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憧れの勇者になりたくて~最強魔王、人間に転生する~  作者: small wolf


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第19話『GO!GO!ライル君!』


 振り返ると、そこには一人の男が立っていた。


 整った顔立ち。

 無駄にキラキラとした輝きを放っている黄金色の装備。

 そんな人物が、これまた無駄に変なポーズを取りながらこちらを向いていた。


「……っ。ライル……」


 アリアが小さく呟いた。

 その表情は、これまで見たことがないくらい苦々しいものだった。


「やあ、アリア。久しぶりだね。ここで出会えたのも運命。そうは思わないかい?」


 男——ライルは爽やかな笑みを浮かべながら、アリアに近づいてくる。

 だが、アリアはつれなく一歩引き。


「馴れ馴れしくしないでくれる? 私はアンタの事が気に食わないって。何度も何度も伝えてるはずなんだけど?」


 近づいてくるライルを、はっきりと拒絶した。


「ふふっ。また君はそんなことを言って。まったく、かわいいな、君は。

 まあ、それはいい。ただ……」


 ライル君はそう言いながら、僕の方をちらりと見た。

 って……おや?

 彼のその視線には、明確な敵意が含まれているような?


「君の隣にいるその男……彼は一体、君のなんだい?」


「は? セルムの事? こいつはただの……」


 そこで言い淀むアリア。

 彼女はしばらく考え込んで——やがて、ニヤァと不気味な笑みを浮かべた。


「こいつはただの……私の婚約相手よ♪」


 僕の腕を抱きしめながらそう言うアリア。

 あれ? そうだっけ?


「なんだって!?」


 相手の人もかなり驚いてる。

 でも大丈夫だ。僕も驚いてるから。

 僕はアリアに話しかける。


「あの、アリア?」


 僕が声をかけると、アリアは僕の腕をさらに強く抱きしめた。

 そのまま顔を近づけ――耳元で、小さく囁く。


「ごめんなさいセルム。少しだけ話を合わせてちょうだい」


 ああ、なるほど。そういう演技ってことか。

 彼女の意図を理解して、僕も小声で返す。


「うーん。でも正直、あまり気が進まないんだけど……」


「仲間の私が困ってるの。助けると思って……ダメ?」


 僕を上目遣いで見つめてくるアリア。

 そうか……仲間の為……か。

 よし。


「仲間のためなら仕方ないね、うん」


 僕は仲間のアリアの為、話を合わせることにした。


「その通り。僕とアリアは将来を誓い合った仲だ」


 僕はライル君の方を向いて、きっぱりと言いきった。


「なっ!? あり得ない!! なぜこんな冴えない奴と……」


「冴えないやつ……ですか。ふふ、それはマスターの事を言っているのではないですよねぇ?」


 リディムの冷たい声が響く。

 その声とは裏腹に、彼女は満面の笑みを浮かべていた。もっとも、その目は笑っていなかったけれど。


「ま、マスターだって!? き、君はこいつのなんなんだ?」


「私ですか? 私はマスターの所有物です」


「所有物だって!? この……アリアだけでなくこんなかわいい子まで……なんて非道なっ」


 拳を握りしめるライル君。

 なんだか勘違いされている気がするが、まあ構わないだろう。


「だからアンタはお呼びじゃないのよ。これに懲りたらもう私に付きまとわないでくれる? ほら、分かったらあっち行きなさいよ。しっしっ」


 虫を払うような手振りでライル君を追い払おうとするアリア。

 しかし。


「いいや。そうはいかないっ!! ああ、なんという事だ……。アリアッ! それにそこの可憐な女子! 君らはこいつに騙されているんだね!?」


「「「は?」」」


 いきなり妙なことを言い出すライル君。

 えっと……一体、彼は何を言っているんだ?


