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2nd 熊と俺

 第1話と設定が変わっているといういい加減ぶりですみません。

 第3話は未定であり、このまま更新されない可能性が99%です。

「自分の今日も救えない人間がどうやってセカイを救うのよ」


 妹の言葉が脳裏でよみがえる。

 ーー分かってる。分かってるさ。


 世の中にいるのは勝ち組と負け組と「普通の人間」。本当の勝ち組は「普通の人」たちだ。


 冒険に出ることもない。路頭に迷うこともない。

 ただ、社会の中核を、生きている人々だ。

 勝ち組を憧れの目で眺め、負け組をさげすみ、そして漫然と日々を生きている人たち。生きられる人たち。


 ーー俺は、負け組だ。

 同級生たちが乗っていった列車に、俺は乗り損ねた。


 たとえ次の列車に乗ったって、俺はもう、追いつけない。

 同級生たちが先の列車に乗っていった後ろを、ただ黙々と歩くだけ。


 俺は、そういう人間だ。


   *


「・・・ここ、どこだ・・・?」


 柔らかく冷たい土の感触と、脳髄がしびれるような新鮮な緑の匂い。辺りに生えているのはブナだろうか。青々と茂った葉は俺の頭上を多い、視界を閉ざしていた。


 俺は立ち上がり、きょろきょろと周囲を見渡す。


(とにかく、人のいるところまで出ないと)


 俺は歩き出そうとした。

 その、一瞬。


「きゃぁああああっ!!?」


 絹を裂くような悲鳴、というのだろうか。俺の耳を貫いたものは。


(な、なんだ・・・!?)


 葉の揺れるざわざわという音がだんだん大きくなり、俺のいるほうへ近づいてくる。


「--ッ!!?」

「ゃあああああ!!!」


 悲鳴を上げつつ突っ込んできた何かは俺の腹に頭突きをかまし、下り斜面だったことも手伝って俺を吹き飛ばし、それ自身もバランスを失って斜面を滑り落ちた。


「・・・っな、なんだ・・・?」


 俺の胸元に、ふにょっとした柔らかい感触と、冷たい肌触りがある。--ん? 肌触り?


 俺の目の前には一人の女の子がいた。白を基調にした衣服と、左右で二つに分けて、高い位置で結んだ栗色の髪。顔立ちはまあ、普通ーー。


 年齢は、俺よりだいぶ下・・・、そうだな、年の離れた兄妹くらいだ。

 澄んだ湖みたいな青い目は、彼女が日本人ではないことを物語っていた。


 彼女はしばらく俺をまじまじとーー驚いたように眺めていたが、やがてはっと我に返り、後ろーー彼女が来たほうを怯えたように振り返る。


 そしてばっと立ち上がると、--再び悲鳴を上げつつ、斜面を駆け下り始めた。


 ーー俺は無視かッ!!?

 彼女の澄んだ声が、俺の耳に届いた。


「--逃げて! 逃げてください! モンスターです!!」


 言いながらも彼女はどんどん逃げていく。もう俺との距離は100メートルはあるだろう。


 ボーゼンと佇む俺の耳に、再びがさがさと、葉を掻き分ける音が聞こえた。

 ーー熊だ。


 ーーいや、違うのか。

「・・・う」


 俺は熊を見据えたまま後ずさる。

「ぎゃおぅ?」


 熊は可愛らしく鳴き、首をかしげた。

「うう・・・」


 俺はーー


 突如、周囲に爆音が響いた。


 熊が、苦痛にうめき、そして背後を振り返る。


 硝煙が晴れると、そこにはアサルトライフルを構えたメイド服姿の黒髪の娘が立っていた。

「--メイド」

「私のご主人を昼ごはんにとは良いご身分だな、熊」


「ぎゃおうっ!?」

 背中を負傷した熊が、メイドに襲い掛かる。

 俺は思わずーー目を閉じた。


 再び響く連続した炸裂音。

 硝酸塩を含んだ独特の煙臭。


 どう、と倒れる熊。その口に銃口を押し込みトドメの一撃を放つメイド。


 それらがすべて終わったとき、腰の抜けた俺の目の前には、赤い返り血を浴びたメイドが手を差し出していた。


「--ご主人、怪我はないか? 舐めてやろうか?」

「い、いらない! だ、大丈夫だよ。驚いただけで・・・」


「ハン、この程度の動物からも身を守れないとは、私はずいぶん情けないご主人を持ったものだな」

「う・・・」


「気に病むことはない。事実は事実ーー変えたいと努力しなければ、事実は事実のままだ。分かるな、ご主人」

「・・・うん」


 俺は立ち上がると、ズボンのひざに付いた土を払った。


「それにしてもここは・・・どこ?」

「ご主人様はいつも願っていたではないか。異世界に行きたい、世界を変えたいとな。あのサイトは何でも願いを叶えてくれる。ご主人の願いを今回、叶えた。それだけのことだろう」


「で、でも、ーー困るよ。戻れないと」

「ご主人はあの現実の中に戻りたいのか? 負け犬とさげすまれ、ニートと呼ばれるあの社会に」


「・・・ッ!!!」


 俺は唇を噛み、俯いた。自分のはだしのつま先が目に入り、その下の柔らかい地面が視界に入る。

「・・・それでも、平穏だ。少なくとも、自分の身が危険にさらされることはない」


「・・・ほーう?」

 顔を仰向けて、俺を見下ろすような角度で、メイドはわらった。


「ご主人は賢明だな。賢いご主人を持てて私は幸運だ」

 ふん、と鼻を鳴らしてそんなことを言う。--まったく。


「・・・とにかく、人のいる場所に出よう。・・・さっきの女の子は大丈夫だったかな・・・?」


「ご主人よりはよほどたくましいと思うがね」

「・・・はいはい」

 そんなことを言い合いながら、俺たちは山を降りて行った。

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