第14話『決着』
お父……さん?
僕が……この子の?
そんなことあるわけが。
「私はサキュバス女王であるお母さんと亡き魔王様の子だって。だから——あなたが……」
リルは戸惑いがちに僕を見つめている。
けれど、戸惑っているのはこっちの方だ。
僕の娘って…………そんな馬鹿な!!
聞いてないよそんなの!!
「クックック。よかったのう、リル。亡き父に会えて。
ほれほれ、ダリウス様も娘を抱きしめて、感動的な一言でも告げてやるがよい」
「いや、そもそも僕とアリデルはそんな関係じゃなかったよねぇ!?」
僕に言い寄ってくる女魔族は確かに多かったが、その誰とも僕は関係を持たなかった。
だから、この子が僕の娘だなんて、そんなことはありえない……はずっ!
なのだが。
「なんと!? 悲しいことを言うてくれるのうダリウス様よ。
なぁリルよ。主の父君はそなたを認知してくれぬそうじゃ」
「にんち?」
「おぉ。すまぬ。言い回しが難しかったの。
要は『てめえなんか俺の娘じゃねえ、ぺっ!』と言われておるのよ、リルは」
「言い方に悪意があるんじゃないかなぁ!? 誰もそこまでは——」
「ほう。ならば認知してくれるのじゃな?」
「ぐっ、いや、でも……」
「ほれにーんーち! にーんーち! さぁリルも一緒に父君におねだりするのじゃ」
「え? えと……にーんーち……?」
リルが戸惑いながらも、アリデルに促されて小さな声で言う。
「母子揃って何を言っているのですか! マスターも騙されてはいけませんよっ! そもそもマスターに子供は居ませんっ!」
「そ、そうだよね? で、でもこの子は?」
「どうせアリデルがどこぞで孕んだ子でしょう? あれだけマスターの精に執着していたあなたが娘というのは少し意外ですけど……はっ。さすがはサキュバス。見境なしですね」
「なにを失敬なっ! わらわが体を許す相手はダリウス様ただ一人のみじゃ。
リルは……ちょいと失礼するぞ、ダリウス様。リルは少し耳をふさいでおれ。少し大人な話をするでの」
「ん、分かった」
リルが耳を両手でふさぐ。
アリデルが僕の耳元に口を寄せる。
それを見たリディムも慌てて反対側の耳に寄ってきた。
「リルの事じゃが……あれはわらわの娘ではない。わらわの友人の娘じゃ」
「友人の?」
「うむ。二百年前、お主が勇者に敗れた後の混乱でな。リルは物心つく前に両親を勇者に殺された」
「「……」」
「やつらはわらわに娘を託し、『娘を頼む』と告げ、勇者を足止めしてくれた。わらわが今、生きていられるのもやつらのおかげ。
だからこそ、わらわにはリルを育てる義務がある。
しかし、本当の両親が死んでいるなど子供にはショックであろう?
ゆえに、リル自身にはわらわと魔王ダリウス様こそが自身の両親であると言っておるのよ。周りの者にも口裏を合わせてな」
「うん、なんかいい話みたいに言ってるけどさ。普通に迷惑だからね? いきなり目の前に自称娘が現れた僕の気持ち、分かる?」
「ええい、細かいことを言うでないわ。そもそも、この展開はダリウス様も望んでおったものであろうが」
「は? いや、そんな展開、僕は望んだ覚えないけど?」
「いやいや。望んでおったじゃろう?
『人間は愛する家族のために、限界以上の力を発揮する。
だけど、僕には家族が大事という感覚そのものがない。
だから、感動的な家族愛というものを一度は経験してみたい』――と」
「そんなことは……」
ない、と言い切ろうとしてふと気づく。
確かに、それは僕が言いそうなことだ。
「ほれ、見てみぃ。会ったことのない父親にようやく会えて、涙する娘の姿を。とても感動的じゃろう?
あ、リルよ。もう耳を塞がずともよいぞ~」
「? お話、終わった?」
「うむ、終わったぞ。さぁ、リルよ。父の胸に飛び込むがいい」
「う、うん。えっと……」
そう答えはしたものの、リルはその場から動かなかった。
小さな体が、ほんの一瞬だけ強張る。
代わりに、アリデルの服の裾をぎゅっと掴んで。
「お母さん、会いたかった……」
そのまま、アリデルに抱きついた。
「お母さん……お母さぁん」
「お、おぉう。泣くでないリル。ほんにしょうのない娘じゃのぅ」
「だって……だって……」
「お主はサキュバス女王のわらわと、魔王ダリウス様の間の子なのじゃぞ? そう簡単に涙を見せてはならぬ」
「うん、うんっ!!」
「だから泣くなというに……」
その姿はまるで、本当の家族みたいだった。
見ていると、不思議と心が温かくなって。
同時に、僕にはないものを見せつけられているようで、なんとも言えない複雑な気持ちになった。
「家族……か」
僕がかつて憧れた、人間らしい絆。
それをまさか、人間になった今になって魔族の親子から教えられるとは思わなかった。
(もしかして……こういうところなのかな?)
なるほど。
僕が勇者のように奇跡を起こせない理由が、なんとなくだけど分かった気がする。
「やれやれ」
人間についてとか。魔族についてとか。家族とか。絆とか。
僕には学ぶべきことが色々とありそうだなと、そう思った。
「まぁ、ゆっくり学んでいくしかないかな」
抱き合っているリルとアリデルの姿を改めてみる。
僕が学ぶべきこと。
それは、なんとなくだけど、この光景の中にその答えの一端があるんじゃないかって。
そんな気がした。




