第5話 古き街、古き友
帝国暦1400年9月
―古代の魔女の家―
レーヌ帝国国王、チャーリー9世に謁見した私達は一度家に戻っていた。
「さてアイ、今から旅に出るぞ。旅支度をしろ。」
「旅って…。急すぎますよ。」
「うるさい。行くと言ったら行くんだ。私の弟子なら黙って旅支度しろ。早くしないと置いていくぞ。」
脅しに近い事を言われたアイは口を膨らませたかと思うと、はーっとため息をついた。
「わかりましたよ。で、旅って言ってもどこへ行くんですか?」
「私の第二の故郷、ジャポーネだ。」
「ジャポーネといえば独自の文化を作っていて、外国人差別が横行しているとで有名なあのジャポーネですか。」
「あぁ、そのジャポーネだ。しかしなアイ、その思い込みは良くない。思い込みは時に人を殺すこともあるからな。例えばな…。」
「アオイ様、アオイ様。」
「どうしたんだ?」
「時間がないんでしょ。その話はまた後で聞きますから。」
「そうか、分かったこの話は馬車に乗っている間にしてやろう。けどな、アイ。これだけは間違えて欲しくないのが、何もジャポーネ人が皆、外国人に厳しい訳ではなく、むしろ大多数の人は外国に興味があるということだ。その良い例が私だ。そういう印象を作っているのはある一つの組織のせいなんだ。」
「なんて名前の組織なんですか?」
時計を見る。針は14時を指していた。
ヤバい、馬車が出る。
「そんなこと、着けば嫌でも知ることになる。馬車の発車まで時間がない。早くしないと置いていくぞ。」
勢いよくドアを開け馬車乗り場に向かった。
「待ってください、アオイ様。」
後ろからアイが私を追いかけてきている。
いい天気だ。旅を始めるには最適な天気、これも神のおかげかな…。
―ジャポーネ領の港湾都市アーサキ―
「アイ、見てみろ。カモメだ。海だ。」
「うわー。きれい。」
アイの煌めく目にどこまでも続く海と海の上を自由に飛び回るカモメの姿が映される。
「私、海なんて初めてみました。本当に青くて、どこまでも広がっていて、美しいんですね。」
馬車に揺られて17時間。私達は一夜を馬車の中で過ごし、ここ、ジャポーネの一大港湾都市、アーサキに着いた。
馬車から降りた私達の目に広がっていたのはまるで異世界に来たのかと思うほどに違う建物、景色だった。しかし、今から行く場所に比べればこれくらい…、かわいいものだ。
「アイ、お前に連れていってやりたい場所がある。」
「………?」
「取りあえずついて来て。」
アイの手を引っ張り、私はある場所に連れて行った。
「うわ〜。何ここ?何この家?すご〜い…。」
「ここはな、昔からのジャポーネの文化を守ろうと作られたアーサキの館だ。」
「この家、すごいです。」
「その家はな、茅葺き民家と言って日本の昔ながらの住居なんだ。この家の屋根はな、名前の由来にもなっているススキやヨシ(茅)らを束ねて作られた屋根、茅葺き屋根がある。それでな、この家の魅力はなんといってもその住みやすさ。夏は涼しく、冬は温かい。更に、高い防音性を持っていたり、
30〜40年は持つ、高い耐久性を持っていたりと、まさにジャポーネ文化の頂点、古代の人々の技術の結晶。それがこの茅葺き民家なんだ。つまり…。」
私は無意識的に徐々に早口になり、まくし立てる。
「…。どうだ、この家の良さ、分かったか?」
「…はい。何となくなら。」
「そうかそうか。それは良かった。」
「アオイ様、この、茅葺き民家?中に入れるらしいので入ってみましょうよ。」
「良いぞ。入ろう入ろう。」
中にはいくつかの部屋があり、まず、玄関から真っ直ぐ伸びるように廊下が伸びており、その右側に部屋がある。そして、一番大きな部屋の中央には囲炉裏が置いてあった。
「うわ〜。アオイ様、見てください。鍋が吊り下げられてます。これ、何なんですか?」
