堂々とやるならそれはステマじゃない
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第1話から28日前――
前話から1日後――
「いーちゃんの服どうしよう……、いーちゃんの服どうしよう……」
九藤鳴子は窮地に立たされていた。
九藤鳴子に友達はいない。
いや、正確には友達はいるにはいる。
しかしそれは学校の友人だ。
特に理系を選考した女子というのは非常に少ない、というか孤立しがちだ。
それなりの受験校に通っている九藤鳴子にとって、その少ない女子の中からさらにオタク趣味全開の人工無能やコスプレといった趣味に趣きがある友人、という制限がついた場合、結論として話し相手はいなくなる。
最近知り合った「いーちゃんの中身」は男だから期待はできない。
しかも彼にはいーちゃんの人工知能をお願いしていて、服担当を任されているのだ。
そういう意味では、「魔王になろう」のGMに対しても服のデザインについてはお願いされている立場なのでお願いし返すのは難しいだろう。
だからといって、「魔王になろう」SNSの自身の派閥のメンバーに相談するというのもだめだ。
キャラと他愛もない会話をすることをこのゲームの醍醐味としていた九藤鳴子にとって、他のメンバーと積極的に話すということはしていないし、メンバーとはいってもOFF会にも参加していない。キャラクター同士ではいざしらず、プレーヤー同士での特定の仲のよい知り合いなどもいなかった。
それに派閥には「いーちゃんの中身」がいる。
そこで「私服のセンスがないので助けて欲しいですぅ」とか泣き付いている姿なんてのを見せたくはなかった。
その他としては、既製品を買うという手もあるだろう。
実際、九藤鳴子が「いーちゃんの中身」と会うときに来ていたメイド服は池袋のコスプレショップで買ってきたものだ。
その線でもいいが、そうなった場合――
「絶対着てみてとか言われそうよね……」
もちろん、着てみるのもやぶさかではないのだが、かなり気恥ずかしいものがある。
だいたい「いーちゃん」の設定はロリだ。絶対に似合わない。
そうであるなら着ることができないイラストとかの方が望ましい。
だがその場合、最初の問題にぶちあたる。
「イラストなんて描いてもらえる友達なんてもっといないよ……」
九藤鳴子は自分で描いてみたこともあるのだが、それはそれは残念な出来であった。
だいたいお絵かきができるのならばヒトに相談するという発想はないだろう。
「ここは潔くインターネットのチカラを活用するしかない?」
九藤鳴子は手っ取り速く金の力でゴリ押しすることに決め、検索サイトで適当なキーワードを入れて探し始めた。
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ITを活用した外部資源の活用方法としては、大きく分けて以下の3つがあるだろう。
・クラウドコンピューティング (Cloud Computing)、
・クラウドファンディング (Crowd Funding)、
・クラウドソーシング (Crowd Sourcing)、
最初のクラウドコンピューティングは、インターネットが流行りだした古くからある活用方法であり、鈴木太郎が考えたP2Pの手法や、今ではSaaSといった手法もある。某有名小説投稿サイトとタイアップしているクラウドゲーム○(←○は伏字)といったホスティングサービスもクラウドコンピューティングの一つといえよう。
クラウドファウンディングは日本では聞き慣れないが、インターネットを使って多くの方から少しずつお金を募り、新しいサービスや物を開発して提供するような活用方法である。有名なのは東京にある暦を英語にしたような会社だろうか。
海外では相当高額なプロジェクトに使われているようだが、日本においては特別におしゃれなボトルに入ったお酒を造ったり、牛さんを一頭まるごと美味しく食べつくしたりするプロジェクト、などというのもあるようだ。牛さんの調達先として検討するのも良いかもしれない。
九藤鳴子が目をつけたのはクラウドソーシングだ。
クラウドソーシングとはインターネットを介して不特定多数の個人または企業にアクセスして、必要な人材を調達する仕組みだ。
要は絵師さんとかにコネがないヒトに企業が仲介してくれるシステムのようだ。
