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憧れの勇者になりたくて~最強魔王、人間に転生する~  作者: small wolf


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第13話『劣勢』




「そうだ、これだっ、これだよっ!


 負けられない戦い。アリア・レイフォードという人間の恩義に報いるため、僕は退くわけにはいかない。

 けれど、ああ悲しいかな。戦況は不利を通り越して絶望的。勝てるわけがない。

 だけど、僕は勝たなきゃいけない。勝たなきゃいけない理由がこうしてあるのだから。

 ああ、そうだよ、そうさ。僕はこんな状況を求めていたんだっ!! かの勇者達と同じような状況に僕自身を置くことで今、僕は彼らのようになってみせるっ!!


 ああ、昂ぶる。

 魔王時代のあの頃、戦う理由はあれど、勝たなきゃいけない理由なんてなかった。

 勝つことよりも、相手の輝きを見ることに夢中になっていたのはそのためだ。

 

 けれど今は違う。

 僕にはアリアの為、誰かのために勝たなきゃいけないという想いがある。


 だから——


「だから僕は負けられない。こんなところで君なんかに負けるわけにはいかないんだよ、アリデルゥゥゥゥゥゥゥゥっ!」


「そなた……」


 漆黒の獣達を殴って、殴って、殴り飛ばす。


 さぁ、今こそ奇跡よ起これ。

 人間のみが発揮する無限の力よ、僕の拳に宿れ。



「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」


 雄たけびをあげ、人間の力を引き出そうと気合を入れる。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 雄たけびを上げながら、全力で漆黒の獣たちを殴る、殴る、殴る。

 この状況を打開する力を発現させるべく拳を振るい、奇跡を起こそうとする。


 しかし……。



「くっ……馬鹿な……どうしてなんだっ!!」



 結論から言うと……気合を入れても何も変わらなかった。

 不思議な超パワーに目覚めることも、トンデモ奇跡が起きることもなく、ただただ僕の魔力とスタミナが消費されていくのみだった。



「この……ふざけるなぁっ!! 僕は人間になったんだぞっ!! 憧れの人間になって……自身が望んだ死地に立つことができて、背負うものだって出来た。

 なのに、どうして僕は奇跡の一つも起こせないんだっ!!」



 なにが足りないんだ。

 一体、なにが……。



 そうして集中力が乱されたその一瞬。

 

「ルァァッ!!!」


「しまっ——」


 眼前に迫る隷従の吐息。

 かわす術はない。防御は無意味。

 つまり、もう終わり。

 

 それを悟った瞬間。



「この……獣ふぜいが……『失せろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』」



 全開で魔力を放出。

 魔法陣も魔術式を起動しないまま、ただ言霊に乗せて全開で魔力を周囲に飛ばす。



「ブルゥッ!?」

「フボォッ!?」

「ルァッッ!?」



 漆黒の獣達が飛び跳ね、その場でかき消える。

 そうして眼前に迫っていた隷従の吐息も、その効力を失い消え去っていた。



「なんじゃとっ!?」


 驚くアリデル。

 さきほどの魔力放出で、彼女の召喚の魔法陣もその光を失い、崩壊していた。


 ゆえに、今ならアリデルまでの障害はすべて排除されている状態だ。

 本来であれば今が絶好の攻撃のチャンス………………なのだが。


「くっ……まさか……この手を使わされるとはね……。やるじゃないかアリデル。僕の負け……だよ……」


 ただの力任せの魔力放出。

 魔王の魂に内包された魔力を、制御もしないまま『失せろ』という言霊に乗せて周囲に拡散させた。


 それによりアリデルまでの障害をすべて消滅させることはできたが……まだ扱いきれない魔力を行使した結果、僕は身動き一つできなくなっていた。


「ただの力技だし、やれば最後、僕は動けなくなる」


 だからやりたくなかった。

 でも、やるしかなかった。

 他の禁じ手を使うくらいなら、この手が一番マシだったから。


「とはいえ、僕はもう動けない。だから……リディム。悪いが命令だ。目の前の魔族、アリデルを——」


 消せ。

 そう命令しようとしたそのとき。


「そなた……もしやダリウス様か?」


 そう尋ねるアリデル。

 あれ? もしかして僕とアリデルって面識あった?


