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もしも電波系の大学生が小説家になろうを読んだら?  作者: 鈴木太郎
Saga 7: 異世界の勇者を召喚する最強勇者
21/40

脱いだらすごいんです

 第1話から32日前――

 前話から30分後――


 OFF会の会場――といっても3人しかいないのだが――であるそのレストランはいわゆる個室があるデートとか接待で使われるようなちょっとお高そうなイタ飯屋ではあった。が、GMのお金(けいひ)ということで鈴木太郎と九藤鳴子は奢られることになった。

 しかし中二女子におごられる大学生と女子校生の姿というのは実にシュールである。


「えぇーっと。とりあえずそれ取りなさい」


 九藤鳴子は鈴木太郎の頭を指差す。

 そこにはいまだに狐耳のカチューシャがあった。

 GM(ようこ)はちまちまと動いて鈴木太郎の腕をとる。


「えー。僕とおそろいで良いのです」


 そうして腕を組みながらその小さな胸を張った。可愛い。


「そりゃ、言い出したのは私だけどさぁ……、これは流石にないわ。GM(ようこ)は可愛いけど。でも男がしたらHENTAIそのものだわ。それにGMのその格好はナニよ。もろ狐巫女さんコスって……。まさか家からその格好で来たの?」


 呆れた顔のなるちゃん。

 それに対しGM(ようこ)は手をひらひらさせる。


「さすがにそれはないのです。直前にコートは脱いでコインロッカーにぶちこんだのです」

「くっ……、○学生に美意識で負けるなんて私最低だ……」


 コインロッカー代もばかにならないのにおしゃれに気を使い始める女子の思考は分からんと鈴木太郎は思う。

 しかしGM(ようこ)も脱いだら巫女さん系だったのだな。鈴木太郎も脱いだら裸ネクタイとかネタを考えてみたが、数秒もたたずに却下した。うん。それは完全無敵なHENTAIさんだね。もしかしたら勇者と呼ばれるかもしれない。


「でも、なるちゃんも脱いだらすごいんでしょう?」


「え。いや……。まぁ。だって撮影とかいうし……」


 恥ずかしそうに頬を染める九藤鳴子に鈴木太郎はニヤニヤするのを抑えられず、思わず電波を発射しそうになるが思いとどまった。


「そこ。気持ち悪い笑みを浮かべない! で、例の約束はちゃんと守られるのでしょうね?」


「えーっと、ゲーム内(ヒストリカル)アイテム(ブラック)のこと。ナニが良いのです?」


「デュアルスキルの習得よ」


「却下です」


 デュアルスキルというのは、MMO-RPG『魔王になろう』の魔王の徒(キャラクター)が、一つの職の他にもう一つ新しい職を持つことができるというシステムの名称だ。たとえば現在の職が剣士(Sword Dancer)であったとき、新たに精霊魔術師(4th user)を習得するようなことができる。


「えー。けちー」


 口を尖らせる九藤鳴子だったが、GM(ようこ)はそのさらに斜め上をいっていた。


「そんな後で開放して誰でもできるようなことに使っても仕方がないでしょう? ゲーム内(ヒストリカル)アイテム(ブラック)はもっと大きなことに使わないと。たとえば超強力な拳戟魔術が使える四十八都道符拳とか……」


「そういう意味か……、もっとデタラメな力が得られるというわけね」


「力というか、実装というか……。みもふたもないけど」


 言われて九藤鳴子は納得すると考え始めた。

 鈴木太郎は九藤鳴子のコートをいかに脱がそうかと考えて個室のクーラーの室内温度設定を2度上げた。


「なら、『いーちゃんなりきりセット』とかちょうだいな」


「『いーちゃんなりきりセット』?」


 GM(ようこ)が頭を傾げる?

