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お叱りの時間

村長に星野さんを保護してもらうため、僕とシア姉は星野くんと話しながら村の中心へ向かっていた。

さっきまで森にいたとは思えないほど、村の中はいつも通りで、夕方の空気がどこか落ち着いている。

「ねえ、星野くんはなんであんなところにいたの?どこから来たの?どうしてそんな服着てるの?」

シア姉は興味津々で、矢継ぎ早に質問を浴びせる。

あまりの勢いに星野さんは完全に押されてしまい、視線を泳がせながらオロオロしていた。

「シア姉、そんなに一気に聞いたら星野さん困ってるよ」

僕が止めに入ると、シア姉は少しだけ「あっ」という顔をしたが、それでもまだ聞き足りなさそうだった。

星野さんはほっとしたように小さく息をついている。

そうして話しているうちに、気づけば村長の家の前まで来ていた。

大きめの木造の家で、村の中でも少しだけ威圧感がある場所だ。

「詳しいことは明日教えてねー、そんちょー、あけてー!」

シア姉はまったく反省した様子もなく、元気よく扉をゴンゴンと叩く。

しばらくして中から足音が近づき、ゆっくりと扉が開いた。

「何の用だ問題児その5……ん? 誰だ君は」

村長は僕たちを見るなりため息をつきかけたが、星野さんに気づいた瞬間、表情が険しくなる。

その視線は鋭く、まるで見定めるようだった。

すると、なぜかシア姉が誇らしげに胸を張って答える。

「この子は星野悠真くんで、森の中で迷子になっているところを私たちが助けたの!」

元気いっぱいの説明だったが、村長の顔は徐々に怖くなっていく。

「お前ら……森に勝手に入ったのか。この時間に」

空気が一気に冷えた。

シア姉は一瞬固まり、次の瞬間には慌てて言葉をつなぐ。

「あ、いや違くて! その、は、そう!この子が助けてーって言ってるのをアルトが聞いて、一緒に助けに行ったんです!」

完全に僕に押し付けてきた。

村長の視線がゆっくりとこちらに向く。重い。とにかく重い。

「星野君だったか。この子の話は本当かい?」

「ほ、ほんとです。僕が叫んでるのを聞いて来てくれました」

星野さんが合わせてくれたおかげで、村長の表情が少しだけ緩んだ。

本当に助かった。

「はあ……分かった。お前らの罰を軽くしてやる」

「え、ほんと!?」

シア姉がぱっと顔を明るくする。

「ああ、本当だ。ルクシア、お前は明日は(すき)を引け」

「ええ!? ハル兄や牛が畑で引いてるあれでしょ!? いやだよー!」

僕の隣でシア姉が情けない声を上げる。さっきまでの勢いはどこにいったのか。

そして村長は、今度はゆっくりと僕に視線を向けた。

「アルト。お前は無断で森に入ったのは何回目だ」

ここはもう誤魔化せない。

僕は観念して答える。

「……2回目です」

「うそつけ。これで7回目だろう」

一瞬、時間が止まった気がした。

なんで知ってるんだ。いや、気のせいかもしれない。そう思いたい。

横を見ると、シア姉がめちゃくちゃこっちを見ている。やめてほしい。

「お前、タンパ達と一緒に森に入っていただろう。本当は2か月先の誕生日後、畑仕事に入ってから罰を与えるつもりだったが……今回の件でまとめて許してやる」

……許してやる?

一瞬だけ希望が見えたが、その次の言葉で打ち砕かれる。

「だから明日の訓練は厳しくしてもらうからな」

冷や汗が背中を流れる。

でも、まだ何か言えば変わるかもしれない。

「いや、その……あいつらは罰受けてませんよね。だから、その……」

言葉が全然出てこない。

焦るほどに口が動かなくなる。

「知らないようだが、あいつらも束運びだったり暖房役になったり、旅に出てすぐスリにあって帰ってきたりしている」

「はい……」

完全に詰んだ。

もう抵抗は無意味だと悟る。

「星野君。私たちは君のことを歓迎しよう。今日は私の家でゆっくりしていくといい」

「はい、ありがとうございます」

僕たちがしょんぼりしている横で、星野さんは深々と頭を下げた。

その礼儀正しさが、余計に僕たちの立場を悪くしている気がする。

「ほら、君たちはもう帰りなさい」

そうして僕とシア姉は村長の家を後にした。

村長の家を出て、僕たちはそのまま帰り道を歩き出した。

夕暮れはすっかり深まり、村の灯りがぽつぽつと見え始めている。

その静かな帰路で、最初に口を開いたのはシア姉だった。

「ねえ、何? 私が森に誘っても断ってきたのに、タンパ達とは6回も行ってるの?」

ものすごく責めるような声だった。

横を見ると、完全に怒っている。

これはまずい。

このあと山菜入りのかごで森に行ったことまでバレる未来が見える。

できればここで止めたい。

「いや、その……あいつらと盛り上がって、つい……」

我ながら苦しい言い訳だと思う。

でも他に言いようがない。

シア姉はしばらく黙ったまま僕を見ていたが、やがて小さくため息をついた。

「……ふーん」

それだけ言うと、少し前を歩き始める。

怒りが消えたわけじゃないのは、なんとなく分かった。

帰りたくない。

心の底からそう思いながら歩いていると、あっという間にお互いの家の前まで来てしまった。

ああ、ほんとに嫌だ。

「ただいまー」

シア姉が家の扉を開けた瞬間、中から怒鳴り声が飛んできた。

「こら! あんた仕事をさぼってどこをほっつき歩いてたんだい!」

やっぱりか。

シア姉、完全にさぼってたんだ。

次の瞬間、シア姉が僕の肩をがしっと掴み、そのまま前に突き出した。

盾にされた。

「えっ、ちょっ——」

言い終わる前に、シア姉のお母さんの視線が僕に向く。

そして僕の持っているかごを見た瞬間、表情が一気に変わった。

さっきまでの怒りとは別の、もっと冷たい怒り。

思わず僕はシア姉の背後に半歩下がる。

「アンタ……今回はアルトを連れて森に入ったのかい。勝手に」

声が低い。

本気で怒っている時の声だ。

「今回こそは許しません。それに山菜がいくらあろうと関係ないからね」

シア姉の顔が青ざめる。

「ごめんなさいー!」

そのまま腕を引かれて、家の中へと連れていかれてしまった。

ばたん、と扉が閉まる。

……取り残された。

え、このかごどうすればいいの。

中身、まだ分けてないんだけど。

それに僕も怒られるよな。

むしろこっちの方が本番かもしれない。

こんなに山菜があっても、全然うれしくない。

むしろ証拠にしかならない。

しばらくその場に立ち尽くしたあと、僕は重い足取りで自分の家の前に向かった。

扉の前に立つだけで、心臓がどくどくと音を立てる。

逃げたい。

でも逃げたらもっとまずい。

覚悟を決めて、ゆっくりと扉に手をかける。

「……ただいま」

小さくそう言いながら扉を開けた。


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