 まずい……。

 ここで僕が魔王だとばれて『どうか魔王として我々をお導きください』とか言われても面倒くさいし。

 よし、ここは違うと否定しよう。


「……違うよ?」


 と、僕はそう答えるのだが。


「嘘をつけっ!! その魔力、先ほどからの言い回し、まぎれもなくダリウス様であろう!? これ、目を逸らすな!! わらわの方を見ろ!!!」


 すごい剣幕で詰め寄ってくるアリデル。

 さっきまでの緊迫感などもはやみじんもなく、殺気も感じない。


 そんな彼女に僕は圧されてしまいそうになりながらも、声を張り上げる。


「だだだ、だから違うと言っているだろう!! おかしなことばかり言っていると君の娘をそれはもうひどい目に遭わせるぞっ! それが嫌なら——」


「ダリウス様は勇者相手にも身内を殺すぞと似たようなことを何度も言っていたが、一度も実行に移しとらんじゃろうがっ!! さっきのもどうせわらわを本気にさせようとノリと勢いでついた戯言だったのであろう?」


「は、はぁぁぁぁぁぁ!? ち、違うし!? ぼぼぼ、僕はいつだって本気だし!? そんな、魔王であるこの僕が戯言なんて——」


 ………………あ、しまった。


「やはりお主かダリウス様っ!! 勝手に死にくさってからに……あれから我らがどれだけ苦労したと思ってるんじゃああああああっ!!!」


「しまった!? い、いや待ってくれアリデル。これは誤解なんだ。そもそも、僕は君なんて知らなぶべっ!?」


 なにか気に障ることを言ってしまったのだろうか。

 僕はアリデルに殴り飛ばされていた。


「マスター!?」


 リディムが僕の結界を自力で解除し、倒れた僕に駆け寄ってくる。

 そしてアリデルをにらみつけた。


「不敬ですよアリデルっ!! サキュバスの女王ごときがマスターに手をあげるなど、恥を知りなさいっ!」


「貴様……ああ、そうじゃ。思い出した。貴様、リディムかっ!! いつもいつも人形みたくダリウス様のお傍に控えていたかび臭い古本娘めっ!! 貴様はあの頃のように黙っておれっ! 今はわらわとダリウス様が話をしておるのだからなっ!!」


「お断りしますっ!! マスターにぞろぞろと群がるメスの一匹ふぜいが。

 そもそもマスターは現在、人間に転生なさっているのです。

 ゆえに、今のあなたとマスターの間に、関係など一切ありませんっ!」


「なにおぅ……」


 ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる二人。

 どうやら二人は互いのことを、はっきりと認識しているらしい。


 ……アリデルか。

 アリデル……アリデル……。


 サキュバス女王、アリデル――。


「あ」


 思い出した。


 アリデル=ノルスフィア。

 かつて僕に付きまとっていたあのサキュバスの女性か。


 確か使役系の魔術を得意としていて、主に諜報や偵察で活躍してくれてたっけ。

 魔王時代、彼女は僕の側近の一人として仕えてくれていた。


 もっとも、ご機嫌取りのために僕の世話をしてくれる魔族なんて彼女の他にも何人もいたからなあ。

 正直、彼女のことはあまり印象に残っていない。


 ……と、そんなことを思い出している間も、二人の喧嘩は続いている。


 ぐいっぐいっ。


「ん?」


 誰かに引っ張られる。

 見れば、さっきのアリデルの娘が僕の手を軽く引っ張っていた。


「えーっと……どうしたんだい?」


 少女と視線を合わせる。

 すると。


「お父さん?」


 僕の目を見てそう尋ねる少女。

 けれどおかしい。

 少女が何を言っているのか、ちょっとよく分からなかった。


「……ごめん。ちょっと聞き取れなかった。なんて?」


「えっと……あなたが私の……お父さん……ですか?」


「………………はい?」



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