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憧れの勇者になりたくて~最強魔王、人間に転生する~  作者: small wolf


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第17話『仲間』


 アリデルと黒鱗会が廃坑を去った後。

 場に残るのは、僕とリディム、そしてさっきまで泣き崩れていたアリアの三人だけだった。


 あ、あと黒鱗会が用意してくれた、アリデルの偽装死体もあるね。

 精巧に作られた死体。これを見せれば上級魔族を討伐した証拠になるらしい。

 ……妙にリアルで、本当に殺しちゃった気分になるなぁ。


 まぁ、いいや。

 とりあえず異空間に収納しておこう。

 そうして僕は魔術を唱え、偽装死体を異空間へとしまった。


「……ふんっ」


 アリアはなぜか少し顔を赤くして、そっぽを向いている。

 一体、どうしたのだろうか?


「マスター。この後はどうされますか?」


「そうだねえ……。今の魔族の事も少し気になるし、早く勇者学園に入学したいんだけど……リディムはどうすればいいと思う?」


「それでは当初の予定通り、冒険者ギルドに向かうのはどうでしょう? さきほどのアリデルの死体を持って出向けばマスターの威光はさぞ輝く事でしょう。勇者学園への入学の足がかりにもなるかと」


「そうかい。それじゃあ、行こうか」


 そうして僕とリディムは冒険者ギルドに向かって——


「ちょっとっ!! 待ちなさいよっ!」


 そのとき、そっぽを向いていたアリアが回り込んできて、僕たちの行く先を阻んだ。


「なにかな?」


「なにかな? じゃないでしょっ! 説明しなさいよ説明をっ!!」


 アリアは息を切らしながら、僕を指差す。


「アンタが魔王の転生体で、魔族の扱いを改善するために勇者学園入学を目指してる事は分かったけど、それ以外がちんぷんかんぷんなのよっ!」


「ふむ……それが分かっていれば十分なんじゃないかい?」


「十分じゃないわよっ! アンタ、あの魔族、アリデルに提案する前から勇者学園入学を目指しているみたいな言い回しをしていたわよね? ということは、アンタには別の目的もあるはず。

 一体何を隠しているのか……とっとと白状しなさい。じゃないと、アンタの正体を言いふらしてやるわっ!!」


「おっと、困ったな。本当にそれは困る」


 僕は肩をすくめる。


「目障りですね……。マスター、ここは私が」


「いやいや。待ってくれリディム。ここは穏便にいこう」


「ですが……」


「魔王の頃ならともかく、今の僕は人間なんだ。だから、人間とはあまり争いたくない。そもそも、僕はさっきアリデルに人間に危害を加えないようにってお願いしたばかりなんだよ? そんな僕が、言いふらされたら困るからなんて理由で人間に危害を加えるなんて格好悪いじゃないか」


「それは……いえ……分かりました」


 大人しく下がってくれるリディム。

 そうして僕はアリアと真正面から向かい合う。


「さて。アリア・レイフォード。君が知りたいのは僕が何を隠しているのか……だったね?」


「そ、そうよ!」


「クク。いいだろう。ではまず、改めて自己紹介からいこう。

 僕の名前はセルム。君も聞いていた通り、かつては魔王ダリウス=ノクトだったものだ」


「魔王……」


「ああ。とはいえ、魔王だった僕は二百年前に勇者に敗れ、死んだ。

 それで僕の物語は終わるはずだったのだけど……気づけば、僕はセルムというこの人間の身に転生していたんだ。

 ゆえに、前世が魔王だったというのが正しいかな。

 魂は魔王のもの。だけど、体は脆弱な人間のものだ。だから、かつての力の半分もない状態だよ」


「そう……なのね」


「ああ。それで、転生した僕は——」


 それから僕はアリアにこれまでのいきさつを話した。

 魔導書であるリディムのこと。

 僕が魔王の頃から人間に、勇者に憧れていたこと。

 だからこそ、人間に転生した僕は勇者を目指しているのだということ。


 それらを聞いたアリアは……なぜか呆然とした表情で、僕を見つめていた。


「は? えと……なに? 魔王としての記憶が残ってて、それなのにアンタは勇者を目指してるわけ?」


「ああ、そうだよ。僕は勇者になりたいんだ。

 本当に……かつて僕と戦った勇者たちは本当に素晴らしかったっ!! 僕にはない輝きを持っていた。

 大切な仲間とか家族とか、そんなものの為に戦う彼らはとても眩しかった。

 だからっ! 僕も彼らのように、そんな輝きを放てるようになりたいんだよっ!」


 熱弁を振るう。

 すると不思議とアリアの表情が、少しずつ変わっていく。

 混乱から、呆れへ。


「えぇっと……もしかしてアンタ……バカ?」


「え?」


「いや、だってそれ、本末転倒ってやつよね? 別に伝説の勇者様達も輝きたいから勇者やってた訳じゃないでしょうに……。あぁ、そっか。自分じゃ気づいてないのね。でも……うーん。言った方がいいのかしら?」


 うんうんと悩んでいるアリア。

 一体、どうしたのだろう?


