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憧れの勇者になりたくて~最強魔王、人間に転生する~  作者: small wolf


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第7話『無銭飲食』


 クロダーサの冒険者ギルドにたどり着いた僕とリディム。

 石造りの建物の中は思った以上に広く、奥には依頼掲示板と受付があり、手前には酒と簡単な料理を出す飲食スペースが併設されていた。


 鎧姿の冒険者たちがテーブルを囲み、依頼の愚痴や戦果自慢を肴に酒を煽っている。

 情報と人が集まる、冒険者ギルドとはそのような場所らしい。


 そんな場所で、なぜか僕たちは――ほんの少し、面倒に巻き込まれていた。


 というのも。


「お代が払えないってのはどういう事だ? あぁん?」


 強面で筋肉質の店員が、低い声で詰め寄ってくる。


「言葉通りの意味だよ。今の僕は無一文というやつでね」


「ほぉう。それでよくあんだけ飲み食いできたもんだ。

 呆れを通り越して関心しちまうなぁ、オイ」


 周囲の冒険者たちが、面白そうにこちらへ視線を向けてきた。

 どうやら、ちょっとした見世物になってしまっているらしい。


「いや、それほどでも。しかし、堪能させてもらったよ。ここは美味だったというべきなのかな? なんにしても、人間はすごいね。食に対して貪欲というべきか。僕らまぞ──」


「ま、マスターっ! ここでそれはいけません! 目的をお忘れですか!?」


「おっと、そうだった。ごめんごめん。ともかく、空腹で困っていたところだったから助かったよ。馳走になったね」


「馳走になったね……じゃねぇんだよボケがぁっ!! ちょっとこっち来い!! 衛兵に突き出してやる!!」


 不思議だ。

 僕はただ「焼きたてのホーンラビット串、いかがですかー?」と大声で言っていたからその厚意に甘えて食べ物をもらい、そのあともいろいろと勧めてくれるものだから厚意に甘えて飲み食いしただけだというのに。


 それなのに、どうしてこんなにも怒られているのだろう?


「どうしたものだろうね、リディム?」


 これも僕がまだ人間社会に溶け込めていないからこそ分からない問題なのだろう。

 そう思って僕よりもよっぽど人間社会に精通しているリディムに助けを請おうとしたのだが。


「はぁ? マスターを相手に『ボケ』と。今、そのような罵声を浴びせましたか? ふ、ふふ。ふふふふふふふふふふ。下等生物風情が。

 ──────どうやらよほど死にたいようですね」


 そこには筋肉質の店員に対して満面の笑顔で、そして全開の殺気をまき散らしているリディムの姿があった。


 しまった。

 リディムは僕をマスターと呼び、敬ってくれている。

 それ自体はとてもうれしい事なのだけれど、その忠誠心が行き過ぎというか……僕のことになるとこうしてキレてしまう事がたびたびあるんだった。


「んなっ。て、てめぇ……やる気か? 舐めやがって。これでもオレァ元Cランクの冒険者だぞ! 返り討ちにしてやんよ」


 リディムの殺気を浴びて後ずさりする筋肉質の店員。

 懐からナイフを取り出してやる気のようだが、僕の見立てが正しければ、彼ではリディムに逆立ちしても敵わないだろう。



「ふふふふふふふふふふ。この期に及んでまだそんなことを仰るなんて。なんて愛らしく儚げで……どうしようもなく愚かな生き物なのでしょう?」


「なにぃ?」


「まぁ、いいでしょう。どうぞ? 好きに抵抗なさってください。そのことごとくを蹴散らし、肉片すら残さずこの世から抹消して差し上げましょう」



「この……」


 うーん、どうしよう。

 これはもしかして、止めたほうがいいのでは?

 このままだとこの筋肉質の店員、リディムに殺される可能性大だ。


 その証拠に、殺る気満々のリディムは凄まじいまでの魔力を漲らせている。

 この魔力量……発動する魔術によってはこの建物ごと吹っ飛ぶんじゃないかな?



 もしそうなったら、多分僕はもう冒険者になれないんじゃないだろうか?


 うまく言えないけど、なんとなくそんな気がする。

 心の奥底で『止めるんだっ! 早く二人の喧嘩を止めるんだっ!! 後悔しても僕は知らないからなっ!!』と叫んでる僕が居る……ような気がするし。


 けど、二人ともやる気だしなぁ。

 やる気満々な二人の間に入るのは無粋ってやつじゃないだろうか?


(それになにより、リディムはあくまでただの魔導書。それに対して、相手は人間だからね)


 リディムは魔導書であるがゆえに、気合とか根性で強くなることはない。どれだけ訓練しようが出せる出力は魔導書としてのものに限られる。


 それに対して、相手は人間。

 そう、人間なのだ。


 気合とか根性だけで奇跡を何度でも起こす化け物。人間なのだ!


 だから、僕の予想に反して彼が勝利をつかむ事もあるかもしれない。

 そこまで僕は考えて……。



(うん、やっぱり邪魔はよくないよね。大人しく静観しておこう)



 そう決断した途端、なぜか『馬鹿野郎ぉぉぉ!! この魔王、どれだけ人間信じてるの!? 馬鹿なの!? ねぇ馬鹿なの!?』という叫びがどこかから聞こえた気がするけど、きっと気のせいだろう。

 



「こんのアマァァァッ!!」

 

「せいぜいいい声で鳴いてくださいね♪」


 リディムVS筋肉質の店員。


 どんな心躍る戦いを見せてくれるのだろうか。

 そう横でワクワクしながら眺めていると。



「これは一体なんの騒ぎ?」


 一触即発の場に響く第三者の声。

 声のした方を向くと、そこには金髪の少女の姿があった。


 年齢は16歳くらい? 僕と同じくらいの年齢の少女だった。


「あ……アリアさんっ!?」


「こんにちは、レアンさん。それで? 一体何があったの?」


「それが……」


 少女の登場に筋肉質の男性は驚き、戦闘態勢を解いてこれまでの事情の説明に移る。


 しかし、そんなもの知ったこっちゃないとリディムが手を振り上げる。


「隙だらけですよ」


 同時に展開されようとする魔法陣。

 けれど、そこで僕は彼女の手を取って止める。


「やめろ。リディム」


「マ、マスター。しかし……」


 もの言いたげなリディム。

 そんな彼女に、僕は目を細める。


「へえ? 僕のいうことが聞けないんだ?」


 そう問うとリディムは体を大きく震わせ。


「うっ……め、滅相もございません……」

 

 しゅんと体を縮こまらせ、腕をゆっくりと降ろしてくれた。

 ふぅ、これでよし。

 さっきみたいに互いにやる気だったなら僕も止めなかったけど、今はどう見ても向こうは取り込み中だからね。

 


「……と、そんな訳でして。あいつら、話が通じねえんですよ」


 そんな僕たちのやり取りの間に、向こうも事情の説明を終えていたようだ。


「そう。要はお金の問題ね。確かに、聞く限りだと彼らに問題があったみたい」


 アリアと呼ばれた少女は小さくため息をつくと、腰の小袋から銀貨を数枚取り出した。

 軽い金属音が鳴り、彼女はそれを店主へと放る。


「これで足りるでしょ。だから、この場は見逃しなさい。いいわね?」


「え? いや、こちらとしては構いませんが、いいんですか!?」


「構わないわ。その代わり──」


 そう言って、アリアはくるりとこちらを向いた。

 青い瞳がまっすぐ僕らを射抜く。


「あなた達。少し私に付き合ってくれない?」



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