Gemini
流れ星が見えた。
「会いたい」
願った。
[I still can't say Good-by]
『双子座流星群のピークは、――』
テレビから聞こえる声。
僕はカーテンを開けて外を見た。郊外にある自宅からは、よく星が見える。
窓を開ければ、冷たい刺すような風が入る。12月の冷たさはやっぱり堪える。
だけど冷たく澄んだ空気が、星空を綺麗に見せて。
シュッ、と空が割れる。線は直ぐに黒い空に溶けた。
「あ、」
見えた。
思わず口角が上がってしまう。流れ星なんて、あまり見ないから。幸せを少し貰ったようで嬉しくなる。
Twitterを開いて、『流れ星見えた』とツイートする。タイムラインに流れてくる、幸せの報告。
『好きな人と一緒に見れた』
そんな呟きが羨ましい。
見ているだろうか。大好きだった彼女も。同じ流れ星を見て、何かお願いするのだろうか。
「会いたい」
ゆっくり目を瞑って、息と一緒にそう吐き出した。
涙は出ないけど、寂しい。隣で流れ星も、クリスマスツリーも見れないなんて。
でもきっと彼女の方が辛かったから、僕は何も言えないし思えない。ただ伸ばせない腕がもどかしい。
強がりな彼女が僕の前で泣いたとき、僕らの関係は変わってしまった。
「待てない」
そう言って、涙を堪えずに言葉を詰まらせた彼女を、僕は抱き締めるしか出来なかった。
僕も彼女も、限界だった。お互いが好きで、お互いが大事で。
「ごめんね」
僕は手の冷たさと震えを悟られないように隠した。彼女は小さく震えていたけど。
たった一年弱、僕らは楽しいことも辛いことも知った。
その手を離すには、だいぶ勇気が必要だった。やっぱり僕より彼女の方が強い人。
「ありがとう」
そう言って終わった恋は、僕を過去に縛り付けて離さないんだ。
もしかしたら、と後ろを振り返っても何もないのに、ずっと後ろを気にしている。前に進むことを疎かにして。
はあ、と吐き出した息が白い。冬を実感する。
一人で流れ星なんて寂しいにもほどがある。
でも星空から目を離せなくて、願いたいことは沢山あって。
欲を言えば彼女に会いたい、また一緒に笑えたらいいのに。そうは思うけど、やっぱり彼女が幸せになってくれればそれでいい。新しい恋をして幸せになって。次は悲しんで、一人泣いたりしないように。
気付いたら日付を跨いでいて、より多く流れ星が見えるようになったと思う。
「ありがとう」
だけどまだ、この終わった恋を手放さなくていいよね?
寒いからと上着を着込んでベランダに出る。
思ったより見える星空に、田舎で良かったなと感じた。
いつもそこにあるのに、普段夜空を見上げないからその美しさが分からなくて。見てるだけで癒されることに改めて気付く。
夜風の冷たい乾いた匂いを吸い込む。懐かしい感じ。幼少期を思い出す。
でも一番頭に浮かぶのは、こないだ別れた彼のこと。
こんな季節に、隣で遊び疲れても尚はしゃぐ姿を見ながら、夜道を帰ったっけ。目を閉じれば、鮮明に思い出せる。風の優しく撫でる感覚も、目を細めるほど煌めくイルミネーションも。
だけど目を開けても彼は居ない。去年見たイルミネーションも見えない。
「本当は一緒に見たかったなあ」
友達は彼氏と見ると自慢していたっけ。良いね、と相槌を打ちながら友達を傍観していた私も、本当は彼と見たかった。
一緒に居て辛いから、私の我が儘で別れたのに、何で別れちゃったんだろうなんて。そう思う私が少し嫌になる。
線がオリオン座を縦に裂く。おんなじように、私たちは見えない何かに間を裂かれたのかな。
だけど流れ星はあまり尾を引かずに消えていった。
お願いなんてしてる時間なんてないくらい早く。
「会いたい」
願いが叶うなら、一度だけ。もう一度あの温もりの隣に居たい。
「好き」
同じ星空を見ているなら届いてよ。流れ星にでも乗っかって、さ。
綺麗だね。私は見てるよ。君も見てる?願わくば、君がずっと元気で、私の大好きな笑顔を絶やさないように。
それだけで今はいいや。欲張りすぎるのも良くないから、ただ彼のことを考える。
「ありがとう」
だけどまだ、この温もりの残った愛を持ち続けてもいいよね?