「ま、まあいいわ。アンタの目的は理解したわ……理解しがたいけど……」


「そうかい。それは良かった」


「ええ。それで提案なんだけど……私も同行していいかしら?」


「同行?」


「ええ。あなた達はこれから冒険者ギルドに向かって、アリデルの偽装死体を見せてその名声を高めるつもりなんでしょう? 勇者学園に入学するために」


「そうだね」


「その手伝いをしてあげるわ」


「というと?」


「その偽装死体はかなりよくできた代物よ。けど、それだけじゃ絶対に信じてもらえないわ。無名の人間が魔族を……それも上級魔族を倒しただなんて絶対に信じてもらえない。だから上級魔族を倒したなんて言わず、魔族を倒したにとどめときなさい」


 アリアは少し考えるように視線を逸らし、それから続けた。


「それでもギルドはおそらく信じないでしょう。あなたたちが魔族側のスパイかもしれないなんて疑いを持つかもしれない。だから、私が証言してあげる。レイフォード家の私が証言すれば、少しは信憑性も上がるでしょうからね」


 アリアは腕を組み、少し顔を背けながら言った。


「それに、私もアンタに借りがあるというか……アンタが私の為に動こうとしてくれたのは事実だし……まあ、色々とね……」


「え? なんて?」


 声が小さくて聞こえなかった。


「べ、別に! なんでもないわよ!

 ともかく、事情を知った私にはアンタ達が何をするのか監視する義務があるわ!

 勝手に変なことしようとしたら止めるから。覚悟しときなさいよ!」


 ビシィと指をさしてくるアリア。

 ふむ、なるほど。必要に迫られてというやつか。


「それはなんというか……苦労をかけるね、アリア。

 けど、僕としてはありがたいかな。感謝するよ」


「ふ、ふん! 別に感謝されるようなことじゃないわよ」


 アリアの顔が少し赤くなる。


「そうだ。アリア。僕らに同行するなら一つ頼みがある」


「頼み? まあ……あんたには領地の問題を解決してくれた恩もあるしいいわよ。

 ただ莫大な報酬とかを要求されても無理よ? ……実はあまり私も余裕がなくて。けど、私にできることならいいわ」


「大丈夫だよアリア。君にしかできない頼みなんだ」


「私にしか?」


「うん。君にしかできないことだ。僕と契約を結んでほしい」


「契約……ですって?」


「ああ」


 僕は真っ直ぐにアリアを見つめた。

 そうして、身構えるアリアに僕の頼みを告げる。


「アリア・レイフォード。僕の仲間になるがいい」


「…………………………」


 僕の頼みの内容を聞いて、固まるアリア。

 おや?


「えぇっと……どうしたんだい? 僕はなにか変なことを言ってしまっただろうか?」


「いや、変なことを言ったかって……アンタ……」


「むぅ。もしかして、なにかしら手順を間違えたかな?

 僕は運命を共にする仲間が欲しいのだけど……」


「はぁ……そうなんだ……なんで?」


「なんで? おかしなことを聞くね?

 勇者といえば仲間が必要だろう? 実際、僕のもとに単身で乗り込んでくる勇者などいなかったからね」


「いや、それは確かにそうでしょうけど……」


 アリアは何か言いかけて、口をもごもごと動かす。

 そうして――観念したように、肩を落とした。


「はぁー。いいわ、いいわよ。仲間になってあげるわ。感謝なさい。その……これからよろしく」


「よろしく、アリア」


 僕は手を差し出した。

 アリアは少し戸惑ったように僕の手を見つめてから、小さく頷いて手を握り返してくれた。


 そのときだった。


「マスター……本当にこの小娘を連れて行くのですか?」


 リディムが、露骨に不満げな声を上げた。


「うん。アリアがいた方が色々と都合がいいみたいだしね。

 それに、置いていったら僕らの事を言いふらすんだろう?」


「当然よ!」


「というわけさ」


 僕は軽く肩をすくめた。


「ああ、重ねて言っておくけど彼女を排除するのはやめてくれよ? 今見てくれた通り、彼女は僕の仲間になってくれた。

 まあ、それを抜きにしても、僕はアリアの事を気に入っているからね。彼女を傷つける行動のすべてを禁止する」


 そう僕がリディムに重ねて注意すると。


「は、はぁっ!? 気に入ってるって……なにぬかしてるのよアンタ!? バッカじゃないの!?」


 なぜかアリアがうろたえていた。


「? 何をそんなに慌ててるんだい?」


 僕は首をかしげる。

 正直、彼女がそこまで取り乱す理由が分からなかった。


「前に言っただろう? 君の誇り高き意思に敬意を表するって。

 それはつまり、僕が君の事を気に入ったということだ。

 でなければわざわざ君の為に動きはしなかったよ」


「へ? ああ、そういう……紛らわしいのよっ!!」


 次の瞬間、思いきり蹴られた。

 大して痛くはないけど――どうして怒られたのかは、よく分からなかった。


「……分かりました」


 そんな僕らのやり取りを見ながら、リディムは渋々といった様子でうなずいた。


「それじゃあ、行くとしようか」


 そうして、僕らはクロダーサの冒険者ギルドへと引き返すことになった——。


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