):電波系魔術師(Radio wavers) Level.1

装備位置:胸アクセサリー

説明:

このイナズマのブローチを装備すると、なんと新クラス体系、伝説の電波系魔法が使えるようになるぞ! さぁ、君も強力な電波を発射するんだ!

しかもスキルポイントはメインとは別体系となる安心設計、しかもチェンジし放題だよ。やったね。だけど体系がまだ不安定だからいろいろスキルの増減とか調整入っちゃうかも? 安定してきたら新規アカウント加入者には職業の一つとして選べるようにするからテスターがんばれ! テラがんばれ!』


「これって……」


「うーん。何かランクやレア度がやたらと低いのだけれど……」


 要は、魔王の徒(キャラクター)属性を付与するアカウント追加魔法、≪アカウント・ドーン≫を掛けられたヒトは新たにこの電波系魔術師をクラスとして選択できるのだろう。九藤鳴子はそう結論付けた。そしてそれは正解である。

 そして誰でも取得できることが可能、ということであるならばレア度やランクが低いことは九藤鳴子も頷けた。


「でもついに! 複数のクラスを同時に取得できるデュアルシステムの習得は無理だったけど、ヒストリカル・ブラックって斜め上の方向で新しいクラスが使えるようになりました! やったねー」


「これでようやく攻撃系のまともなスキルが……」


 かつて守られるだけなのは嫌だと言っていたイナームであったが、「戦闘で戦うだけが戦いじゃない」といって、内政に目を向けさせたのは魔王なるちゃんだ。

 帝国と交渉し、予算をやりくりし、人を使って予算が足りなければ新製品開発をして増やし、魔物が出れば冒険者主体の狡猾な罠作成による市場開拓――、と、国を運営するために曲芸紛いの内政を繰り返してやっと安定したところ――、ではあったが、やはり派閥(リング)最強(ウエストエンド)(ラインズ)の一員であるのに攻撃系のスキルを取得していないというのは寂しいものである。

 それを魔王が察してくれたのだろう。

 本当は2つのクラスを同時に取得することが目標だということで、イナームのそのためにアイテム類を集めさせていたところだが、それよりも早く、持つだけで魔術師系のクラスが取得できるのであればほぼ目的達成といってよいだろう。


「ありがとうございます。これでみんなと一緒にと戦えます」


「そうそう、ついにあの人畜に有害な強大な魔物であるゴブリンが殺れる! やったねッ」


「う……」


 そう言われると及び腰になる。

 ゴブリンの凶悪で野蛮な行動は弱き人々にとって脅威だ。

 むろん上級の冒険者にとっては大砂漠の小石のような存在であったとしても、初級冒険者であれば2、3体同時にでてくれば手にあまるような存在だ。

 魔王たちがこの世界にやってくるまで、むしろ弱いのは人間の方であったと言っても良いくらいだ。

 なによりまともに風呂にも入らない、歯も磨かないゴブリンたちはボロボロの容姿でありなにより臭い。


「でも王女がゴブリン退治になんて行った日には大量の兵士たちに囲まれて、近づく前に完璧に殲滅されて、現地に着いたときには猫の子一匹いなくて狩り任務未達成、とかありそうで嫌かも?」


 そういって笑う魔王に、確かにとイナームは同調した。

 なにしろそのシーンが目に浮かぶように想像できるのだ。

 それは政争で鍛えた想像力のたまものかもしれない。


「あるいは、『くっ……、殺せ』って感じのゴブリンの子供が檻に入れられて、王女イナームの前に短剣と共に差し出されるとかかな?」


「それは、嫌だな――」


 イナームは王族であり、帝国の悪ぶった貴族などの悪趣味な行動というものも把握している。

 その中には魔物狩りというものも存在していた。

 魔物狩りとはいっても、貴族に万が一でも怪我を負わせないように細心の注意が払われた、とても狩りとはいえないような、それは虐待としかいえないような遊びだ。

 この場合、檻に入れられたゴブリンというのは、当然のように抵抗鎖でがんじがらめにされて、 くさい臭いとかもしないようにちゃんと洗われて、それなりの服きさせるだろう。

 そのお貴族様が汚い思いをしないようにだ。

 そして、そのゴブリンのお子様ぶるぶる震えながらゴブリン語で『おとぉさん、おかぁさん……、助けて……』とか言っちゃっているのだ。

 もちろん父母のゴブリンは冒険者によってすでに殺されている。


 そんな子供ゴブリンに対して短剣を振りかざす――

 一度もまともに「殺し」をしたことがないイナームにそんなことができるわけがなかった。


「でもこれ、コメント見てばわかるように明らかにスキルのテストをしてレポートとかあげないとダメな流れよね……。困ったなぁ……」


「別に攻撃目標を魔物にするのではなくて、まずは庭の岩とかでやってみるとかで良いのではないでしょうか? それにこの電波系魔法というのが、全て攻撃系のものであるとも限らないでしょうし」


「そ、それもそうよね。名前からいってネタ系オンパレードのような気がしないでもないのが不安だけど……、スキルもちょっと見てみましょうか」


 九藤鳴子はイナームにブローチを付けるように促した――

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