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誰が何と言おうとも

作者: INO


……どこかにありそうなほのぼの話を目指して挫折しました……。(←オイ)





「貴方のご主人、犬好きよね」


ご近所のお姉様方(若干表現が間違っていようが、女性はある一定年齢を超えたら永遠の”お姉さん”らしい)は、皆、己の亭主をそう思っているらしい。

生まれた頃から、この地域のアイドル状態だった夫は、早朝と仕事から戻った夕方と雨の日も風の日も台風だろうが大雪が降ろうが愛犬の散歩紐を片手に欠かさず行く。連れ歩く犬が何度代替わりしようとも昔から風物詩状態だったようだ。

義母いわく、彼が進学のために実家を離れ地元就職のためUターンしてくるまでの数年を除きそれが途切れたことはないそうだ。

そういえば、新婚旅行も、行ったことのない遠方へ行ってみたいと言う私に対し、彼は旅行自体を渋った。

原因は言わずもがな、お犬様だ。

義父母は一生に一度のことなんだから、数日くらい任せて言って来いと言ってくれたが、物心付いた頃からのライフワークに対して何か譲れないものがあったのだろう。

結局『苦肉の策!』と、早朝の散歩を済ませた後急いで出かけられ夕方の散歩までに戻ってこられる日帰りの場所を、結婚休暇の間何箇所か行こう、という私の提案に彼は喜んで頷いた。

これは義父母だけではなく、私の両親や友人たちも「そんな新婚旅行聞いたことない」とあきれ返ったが、実弟だけは何がツボにはまったか腹を抱えて爆笑、目尻にういた涙を拭いながら「やるね、義兄さん。グッジョブグッジョブ」と彼を称えたのだ。称えるなら、まずそんな彼を許した私を称えろ。

基本動物は種類を問わず好きだが、犬よりは猫が好きな私にしてみれば多少の不満はあったが、犬に罪は無い。あるなら、夫の思考回路にだ。

最初が肝心とはよく言ったもので、それ以来、我が家は泊まる必要のある旅行に行ったことはない。

それに関しては、多くを語るまい……。



「猫なら、家のなかだけもできるのにね」


先ほども言ったが、私は猫派なのだ。

もちろん犬も好きだが、猫とその他の動物に対する『熱』は、多分比較にならない。

実家には猫がいる。

私の両親は、犬も猫も好きだが、毎日犬の散歩をしてあげられるほどの甲斐性がないと公言して、飼うなら猫の人たちだ。

さらに、我が家に縁あって来る動物は猫、縁日の金魚、猫、猫、猫。なぜか猫しか縁が無かった。

父は昔、犬を飼いたかったらしいが、狭い実家で犬はさすがに無理だったらしい。

しかし、実は可愛い物好きな父は、実際飼いはじめてみると猫の柔らかく愛らしいしぐさにあっという間にノックアウトされたそうな。(母談)

だが、子供たちの手前、その姿を子に見せるのをよしとしなかったらしい父は、あまり猫にかまわなかった。(父が飼い猫を文字通り猫可愛がりしている姿をみたのは、私が家を出てからだった。さすがにショックだった……)

その分、我が家のお猫様は父のツンデレな愛情を一身に受け、ゴロゴロニャンニャンとその愛を還している。

そ、それがうらやましいなんて、思ってないんだからねっ。


「無類の猫好き」と、誰かが私をそう呼んだことがある。

だが一言言わせていただく。

それは世の猫好き様方に失礼だろう!

そう、例えば、己の目の前で、コロコロと転がる愛猫にキラキラと目を輝かせているこの人とか……。

だから、私程度、猫好きとは認めても『無類』までは行かないはずなんだ。


……はず、なんだ。






犬の鳴き声と玄関の開く音に、私は夫が外から戻ったと知り、台所から玄関に向かって顔を出した。


「おかえりなさい」

「おう……」


しかし、帰ってきたものの、玄関から動く様子の無い亭主に、私は首をかしげた。

いつもなら、整備士特有の油が染み付いたつなぎをさっさと脱ぎたいと私の迎えを待たずに風呂場に直行するのに。


「どうしたの?お風呂できてるよ」

「うん……」


散歩紐を定位置に戻しながら、何かを隠すように、どことなくこちらに向かって背を向けている


「何かあった?」

「いや、別に……」

「何か隠してるように見えるのは私の気のせい?」

「何も隠しては……」


元々口数も会話も多くない私たちではあるが、明らかに何か変だとは思うから、少し突っついてみるか。


「じゃぁ、なんでこっち見てくれないの?なんか疚しいことある?あ、まさか私に隠れて女にあってたとか……」

「何でそうなるんだ」

「だって、この界隈、貴方の幼馴染さん、美人さんばっかりだもの。散歩の合間についクラ~ッと」


そうなのだ、特に二件隣の幼馴染さんはものすごく美人で独身だ。

近くのおばちゃんネットワークにて『最近、散歩してるお宅の旦那さんに話しかけてるらしいわよ』というありがた~くもない情報だって入ってきている。


「私はよくわからないけど、昔なじみって、恋人とか嫁とかとまた違うらしいし。それに加えて初恋の人なんてきたらそれこそかつての熱が再熱って……」


「ち、違う!断じて、絶対無い!そもそも何だよ初恋の人って!」


私の(一応、半分冗談込みの)言葉に、あわてた彼は一瞬ためらうような振りを見せたが、いきなり私の目の前に何かを突きつけ、一言こうのたまった。


「み、土産だ……」


ミィ~!

ワフッ!

首根っこをつままれたその『土産』は、首根っこだけ摘まれぶら下がった己の処遇に抗議するかのように甲高く鳴き、偶然にもそれに応えるかのように外にいる老犬が一鳴きした。

ずいぶんかわいい『土産』だこと……。



こうして、我が家はさらに旅行に行けない……いや、行かない家になった。


行けないと行かないの間には大きな開きがあるのだ。

これはこれで、ひとつの家庭の形であろうと、私はすでに受け入れていたのだ。

私がそれに気がつくまでに、しばらくの時間がかかったが。




「無類の猫好き」


いつか、誰かが私をそう呼んだ。

だが一言言わせていただく。

それは世の猫好き様方に失礼だろう!

そう、例えば、己の目の前で、ニャンニャンコロコロと転がる新しい家族にキラキラと目を輝かせているこの人とか……。



近所の奥方様に見せてやりたいわ、まったく。





うまく表現できない己がうらめすぃ……。

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