日常
「ニュース速報をお伝えします。月に移住した方々が帰ってくるそうです。」
テレビの前で、少女が
「やったぁ!」
と、声を上げる。
「6月8日、月に移住した方々が帰ってくるそうです。この日は皆既日食の日で、国民は大いに喜んでいます。」
少女はそこでテレビを消した。
少女は名前を小内悠という。両親は月にいて、一人暮らしである。
悠は、電気を消すと布団に潜りこんだ。
次の日、学校では早速話題になっていた。
「昨日のニュース見た?うれしいね!」
「見た見た!楽しみ~!」
という会話でいっぱいだった。悠も例外ではないのだが。
「おはよう!昨日のニュース・・・」
「見た。楽しみか?」
「うん。」
楽しみかと聞いてきた奴は、鈴木清吾という。思考ゲームのチャンピオンである。隣の席で、20回勝負を挑んだが、惨敗だ。
「今日こそ、お前に勝つ!」
「は?何の話?」
「国取りゲームで勝負だ!」
ここまで言ったところでチャイムが鳴った。
ガタガタとイスの音が鳴る。
「HRを始める。今日は授業ではなくプレゼント作成を行う。」
「は?」
「まじかよ。」
「ラッキー!」
教室がざわざわし始める。
「静かにしろ!」
お決まりのセリフだが効果はあったようだ。
「女子は裁縫で小物をつくり、男子は月の形の像だ。」
男子は案外うれしかったようだ。女子からはもちろん歓声が上がる。思考派男子は嫌そうだが。
「図工かよ・・・」
「でもただの像を造る訳じゃなさそうだよ。形を考えればいいじゃない。」
「そうかその手があったか!有難う小内!」
じゃあおまえはどんな絵にするか悩まないのか。そもそも構図はどうする。
「絵の構図とかどう…っと。」
「ん?」
「い、いや?」
しまった。こいつに思考系の話を出すと長くなる。
「女子はここで、男子は図工室へ移動だ。行動開始!」
先生の言葉に救われる。
「あとで教えろよ!」
清吾が言う。絶対教えてやらないと決めてあるから聞き流す。
「おし、がんばるぞ!」
そう言って、作業に取り掛かった。