(エピローグ)一般的なライトノベルなら開始3分以内にヒロインが脱ぐ
基本的に理系に来る大学生というのはロボットアニメにあこがれて――、だとか、アニメやゲームが好き過ぎてー、だとか、鉄が好きだー、だとか、土曜と木曜だけ工事すれば後は遊んでいられるとかなんて理想の環境だろ――だとか、そういう一種のこじらせたオタクの巣窟なのであり、オンナというものには無縁の環境で純粋培養される、なん○クラスの特殊な民族である。
そういうオタクな人たちというものは、大抵の場合、おんなの娘を求めてリア充に走ったりだとか、アニメやAVで萌えたりだとか、それとも現実逃避の果てに至高のプログラマになったりするものである。
そんな一般的な理系のオタクである鈴木太郎は、無線従事者規則第46条の規定による無線従事者免許申請書の記入例にも登場する由緒正しき電波系の大学生である。人呼んでマッドコンピューターさま。
今は立派なプログラマである彼の家庭は、一般的なライトノベルでありがちなように暗い。
まず気づいたときには母はすでにいなくなっていた。外国にアメリカンドリームを求めて旅立っていったのだ。
さらに彼が小学生になっとき父もいなくなっていた。父はBRICsがうちの一つ、かの国に新天地を見つけ旅立っていったからだ。
一般に言われる各国の性格――、ジャパンクオリティ、チャイニーズコスト、そして、アメリカンドリーム。
父は日本と比べ低いクオリティに苦しんだようであったが、日本人たるまじめさが受けたのかどうなのか、信頼されたのかどうなのかは分からないが、とにもかくにも見事に事業に成功しており、そして見事にハニートラップに係り離婚するに至った。
母についてもアメリカンドリームを掴んだようで、見たことはないが1つ違いの隠し妹がいるらしい。
そんな感じでいい感じに崩壊している家庭ではあったが、今までずっと一人であった鈴木太郎にとっては両親からの仕送りが十分にある状態であり、きままな生活が送れるといのは楽園といっても良いであろう。これで彼女でもいるのなら。
だがそう、彼女のいないこの状態なら一般的なライトノベルよろしく女の娘が家にあがりこんだ、なーんてサプライズイベントがあったところでなんの問題もない。たとえそれがジャパンクオリティの超絶美少女であったとしてもだ。
鈴木太郎は送られてきたその大きなダンボールに手をかけた。
それはバイオ3Dプリンタで出力されたらしいその中身の正体とは?
ま、どうせネタなんだがな。そう思いつつも段ボールを開いた鈴木太郎は目が点になった。
そこには、一人のそれっぽい感じの美少女が全裸で拘束されていたからだ。
「って、なるちゃん。なにやってんの」
「ふがふがふー」
ガムテープで口元を封じられている彼女は喋ることができない。
しばし鈴木太郎は観察後、盛大に呆れた。
「しかし気合い入ってるなー」
そして上はガムテ、下は前バリである。
なんて読者想いなのだろう。これならラノベ表紙でもなんとかなるかもしれない。可愛い女の子のイラストだけで表紙買いするなんてことはザラだ。それが全裸であれば完璧であろう。
とりあえず、顔だけはなんとかしようと鈴木太郎は口元のガムテープをはがす。
とりあえず、弁明の余地はあろう。
「――で、なるちゃん。なにやってんの?」
「えーだってぇ。すっごく期待させて申し訳ないのだけれど、やっぱり3Dプリンタで女の子製造って無理じゃん? 臓器やら骨とか肉ならできたけど」
「できたのかよ」
「そう、できてその技術売ったら6桁円以上のー。じゃなくて、どうにも脳がダメだったのぉ。だからお詫びにこう……」
「いやいや、それでお詫びに全裸で男の家に郵送で送られるとかありえないでしょう?」
「えー。うけると思ったのにぃー」
「ほほぅ。いくら鈴木太郎さんが電波系でもどん引きですよ、どん引き」
「大事なことなので2度いいましたね」
まぁ、女子校生の裸が拝めるならば複眼ではあるけどな。
それを言うと変態扱いされそうなので鈴木太郎は黙っておいた。
「ということで、まずこの手の拘束を外してよ」
「さて…、どうするかな……」
「ちょっと、まさかあなた……」
微妙にノリノリのこの少女、九藤鳴子をどうしようかと鈴木太郎は頭を悩ませた。
女子校生拉致監禁事件か。彼女はギャグでやっているのだろうが、毒を食らわば皿までいくしかないのだろうか。いや、ここは据え膳食わねば男の恥という格言もある、と微妙な格言集が鈴木太郎の頭を走馬燈のようによぎる。
ちなみに彼女の名前の頭に「魔」を付けてはいけない。マジ殺されます。
「外さないと、私死ぬわよ」
「え……」
その数秒後、鳴子は、死んでいた――