6th 俺とエロゲ
ーー飛びかかった。俺は桜音たんに飛びかかった。ーー当然だ。ひきこもりでニートとはいえ俺は男だ。男児たるもの、桜音リミたんを見たら瞬速で飛びかかれるよう普段から鍛練しているものだ。ーー桜音たんっ! 今いくよ、君のカレシが!!
ーー俺は、俺が描いた軌跡は不完全。俺は放物線の途中でフローリングの床に叩き落とされた。不憫なゴキブリのように、餌をもらい損ねたアフガンハウンド犬のように! ーーああ、桜音、たん・・・、俺の桜音たん・・・。
「桜音たんハァハァ、俺とプロレスごっこを今すぐしよう・・・、子どもは三人がいいな、女、女、女。三姉妹だ・・・、三つ子もいいな、可愛いお洋服を着せるんだ・・・、ああっ、桜音たん!!」
「ーーキモッ」
妹の氷のような視線が俺を見下ろしていた。氷点下だ。絶対零度だ。すべての気体は液体になるーー。
◆
「・・・というわけで、メイドに桜音だか何だかのコスプレをさせてみたワケ」
「お楽しみいただけましたでしょうか」
説明する妹と、無表情のまま首をかしげて問うメイド。オプション・パーツの桜色の長いツインテールがさらさらと揺れた。人工の合成毛髪だということが判っていてもなお、それにときめく。一方の俺は、土下座のポーズで固まっていた。なんてことだ・・・! 俺の桜音たんが幻だったなんて。
「もう俺は生きていけない・・・」
「元気を出してください、ご主人様。何でしたら私の中に出していただいても」
「何をだっ!!?」
叫んだ。俺は叫んだ。もう、いいんだメイド。桜音たんはただのバーチャル・アイドルだ。わかってる、わかってたさ、そんなことは彼女に出会った時から。でも、俺はいつしか彼女を愛してしまっていたんだーー
「・・・わかるか、メイド」
「わかりますとも、ご主人様」
メイドが、俺のハナミズをハンカチで優しく拭いてくれた。妹が冷たい目で見ている。--あれだ。ケダモノを見下ろす目だ。
宿題やろーっと、などと言いつつ、自分の部屋に戻っていく、妹。なんてことだ。兄は完全に見捨てられた。ひきこもりでニートでウツ病なのに。そんな兄を見捨てる妹なんて素敵。
「・・・ふむ」
精神科でもらった薬が効いてきたようだ。気分はすこぶるいい。何かをしようという意欲が湧いて来た。・・・よし。
俺は以前買ったまま積み上げていたディスクのひとつを手にとると、パソコンのディスク・ドライブを開けた。
今はメイドは一階で、妹の宿題を見ている。そんな機能があったなんて初耳だった。ロボットなのに。なんで国語の宿題を見ることができるんだろう。
俺はエロゲをインストールした。