九藤鳴子は適当に検索して出てきた日本最大級とかいう触れ込みのクラウドソーシングサイトにログインすると、早速イラストの製作依頼を検討してみる。
「えーっと、まずはイラスト描いてもらうわけだから、『イラスト製作』でしょう? それから仕事方法? プロジェクト型と、コンペティション型と――、それにマイクロタスク型? よくわからないから一番安そうなプロジェクト型にして……」
プロジェクト型というのは相手を指定して製作期間や成果物を決めて文字通りプロジェクトとして開発を進めるもの、コンペティション型というのは東京の某オリンピックのエンブレムのようにあるきまった成果物を『提案』してもらってその中から選ぶというもの、マイクロタスク型というのは非常に簡単な作業による成果物を提出してもらう仕事のことだ。
低予算で想像性が必要なものとなれば九藤鳴子のようにコンペティション型を選ぶのが最も良い選択となる。
「タイトルは――えーっと…。『某有名シェフが女騎士にくっ、殺せって言っている感じの写真をください』って、そうじゃなくてぇ! あー。『自作小説に出てくる服を着たライトノベル風な魔法少女のイラスト』とかかな……」
それを決めると、次に概要とか特徴とか細かい設定を入力する欄が出てきた。
「概要ねぇ……、『某人気小説投稿サイトで書いている小説に出てくる『いーちゃん』を書いて欲しいです。白と黒がベースで金色がアクセントのゴスロリ巨乳系魔法少女服です。それを参考にいろんなところで使います!』とかかな?」
実際には魔王になろうの「いーちゃんなりきりセット」に使うのが目的だが、そこまで書いても意味が分からないだろうし、この程度の内容であれば大丈夫かな。と思いつつ九藤鳴子は適当に10日後納期とかで依頼を掛けてみた。
するとすぐに質問が返ってくる。
「Q:背景とか必要でしょうか?」
答えは「いいえ」だ。
九藤鳴子は背景を描いてもらうくらいであったら、服の方に注力して貰いたかった。
「Q:容姿とかの設定を教えて貰えないでしょうか?」
それは確かにないと大変だ。
九藤鳴子は「いーちゃんの中身」が書いた設定をがりがりと並べていった。
・絵に描いたような超絶美少女の電波系少女である。
・身長152cm。ロリ巨乳のティーンエイジャー18才である。
・長く艶やかで綺麗な黒髪セミロングで青く薄い瞳の帰国子女である。
・滑らかで美しく、雪のように白い肌である。
・薄く小さな唇は桜色である。
こんな感じだろうか。
他の設定に「電磁投射砲が撃てる」とか、「言われたことは断れない素直な性格」とか、「鈴木太郎の恋の奴隷」とか、わけの分からない設定があったが、容姿とは関係ないだろうとごっそり捨て去った。
しかしなによ恋の奴隷って、いやらしい。
「Q:ロリ巨乳ってことはやはり乳袋でしょうか?」
しらんがな。
九藤鳴子は額に青筋を立てながらも「どちらでも大丈夫です」などと当たり障りのない回答を返した。
そうこうしていると事務局から「提案がありました」というメールが大量に来た。
メールのリンクを辿ると速攻で製作されたイラストが表示される。
「かわいい……」
九藤鳴子は思いがけずうっとりする。
そうして提案されたイラストは最終的に57件にもなった。
どれもが可愛らしく、しかしコンペティション形式ということで一つを選ばざるを得なかった九藤鳴子は、その中でもっとも可愛らしいと思えるイラストを独断と偏見で一つ選んだ――
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「すごーぃ。なるちゃん、こんなイラスト描けるんだ~。天才技術者って広告塔だけじゃなくて、僕今度はイラストの発注もしちゃうのです?」
「いや、それはちょっと……」
そのイラストを魔王になろうSNSに投稿したときのGMの食いつきようはすごいものがあり、九藤鳴子はそのいきさつを自白せずにはいられなかった。
「でもなるちゃん頑張ってくれたんだし、僕も頑張っちゃおうかなー。リアルで服とかも作っちゃうのです」
「え……、それはやめて欲しいな……」
結局は作った服を着て写真でも撮られることになるのかと、九藤鳴子はそのお約束にため息を付くのであった。
参考:仕組みがいまいち理解できなかったので実際にやってみた。
http://ncode.syosetu.com/n5694cx/




