朱~あかいいろ~
崩れた建物
がれきの山
流れた朱は黒くなり。
黒は穢れを落としながら、天に昇っていく。
おびただしい亡骸を前に、うずくまるひとがいる。
その肩は震え、透きとおった不純物が、拳に落ちていくのに、拭おうとしない。
そっと手をのばし、目の前にある亡骸の名を呼ぶ。
亡骸は当然、反応しない。
肩や背中をさする。
反応しない。
それどころか、あたたかみが急速に失われていく。
「なんで。」
抱えきれないおおきな体を自分に引き寄せ、しがみついた。
なぜ、
おなじ生きものを殺すのか。
知っている。
生きものは食うために、他の生きものを殺すことがあること。
わかっている。
時としてなわばりを守り、ひろげるために戦うこと。
だけどこれは。
これは。
「ゆるせない。」
きつく握りこんだ手に、さらに力を込める。
―しかしこのひとは、無力だった。
彼らの使う兵器など、見たことがあるだけ。使い方も仕組みも、わからなかった。
ついさっき、彼らの兵器は、たくさんの命を一瞬で、奪った。
たいせつな者を守る暇さえ与えなかった。
兵器が。
それを生み出し、平気で扱う彼らが。
「ゆるせ、ない。」
しかし、やはりこのひとは無力だった。
近くで靴音が響く。
逃げる気にもならない。
「いっそのこと、殺してくれ。」
彼らが見つけやすいように、ゆっくりと立ち上がる。
だが、取り残された獲物を捕えようとはせず、
靴音はそのまま遠ざかって行った。
「あ、ああ、ぁ。」
彩のある日常を
朱や黒に染め。
このひとの小さなのぞみを
受け入れないまま。
「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ」
こうやって、人間たちはすくわれない命を生み出す。
永久の朱に染まる、命を。
日本の伝統色の一つ、『朱』をイメージした話でした。




