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ないなら、作る

春の大学は、思っていたよりずっと騒がしかった。


入学式を終えたばかりの構内には、新歓の立て看板が並び、あちこちで勧誘の声が飛んでいる。


テニス。

軽音。

映画研究会。

ボランティアサークル。


楽しそうな名前ばかりが並ぶ中、俺は掲示板を端から順に見ていった。


探しているものは一つだけだ。


ゲーム制作。


「……ないな」


思わず声が漏れる。


スマホを見ながら隣を歩いていた優奈が顔を上げた。


「見つかった?」


「いや、まだ」


「大きい大学だし、ありそうだけどね」


「だよな。俺もあると思ってた」


掲示板をもう一枚見る。

サークル一覧の紙にも目を通す。

でも、それらしい名前はどこにもなかった。


俺たちはサークル棟の前まで歩き、今度は壁に貼られた活動紹介のポスターを眺めた。


イラスト研究会。

映像制作会。

TRPG同好会。


近そうなものはある。

でも、欲しいのはそれじゃない。


「もしかして、今年は募集してないだけとか?」


優奈が言う。


「いや……」


そのとき、掲示板の端に貼られた白い紙が目に入った。


他のカラフルなポスターに埋もれるように、地味な一枚。


俺は足を止める。


【ゲーム制作研究会 廃部のお知らせ】


一瞬、意味が入ってこなかった。


「……廃部?」


優奈も隣に来て、その紙を見る。


活動実績不足。

運営上の問題。

部員数減少により、本年度をもって廃部――


そんな事務的な文面を、俺はしばらく黙って見ていた。


「……なくなったんだな」


優奈が隣で小さく言う。


ゲーム作りは、思っているよりずっと大変だ。


絵が描けるだけじゃ足りない。

プログラムができるだけでも足りない。

話を作る人がいて、動きを作る人がいて、それを最後まで噛み合わせる時間もいる。


しかも、一つ直せば別の場所が壊れる。

形になりかけたと思ったら、バグで全部止まることだってある。


小さなゲームでも、一人では足りない。

二人でも、かなり厳しい。


だからこそ、続けるのは難しいし、最後まで作りきるのはもっと難しい。


俺は掲示板から目を離した。


「……どうする?」


優奈が聞く。


俺は少しだけ考えて、それから言った。


「ないなら、作るしかないだろ」


「え?」


優奈が目を丸くする。


「サークル」


俺はサークル棟の廊下を見た。

人が行き交っている。

笑い声が聞こえる。

みんな、もう何かを始めている。


「ゲーム作る場所がないなら、自分で作る」


優奈は俺の顔を見て、それから少しだけ笑った。


「いきなり部長?」


「他にやるやついないだろ」


「それはそうだけど」


少しだけ沈黙が落ちる。


春の風が、掲示板の紙を揺らした。


優奈は小さく息を吐いて、俺を見る。


「……やる?」


「やる」


今度は迷わなかった。


大学に入れば、どこかに土台があると思っていた。

誰かが始めていて、そこに入ればいいと思っていた。


でも、なかった。


だったら、自分で始めるしかない。


優奈はゆっくり頷いた。


「じゃあ、やろうか」


その言葉で、ようやく少しだけ現実味が出た。


ゲーム制作サークル。

部員二人。

何もないところからのスタート。


正直、不安がないわけじゃない。


でも。


立ち止まっているよりは、ずっといい。


俺たちは掲示板を離れ、サークル棟の事務室へ向かった。

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