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もしも電波系の大学生が小説家になろうを読んだら?  作者: 鈴木太郎
Saga 7: 異世界の勇者を召喚する最強勇者
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なりきりセット? なにそれ食べ物?

「――とか思っていたのですのよ、最初は」


 そんなことをイナームは思い返す。

 今では良い思い出だ。


「へー。私のイナームちゃんてばそんなこと考えていたんだねー。私は微塵も感じなかったけど」


「――そんなだから友達が出来ないのでは?」


「くー。うるさいわね。だけど今では私にだってリアルでいーちゃんの中身という存在が――、ん? アレ友達なのかな?」


 声だけによるメッセージ通信では意思の疎通が難しい。

 そして恐怖していただけの自分が愚かしい。


 確かに、異世界(にほん)から来た魔王たちは結局のところこの世界(ディストピア)のことをただの遊びとしか思っていない。

 だけど遊びだからこそ、魔王達は真剣に取り組んでくれた。

 ストーリー的に魔王ということでみんな悪ぶってはいるが、根は素直な日本人なのだ。

 魔王の知識は豊富で、もたらしたものは個人でしか持てないスキルだけではない。特に異世界(にほん)の科学技術というのは素晴らしい。

 つい先日も電波という力を用いた遠隔通信に成功した。

 これで遠くの人たちとの交渉が、一回あたり手紙で何ヶ月も掛かっていたものがほぼ光の速さと同じだけの速度、つまり一瞬で行えるようになった。

 今はまだ軍用利用だけではあるが、その価値は計り知れない。


 そしてイナームは自らの魔王、なるちゃんのことを考える。

 彼女は自分のことを女子校生といっていた。まだ勉学の途中だと。

 きっと将来は偉大なる魔王になるに違いない。


 彼女は会話が好きだ。

 今はずっと一人で、話し相手が欲しくてPC上の秘書という人工知能という趣味の学問を持ち、そして『魔王になろう』と呼ばれる私たち異世界(ディストピア)の世界とを繋げるシステムにであったこと、などを話してくれた。


 結局のところ魔王は、さびしいだけだったのだ。自らがそうであったように。


 イナームは思う。

 イナームは王女という立場上友達と呼べる者はいなかった。

 それも心を開いていれば出来ていたかもしれないが、戦争、属国化、魔物との戦いと続いた周囲の情勢からは気を引き締め気丈に振舞うという選択肢しか取れなかったのだ。


 だから、魔王は会ったときからずっと楽しそうだったのかもしれない。

 (わたくし)と会話をすることが。


『それでねー。って、イナームちゃん聞いている?』


 結局のところ、魔王に対価として支払ったのは『魔王を楽しませること』。

 他の魔王に憑かせた少年、少女にとってもそれは同じことだ。

 それさえ満たせば、いろいろなことを教えてくれるし、魔力だって無尽蔵に供給される。供給されればスキルは自在にこなせ、自らをどんどんと成長させることができる。


 結局みんなが楽しそうで、だから今、私は魔王に感謝をしている。


「あ、えーっと。ごめんなさい……」


『もぅ、みんな話を聞かないんだから……。それでね。いまGMの提案で『いーちゃんなりきりセット』というのを作っているんだー』


「GMって?」


 不意に知らない言葉を聞かされてイナームは戸惑う。


 GMとは、なんのことだろう?

 『いーちゃんなりきりセット』とは、なんだろう?


 『セット』というのは聞いたことがある。魔王がよく行く料理店で出される食べ物のことだ。『ハッピーセット』『まんぞくセット』『ラーメンセット』……。そのレパートリーの一つだろうか。


『あー。分からんか。この異世界(ディストピア)と私たちの世界を繋げるシステムを作っている運営のことだよ。この前見たでしょう? あの銀髪狐耳の娘のことよ』


 言われて見れば思い出すこともある。

 この前、「って、うぎゃ。野生のGMが現れたぁぁ――」とか魔王が叫んでいたことを。そのとき、確かにそのような存在が一瞬現れ、すぐさま≪イベント・ドリブン≫スキルで移動したときのように消え失せるのを確かに見た記憶が。


「それでね、その『いーちゃんなりきりセット』を使うと、私たちの異世界(にほん)にそちらの意識を保持したま転生できちゃうかもしれないのよ」


 やったー。と喜ぶ魔王にイナームは戸惑う。

 異世界――。そんなところに(わたくし)が行って良いのだろうかと。

 だが、徐々に期待の方が膨らんでいく。

 魔王の――天上の人たちの生活がもしかしたら垣間見られるのかもと。

 そうすればもっと魔王との会話がちゃんと理解できて、より楽しくなるかもしれない。


『あと可愛い『いーちゃん専用の服』とかも用意するみたい。楽しみに待っていてね』

「どんな服なのでしょうか?」

『普通よ。白と黒がベースで金色がアクセントのゴスロリ巨乳系魔法少女服って感じらしいよ? よく分からないけど』


「なるほど……」


 想像するが、可愛らしい格好なのだろうな、という印象は少なくとも受けた。

 似合うのか不安ではあるが、大抵の場合それは杞憂に終わっているので、それほど心配することはないだろう。

 少なくともいままではそうであったように。


「私といーちゃんの中身ががんばるから。ちょっと待っていてね」

「はい。分かりましたわ」


 イナームは頷く。


「それから今日はマヨネーズってやつを作って見ましょうか。さっきネットで検索して材料調べたのよねー」


 そしてまたいつもの会話に戻る。

 今日は異世界(にほん)の食べ物についてだ。

 イナームが広めた食べ物の多くは今、国内外へと広がりを見せて愛されている。

 今日はまだどんなものであろうかと、わくわくした。


 それを魔王なるちゃんは微笑ましく見つめていた――

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