4th 俺とスクラップ
スカートの中には神秘が詰まっている。
それは漢たちが赴く神の館、永遠の楽園なのだ……。
こんにちは、俺です。
今日はメイドに朝からバックドロップをくらいました。相手の胴体をがっちりホールドして持ち上げ、有無を言わさず頭ごしに反り返って投げ落とす、恐怖のプロレス技です。俺は今日、ひとつ賢くなりました。
生きてお昼を迎えたかったらメイドは怒らせちゃいけないーー、モーニング・コールから三秒以内に起床し、廊下に直立不動でスタンバイし点呼を待つべきだと。サー! Yes,sir! 本日も晴天であります! 我が麗しのメイド様、ご機嫌は如何でありましょうか!!
「……ご主人? 日記ーー、ブログでございますか? 私生活を全世界に発信しようだなんて、ニートが大それたことを考えたものですね、フッ」
ーー鼻で笑った。メイドロボーー、我が親愛なるメイドロイド嬢は、鼻呼吸をする必要のない無機物(厳密にいえば部品には有機化合物も使用されているらしいけれど)のくせに、あろうことか、ご主人様をーー、俺を、笑ったのだ。これは万死に値する。
「ーー、スクラップだ」
「廃棄でございますか。しかし、ご主人様サイズの有機物をボストン・バッグに入れまして廃棄いたしますと、人体ーーつまるところ、死体遺棄に間違われる可能性がございます。動かぬよう、練炭とガムテープで処理致してから廃棄致したいと存じますが、ご了承願えますか?」
「……どこのメイドロイドがご主人様を死体遺棄するんだよ」
「モノならば人に仕えて当然という昨今の風潮には、嘆くばかりでございます。道具ならば人の役に立てて嬉しいだろうなど・・・、サディストの発想でございますね。ところでご主人」
「なんだよメイド」
「履歴書のほうはご記入されましたか? 封筒の準備はこのように万端でございます」
ぴらっ、
がしがしと頭をかく、俺。
「……ダメだ」
「……ダメでございますか」
「ひきこもり五年、自宅警備一級、風呂の素潜り士資格、目玉焼き作成師三級、フィギュア作成技能検定二級、プラモ組み立て検定二級・・・、俺は駄目な奴だ」
「駄目でございますか」
「……ああ、駄目だ。もうしのう」
「……。」
「……止めないのか、メイド」
「本製品に、そのような機能は付加されておりません。下記サポートセンターにお問い合わせになるか、サイトより追加オプションをご購入下さい」
声優さんの演じる、リアルな肉声が無機質に告げた。・・・駄目だ、精神科に行こう。