「これはな囲炉裏と言って、ここで料理をしたり、暖まったりするんだ。」
「へ〜。囲炉裏か…。」
興味深そうにアイは囲炉裏をジッと見ていた。
「アイ、囲炉裏も良いが、他の場所も周らないか?」
「良いですよ。」
その後、私達は屋敷で鯉に餌をやったり、銭湯に入ったり、和食を食べたりした。
「アイ、空が少し暗くなってきたな。」
「そうですね。そういえば、今日ってどこに泊まるんですか?」
「アーサキには古くからの仕事仲間がいるんだ。その仕事仲間の家に泊めてもらえるはずだ。」
「はずって、連絡はしたんですか?」
「そんなもの、してるわけないだろ。」
「えっ、してないんですか。もしも泊まれなかったら…。野宿。」
「まっ、大丈夫だ。何とかなる。」
「本当ですか…。」
「私を信じろ。きっと、どうにかなるから。」
私の笑顔とは反対にアイは不満と不安が混ざったような顔をしていた。
「嫌なことは一旦忘れよう。それよりもアイ、アーサキの館はどうだった?」
「私が知ってる世界とは文化が全然違いました。家の形から、言葉から、髪型から全部違いました。新しい世界を知って、その違いに驚きの連続でした。」
「そうかそうか。それは良かった。ジャポーネはなここに来る途中に見たように高い山々に囲まれた土地だからな、『陸の孤島』というあだ名があるくらい他の国々とは違う文化を形成してきたんだ。それでも最近は帝国の文化が入ってきてだいぶジャポーネ本来の文化は薄れつつあるんだけどな…。」
「へ〜。これでも…。」
「そうなんだよ。私はな悲しい。ジャポーネの文化が薄れて来ていることが…。」
「アオイ様…。」
「アイ、もうじき暗くなる。宿泊先に行こう。」
私は小声でポツリと言って足を進めた。
―5分後―
「アオイ様、ここで本当に合っているんですよね?」
目の前のどでかい屋敷を目にしてアイは言うと。
「あぁ、合っているよ。私の友人は古くから領主をやっていてね。」
私は周囲を見渡す。
「お、いたいた。お~い、コトネ。」
私の姿に気づいた、女が私に目掛けて猛ダッシュしてくる。
「アオイ〜、動かんといてよ。」
危機を感じた私は瞬時に回避した、はずだったのに…。
ドーン
何故か当たった。
何故だ…。
私が理解できずに倒れていると「予想的中やで!、アオイなら避けてくると思ったわ。」
何故かピンピンしている女は言う。
「アオイ、早く立ち上がってや。」
私はまだ痛みが残る重い身体で立ち上がった。
「アオイ、久しぶりやな。おおきにしとったん?何年ぶりやろうな。前、おおたんが祝賀会の時やから25年ぶりやわ。アオイにとっては25年なんか一瞬かもしれへんけど、私、アオイがおらんくなって悲しかったんやで。」
ハッと我に返った私はアイに言う。
「こいつがこの町の領主で、私の古くからの仕事仲間で、五賢者の一人でもあるアイカワ・コトネ(相川琴音)だ。」
「私、アオイ様の弟子をしています。ルミナス・アイです。よろしくお願いします。コトネさん。」
その言葉が終わると共にコトネの表情は厳しくなる。
「アオイが弟子をとったん?ホンマに?あのアオイが?そんな事今までなかったのに。私でも弟子入り志願して断られたのに。どういうつもりなん、アオイ。私はダメでこの娘は良い。どこに違いがあるっていうん。こたえてや、アオイ。」
完全に怒っている。
「私も本当は断るつもりだった。けど、神様からの命令だから仕方なかったんだ。」
コトネはポカーンと呆然とした表情をした。
「えっ、神様が言うたん。こいつを弟子入りさせろ言うたん。ほんまに?ほんまなら私が言うことはないわ。神の命令なら仕方がないわ。」
は〜。と深いため息をついたコトネは、とりあえず家に入れてくれた。
