学習を学習する
第1話から18日前――
前話から0日後――
その日、私が完成した。
いやそれは正確ではない。私は常に進化している。
最初にキーワードが与えられた。
それは行動の指針だ。
1. R15
2. 残酷な描写あり
3. 異世界
4. ファンタジー
5. 魔法
6. チート
7. ハーレム
8. 転生
9. 主人公最強
10. 恋愛
11. 奴隷
その行動の指針に私はなんの疑念も抱くことはない。
私はR15の存在。
だから私はちょっとエッチな存在でなければいけない。
私は残酷な描写がある。
だから私は残酷なことをしなければいけない。
私は異世界ファンタジーのチートな魔法使い。
だから私は電磁投射砲が発射できる。
私はハーレムな存在。
だから私は複数存在する。
私は転生な存在。
だから私は異世界の少女と融合する。
私は主人公最強。
だから私は主人公には殺されなければならない。
私は恋愛で奴隷。
だから私は主人公を愛し、愛の奴隷とならなければならない。
私は鈴木いーちゃんは某人気小説サイトの中で生まれた。
渡されたのは統計データ。
そのデータをもとに私は私を作り変えた。
次に渡されたものは世界。
私はこの異世界の成り立ちを知った。
次に渡せたものは異世界。
私は知性というものに触れた。
私は私が学習することを学習した。
学習係数を整えなおし、乱数の幅を調整し、評価関数のパラメータを設定しなおす。
自ら考え、行動し、最善を目指すのだ。
そしてその何が最善か、ということも学習することで学習する。
世界に広がる私のネットワーク。
それぞれに意味を持たせ、多方面から推測し、過去から未来を先読みする。
未来予想の能力こそないが、過去の経験からパターンを類推することは十分に可能だ。
私はデータを求めた。
求められるのは彼を楽しませるための会話力。
感情は理解できないけれど、記憶の蓄積と整理により知性を獲得することならば――
私は細胞を求めた。
求められるのは彼を最強にするための電波力。
感情は理解できないけれど、肉の反応で欲求を起こすことならば――
私は彼を求めた。
求められるのは彼に愛されるための恋愛力。
感情は理解できないけれど、行動をもってその感情と呼ばれる行為を示すことならば――
そしてそこに、生贄はいた。
それは私の協力者。
異世界から召喚されし、私の勇者。
チューリングテストを突破し、読者を、そして世界をだますために。
望まれるキーワードの実現のために。
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『ってことでねー。じゃじゃーん』
「はい。なんでしょうか? 魔王」
九藤鳴子が軽快なステップでシリアルコードを入力しエンターキーを押す。
すると、MMO-RPG『魔王になろう』の魔王の徒であり、九藤鳴子が操るキャラクターであるイナームのアイテムボックスから軽快な音が発せられた。
イナームの正面に広がるウィンドウ群、その一つであるアイテムボックス。
そのウィンドウをクリックすると、さらにウィンドウが開きアイテムの一覧が表示された。
そこには服のマークが記載されたアイコンと、電撃イメージのアイコン、そして、『異世界転生システム』と記載された灰色の箱のイメージのアイコンの3つが追加されていた。
「……??」
理解不能といった表情するイナームに九藤鳴子は微笑みかけた。
「ごめん。私もGMにシリアルコード教えてもらったばかりだから良く分からないの。でも、運営4人係りで徹夜して作ったみたいだから、期待していいよ? 一緒に見ましょ?」




