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憧れの勇者になりたくて~最強魔王、人間に転生する~  作者: small wolf


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第1話『転生した』


「ははははっ! どうだ、見たかセルム! 落ちこぼれのお前ごときが俺に勝とうなんて百年早いんだよっ!」


「さすがルディアンだ。お前こそ我がローデル家の誇りだ。それに比べ……まったく。弟にここまで差をつけられて貴様は恥ずかしくないのか? セルムよ」





 頭が……痛い。

 なんだか、長い夢を見ていた気がする。

 とても、とても長い夢を見ていたような。


「ま、落ちこぼれのお前は引っ込んでな。安心しろよ。その間に俺がお前のなりたくてなりたくて仕方がなかった勇者になっといてやるからよぉっ!!」



「………………勇者?」


 勇者。

 それは僕が憧れた存在。

 とても眩しくて、輝いていて、僕が憧れたもので。



「ああ。なんせ勇者と認められりゃあやりたい放題できるからなあ。知ってるか? 勇者の主な役目は北の魔族どもを見張ること。それさえこなせば何をしても許されるんだぜぇ?

 もっとも、これは極秘情報で、だからこそ勇者になれるやつは限られているらしいが……このルディアン様が勇者になれない訳がねえっ!

 ああ、楽しみだなあ。勇者になったらなにをしてやろうか。俺だけのハーレムを築いて、俺の機嫌を損ねたやつはみんな奴隷にでもすっかなぁ。ヘヘヘ」



 下種な妄想を膨らませる男。

 名は確か……そう、ルディアンだ。

 このローデル家の次男であり、僕の弟。

 

 彼はその下種な欲望をかなえるために、勇者になるという。


「くはは」


 思わず笑ってしまう。

 僕が唯一憧れた存在である勇者にこのクズがなる。


 それはいったい………………なんの冗談だい?



「くっくく。はははは……。面白い。本当に面白いことを言うねぇ、君」



 ゆらりと僕は立ち上がる。

 正直、事情はなにも呑み込めていない。


 けれど。



「君は僕を怒らせた」



 欠片も残さず蒸発させてやろう。


「――紅蓮よ、我が前に立つ者を灰に還せ」


 『紅蓮殲滅グレン・アシュ


 そうして僕は慣れ親しんだ魔術を発動。


 業火が彼を包み、それでおしまい……そうなるはずだった。

 しかし。



 ボォッ──


「あっつ!? ちぃっ。なんだこりゃチクショウ!!」



 ルディアンを包むはずの業火は発動せず、せいぜいその拳を軽く焦がしただけだった。



「……おや?」



 おかしい。

 僕は今、彼を蒸発させる気で魔術を放った。

 彼程度の力ではどうこうできるわけもない攻撃を放ったはずなのだ。

 なのに、どうして彼はやけど程度で済んでいる?


 そして、異常はそれで終わらない。



「……ぐっ!?」


 体に力が入らなくなり、僕はその場にしゃがみ込む。

 これは……まさか魔力切れ?



 馬鹿な。ありえない。

 あの程度の魔術を発動させただけでこの僕が魔力切れを起こすなんて。


 そもそも、僕の魔術はきちんと発動してすらいないんだ。

 それなのに、どうして。



「ちっ。舐めた真似してくれたなあ。ええっ!? セルムよぉっ」


 ずんずんと腰の剣を抜きながらこちらに向かってくるルディアン。

 なっ、早い!?


「らぁっ!!」


「ぐっ」


 僕は奴の剣をよけきれず、肩口を切り裂かれてしまう。

 すると、さらに不可思議なことが起きた。



「ぐっ……なんだ……これは……」




 切り裂かれた肩が、熱い。

 どうしようもなく熱くて、まともに戦闘の継続すら難しくなる。



「いてえかっ!? なら叫ぶんだなぁっ! いつものように痛い痛いってよぉっ! それで泣いて土下座して許しを請えば許さないでもないぜぇ? セルムゥ」



 ルディアンは醜悪な笑顔でせせら笑う。

 痛……い?


 まさか、これが痛みなのか?

 このジンジンと芯まで痺れるようなものが。体の奥まで響くようなコレが。


 こんなものを勇者たちは負いながら、戦っていたのか?

 ……いや、違う。

 勇者たちの負っていた傷はこんなものじゃなかった。



 ある勇者は片腕を失いながらも戦った。

 ある勇者は首を切り落とされた後も、渾身の力で最後の攻撃を放ってきた。

 ある勇者は毒が回る前に自分の足を切断し、戦闘を継続していた。



 あの勇者も、あの勇者も、あの勇者も。

 どの勇者も、これ以上の痛みを感じながらも僕に立ち向かってきていたのか?


 それがどれほど凄い事だったのか、僕は今さらこの身で初めて思い知らされて。


 僕は。

 僕は。



「く……ふふ……はは……はははははははははははははははははははははははははははっ!!!」


「な……なん……だ?」



 突然笑い出した僕を気味悪がったのか、一歩下がるルディアン。

 だけど、今はそんなことどうでもいい。



 痛快だった。

 ああ、勇者っていうのはなんてすばらしい存在なんだ。


 これ以上の苦痛を味わいながら戦闘を継続できるなんて、頭がイカれているとしか思えない。

 人間は僕ら魔族のことを化け物だとかいうけれど、勇者こそが化け物というにふさわしい存在じゃないか。


 こんな痛みを感じながら、自分じゃない誰かのために命をかけ、奇跡を起こす?

 あり得ないだろう。まったく理解できない存在だ。


 だからこそ……眩しい。



「くく。いやいや。まったく。この身で味わって改めて思うよ。勇者っていうのは……とんだ化け物だねえ。こんな痛みを感じながら戦ってたなんてさ」


 僕ら魔族ならこんなの、耐えられない。

 みっともなく泣き叫びながら地に頭をつけて許しを請うてしまうのが普通だろう。


「……なに言ってやがんだ、てめえ?」


「ん? ああ、すまない。ようするに、勇者という存在は最高だなという話だよ」


「ハッ。まーたそれか。ことあるごとに勇者になりたい勇者になりたいってよぉっ! お前なんかが勇者になれるわけねえだろうがっ! 落ちこぼれのクズのクセによぉっ!」




「みたいだねえ。ようやくいろいろと思い出してきたよ。

 というより、僕としたことが気づくのが遅すぎたね。脆弱な肉体に脆弱な魔力。こんなの、すぐ気づいて当然だというのに」


 満足に魔術すら扱えない程度の魔力。

 目の前のルディアンの一撃をよけることすらできない脆弱な身体能力。


 極め付きに痛みを感じたことで、確信した。



 どうやら僕、魔王ダリウス=ノクトは現在、セルムという人間になっているらしい。

 こういうのを……確か転生というのだったかな?


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