 何のことか分からないようだが、鈴木太郎には心当たりがありすぎた。


「そう、『いーちゃんなりきりセット』。私たちで作る人工知能と『魔王になろう』の自キャラとくっつけて意思疎通させれば、自キャラちゃんとこっちの世界(にほん)の世界とくっつけて、こっちの世界(にほん)のこともお話できたら嬉しいなって」


 MMO-RPGでもこっちの世界(にほん)の話とかしたいって、こっちに女友達とかいないのだろうか。

 ……。いないかもしれない。だからPC上に秘書を作るとかいって人工知能に走るっているのだろう。

 鈴木太郎はそのあたりに突っ込みを入れると地雷を踏み抜きそうだということに気づいて考えないことにした。


「えーっと、じゃぁ従来通り性格とかはシステムとリンクするとして、いーちゃんの容姿とかは? 魔法のアイテムだから魔法のステッキを持って特定用語を叫ぶと変身

セットだから『変身』とか叫ぶと変身バンクスキルLevel.5につないでこっちの世界(にほん)が理解できる魔法少女になれるとかならいけそうかも。それで服装とかは?」

「えーっと……」


 畳みかけるGM(ようこ)にたじろぐのは九藤鳴子だ。言ってみたもののあまり考えてなかったらしい。

 だがそれもすぐに復活する。基本的には鈴木太郎が設定した通りだが、知らない間にガールズたちが勝手にいーちゃんの設定を決めていく。

 そんな九藤鳴子とGM(ようこ)に、鈴木太郎は自らの娘が嫁いでいくような寂しさを覚えた。

 あぁ、某シューティングゲームに登場したキャラが読者によって勝手に設定付けられていくのを眺める作者の気持ちとかこんなんなのだろうか、と鈴木太郎は思った。


「で、作品のキーワードが異世界ファンタジーだから、3Dプリンタで製造された異世界の少女がこっちの世界(にほん)に転生して来て生卵とか納豆食わすとか、科学技術文明に触れさせてビビらせるとかいろいろやりたいわけよ」

「うーん。確かに面白そうなのです。魔法体系としては電波系魔法(Radio wavers)とか新設するとかも面白いです? ネタいっぱい仕込めそう」

「え。新たに職業(クラス)まで新設するの?」

「そうなったら、そのうち他のユーザーにも公開すると思うから独占はできないけどね――。そのくらいしないと対価にあわないのです?」

「対価?」

「写真を取って天才AI技術者としてデビュー計画とか?」

「あー。あれほんとにやるの?」


 GM(ようこ)は無言でデジタルカメラを取り出した。

 なんかごついやつだ。

 どこから取り出したのだと鈴木太郎は思ったが、それはスポーツバックからだった。


 GM(ようこ)はのりのりだった。


「なにそのゴツイのは……」

「えー。だって『魔王になろう』の広告塔だよ? 面白くない? どうせ知り合いとかはやってないのだし大丈夫だって。じゃ、このSDカードを刺してもらって……。はい。脱いでー」


 GM(ようこ)はカメラを手にとると九藤鳴子に「脱げ」と促した。

 鈴木太郎はいやが上にも盛り上がった。


「そこ! 視線がいやらしいぞっ」


 九藤鳴子がコートを脱ぐとそこはメイドさん服だった。

 恥ずかしげに顔を赤らめる美少女だ。

 さらにメガネをとるとその可愛らしさがワンランクアップする。

 まるでトンネルを抜けると雪国であったような感動を鈴木太郎は得た。


「あれ? 学制服じゃないの?」

「さすがに特定されるから無理よ」


 さすがに身バレはやばいよね。と続けるのは九藤鳴子だ。

 そういいつつ、GM(ようこ)は写真をぱしゃぱしゃと撮りはじめる。

 鈴木太郎はそれもそうだなと頷いたが、制服姿も見てみたいなぁ。などと思う。


「はい。3回転してニコやかにポーズして!」

「それになんの意味が……」

「3回まわって、わんと可愛く唱えると得たデータで3Dモデルが作れるのです」

「わんは意味ないんじゃ……」

「どうしよう、バレてしまったのです」


 そんな感じで撮影を続ける九藤鳴子とGMを鈴木太郎は終始ニヤニヤと眺め続けるのであった。

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