コトネの家はジャポーネの伝統的な建築方法てをある瓦を使った家だ。領主の館と言う割には以外と家は狭く、庭も一般のお屋敷程度しかない。
以前理由を聞いたら、「領主は大抵、城で寝泊まりするから広い屋敷は必要ないねん。逆に広いと掃除面倒くさいし、色々と壊れるしで、良いことあんまないねん。」と言っていた。
しかし懐かしい。私も昔はこの家によく泊まったものだ。思い出に浸っていたらアイが何か言いたそうな表情をしていた。
「どうしたんだ?」
「女性にこんな事聞くのもどうかと思いますけど、アオイ様って何歳何ですか?」
「別に年齢を聞かれるのは良い。けど、どうして今さらそんな事を気になった?」
「コトネ様がここに来る途中に25年なんかあなたにとっては一瞬かもしれないと言っていて気になったからです。」と言ってきた。
なるほど。その発言か…。
納得した。
「今年で3000歳位、だと思う。だけど生まれてから歳が経ちすぎて正確には分からないんだ。すまない。」
その瞬間、「3000歳!?」アイの驚きの声があがった。
「本当に3000歳何ですか。私達エルフでも1000歳、長くても1500歳では死ぬのに…。」
「本当に3000歳だ。アイは私のユニークスキルが歴史に関する物だと知っているだろ。」
アイは上下に頭を振った。
「あれ程の能力に代償がないわけがないだろ。あの能力の代償は、死なないこと。正確には『世界を見届けし者』という能力で寿命が私にはない。自分で命を絶とうとしても反射的に強力な防御魔法を張ってしまう。しかし、他者からの攻撃は通るし、それこそ心臓を貫かれたら死ぬ。だけど、私に攻撃を与えられる者はこの世界にはほとんど存在しない。少なくとも今までの人生の中では数人しかいなかった。魔王でさえ、弱かった。」
「そりじゃあ、魔王を倒した英雄というのはあなた何ですか。」
「あぁ、そうじゃなかったら古代魔法を使えるわけがないだろう。古代魔法は火・水・土・風の四大魔法を複雑に組み合わせて作った物だ。だから、私が他の者に教えてもだれも使えない。皆、一種類の魔法しか使えないから。英雄記には、英雄は古代魔法を悪用されるのを恐れて誰にも教えなかったと書かれているけどあれは嘘。私は皆に教えた。それなのに皆は使えなかったことを恥て、そもそも英雄は古代魔法を教えなかったという事にした。私はそのことを残念に思った。本当に残念だった。悔しくて仕方なかった。あれ以来、私は人間達を信頼することができなくなり、自分の作った魔法を教えなくなった。私が弟子を取らない理由もそういうこと。分かった?コトネいるんでしょ。そのドアの後ろに。」
「どうしてわかったん?アオイはん。」
「気配がダダ漏れ。もっと気配を消さなければそこに私はそこにいます。と敵に正直に言っているようなことになる。」
「そりゃ、アオイはんからしたらそうかもしれんけど、これでもジャポーネの中で一番言うても良い位、気配消すの得意やねんで。」
「それにコトネ。前、会ったときより気配といい、魔法といい、全体的に落ちてる。きっと怠けてたんだろ。」
「仕方ないだろ。お前以外に教えてもらえるような人がいないんだから…。」
「それは…、ごめん。けど、少しは自主練しな。」
「いや、それは…。」
「できないって言うこと…?分かった。このアーサキでアイの修行をしようと思っていたんだけどそこに参加しな」
「いやって言うたら。」
笑顔で「そりゃ、コトネにとっての悪夢が起こるだろう。」
毒でも食べたような顔で「分かった、分かった、参加するからそれだけはやめてや。」
「決定。明日から訓練開始するから2人とも今日は早く寝な。分かった?」
「はーい。」
その後、二人が寝たことを確認した私は庭先を散歩していた。
星が綺麗だ。
人に魔法を教えるのか…。何年ぶりだろうか、魔法を教えるなんて…。