「先ほどの話は私も聞いていた。この男が魔族を倒したとね。まったく、馬鹿げた作り話じゃないか」


「作り話ですって?」


「ああ。だって、そうだろう? なぁ、君らは信じられるかい!? こんなぽっと出の冴えないやつが魔族を倒しただなんてさあっ! とても信じられた話じゃないよ!」


 大仰にふるまって周りの人にそう問いかけるライル君。

 すると。


「確かに……そうだなあ」

「魔族って確か、勇者じゃないと倒せないんだろ?」

「そもそも魔族なんて、北の魔族特区に居るって噂しか知らねえからなあ。魔族で構成されてるっつー黒鱗会については見つけた者には金一封って話だが、誰も見つけたなんて聞かねえし」


 周囲の人間も少なからずそう思っているのか、ライル君に同調した。


「……まあ、そう思われるのも無理ないかもしれないわね。でも、じゃあこの首はどう説明するのよ? どう見ても人間や魔物の首じゃないのは分かるわよね?」


「知れたことだよアリア。きっとこの首はその男が魔族を討伐したと嘘をつくために制作したものだろう。やれやれ。そこまでして手柄がほしいとは……持たざる者は滑稽だねぇ」


 やれやれと肩をすくめるライル君。

 なんだかひどい言われようだ。別にいいけど。


「ふーん。でも、私はこいつがこの魔族と戦ってるのを見たんだけど?」


「アリア……可哀そうに。君は騙されているんだよ。もしくは洗脳かな?」


「聞きなさいよ」


「でも大丈夫! 心配はいらない! この男を打ち倒し、君らの呪縛をこの私、ライル=ヘルブリッデンが解いて見せる! だから安心してほしいっ!」


「相変わらず話聞かないわねーこいつ。前からだけど」


「マスター。この男、燃やしてもいいですよね?」


「やめときなさいリディム。ここでそんなことしたらセルムの夢が完膚なきまでに潰れるわよ?」


「わ、分かってますよっ! あなたに言われるまでもありませんっ!」


「だったらちょっとは殺気と魔力をおさめなさいよ……。魔術職の人と勘のいい人が怯えた目でアンタの事、見てるわよ?」


「ぐっ……」


 暴走しそうなリディムをアリアが止めてくれる。

 なんだかんだ、うまくやってくれそうで何よりだ。


「さあそこの冴えない男よっ! 君が魔族を倒したというのなら、その強さをこの私に証明してみせろ」


「証明?」


「そうだ。この私と決闘しろ。

 もし君が本当に魔族を倒せるほどの実力者なら、B級の私程度、簡単に倒せるはずだろう?」


 ライル君は不敵な笑みを浮かべた。


「私が敗北すれば貴様の事を認めてやろう。

 だが、貴様が敗北した暁には……アリアとそこの女性はこの私がもらうっ!!

 当然、その時は下劣な洗脳を解いてもらおう」


「決闘ねえ……。ちなみに拒否権は?」


「当然、断れば君の敗北扱いとさせてもらおう。二人は私がもらい受ける」


「そっかー」


 なんだか変なことに巻き込まれたなあと思う。

 いや、決闘っていうのは面白そうだし、いいんだけどね?

 でも……。


 僕はアリアとリディムに目を向ける。

 賭けの対象は彼女たちだ。

 僕が勝手に引き受けていいものか……。


 そう悩んでいたら。


「受けていいわよ、セルム」


「アリア……。でも、僕が彼に負けたら……」


「は? アンタ、もしかしてアレに負けるかもしれないなんて思ってるの?」


 驚いてるアリア。

 僕は首をかしげる。


「え? そうだよ?」


「本気で?」


「うん。だって、彼は人間じゃないか」


「え? まあ、そうだけど……人間だからどうだってのよ?」


「人間だから彼もきっと土壇場で奇跡を起こすんだろう? あいにく、僕も人間だけどまだそういうことはできなくてね……」


 前にアリデルとの戦いで奇跡を起こそうとしたけど無理だったからね。


「だから……ってあれ? どうしたのアリア。頭なんて抱えて」


「そっかー。こいつ、こういうやつだったわねー。先が思いやられるわ」


「アリア?」


「まあ絶対大丈夫だと思うけど、負けても気にしなくていいわよ。そうなったらそうなったでうまくやるから」


「そうかい?」


 なら問題ないな。

 よし。


「なら……その決闘、受けるよ。面白そうだし」


「クク。そう来なくてはね」


 ライル君は満足そうに頷いた。


「では、ギルドの訓練場で決闘だ。

 ギルド長、構わないね?」


 ライル君はギルド長に視線を向ける。


「……好きにしろ」


 ギルド長は短く答え、それから僕たちの方を見た。


「案内する。ついてこい」


 そうして、ギルド長を先頭に、僕たちは訓練場へと向かった。


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