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憧れの勇者になりたくて~最強魔王、人間に転生する~  作者: small wolf


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第12話『復活の上級魔族』


「くっ」


 あふれだす光、

 目がくらむ。


 そうして光がおさまった後。

 その場には一人の女魔族が現れていた。



「────────」



 風に揺れる長い銀髪。

 鋭い紅い瞳が、冷ややかに辺りを見据える。

 その背からは、血のように赤い羽が妖しく広がっていた。


「おぉ、アリデル様っ!」


「アリデル様が復活なされたぞっ!」


「お母さん……お母さんっ!!!」



 さっきの魔族の少女が現れた女魔族に泣きつく。

 女魔族はその少女をかるく抱きしめ、そしてすぐに後ろに下がらせる。



「お母さん?」


「下がってなさい」


 アリデルと呼ばれていた女魔族は、ゆっくりと周囲を見渡し──リディムをにらみつけた。



「わらわは封印されていた間も、外の光景を見ていた」


「ふぅん。そうなのですか。……それで?」


「それで……だと? 貴様……人の娘を消し飛ばそうとしておいてなお態度なのか?」


「マスターに対して小娘ごときが不遜なふるまいをするからですよ。むしろ、あなた方は泣いてマスターに感謝するべきではないですか? マスターが止めなければ今頃、その娘は跡形もなく消し飛んでいたでしょうから」


「貴様ぁっ!!」


 アリデルの瞳に、明確な殺意が宿る。

 そのまま彼女は爪を伸ばし、一瞬でリディムへと距離を詰めるが。


 ——キィンッ


「おいおい。それはないだろう? せっかく蘇ってくれたんだ。なら、僕の相手をしてくれよ」


「っ!」



 僕は横から彼女たちの間に入り、アリデルが振り下ろした爪を腕でガードした。

 事前に身体強化魔術で硬質化していたから、受け止めるくらいならどうとでもなる。




 だが、さすがはアリアが恐れる上級魔族といったところか。

 僕の腕はうすく切り裂かれ、赤い血が出ていた。


「この……邪魔を……するなぁっ!!」


「断る。リディムとやりたいなら僕を倒してからにするんだね」


「おのれ……ならば望み通りまず貴様を血祭りにあげてくれるわぁっ!!」



 そう言ってアリデルがその翼をはためかせ、上空へと飛ぶ。

 そのままいくつもの魔法陣を形成した。


『漆黒の闇より生まれし死の獣よ。

 今こそいでて汝の敵を蹂躙せよ』


 そうして魔法陣から飛び出してくる漆黒の獣。

 牙をむいて、僕やリディムめがけて襲いかかってくるが。


「やれやれ。無粋だなぁ。言っただろう? リディムとやりたいなら僕を倒してからにしろ、とね」


 言いながら魔法陣を形成。

 リディムに結界を張り、召喚された獣から守る。


 僕とアリデルの戦いだ。

 リディムには手を出させない。


 バチィッ──


「──っ!?」


 結界が黒き獣の牙を弾く。

 リディムは無傷のまま、結界の中で静かに立っていた。


「ありがとうございます、マスター。しかし、この程度ならば……」


「分かってるさ。リディムならこの程度、どうとでもなるって事くらいね」


「ならばなぜ……」


「どうも彼女は人の話を聞かないみたいだからね。だから、こうして僕を倒さない限り君には手を出せないと示してあげたのさ。

 だからリディム。君は手出ししないでくれよ? 消化不良だったからね。存分に楽しみたいんだ」


「かしこまりました。存分にお楽しみください、マスター」


 結界に阻まれてもなおリディムを狙おうとする漆黒の獣と、僕の方にも集まってくる漆黒の獣。

 それらを会話の片手間にまとめて殴り飛ばしながら、僕は上空のアリデルを見上げる。


「というわけさ。いい加減、僕を見なよアリデル。さもないと……君の娘だったかな? アレ、僕が八つ裂きにしちゃうよ? なんなら、君の目の前でゆっくりと四肢をもぐのとか面白いかもねぇ」


 にやりと僕は笑いながら彼女の娘という少女を一瞥する。

 すると、少女はびくりと体を震わせて。


「っ……貴様ァッ!!!」


 吠えるアリデル。

 凄まじい殺気が僕の身に降りかかる。

 見れば、僕を射殺すような眼光で僕をにらみつけている。

 どうやら、本格的に標的を僕へと変えてくれたようだ。


『我が眷属、我が同胞はらから

 我、汝らに命ず。

 眼前の敵を喰らい、血肉とせよ。

 ——降臨せよ、《群魔召喚》』


 


 アリデルが詠唱と共に魔法陣を展開する。

 その魔法陣からさきほどの漆黒の獣と同種の、漆黒の竜や、漆黒の人型のナニカなど、様々な存在が出現する。


 その数、二十体。

 しかも、漆黒の生物たちは魔法陣から今なお魔法陣から現れ、増え続けていた。


「ふん、面倒だな。ゆえに、焼き尽くそう。『燃え尽き——』」



 面倒だからと、僕はそのすべてを業火に帰すべく詠唱しながら魔法陣を構築していく。

 だが。



『爆散』



「っ!?」



 構築しようとしていた魔法陣に、別の式が介入する。

 敵に向けて放たれるはずだった業火が、指向性を持たずその場で爆発しようとしていた。

 改変された魔法陣はその輝きを増していき。



「ちぃっ——」



 僕は魔力の供給を強引に打ち切る。

 同時に、魔法陣は崩壊。暴発は不発に終わり、けれど僕の魔術も不発に終わった。


 結果——



「グルォッッ!!」

「アルグァッ!!」

「ルァァッ!!!」



 漆黒の生物たちがその爪で、その牙で、僕に襲い掛かってくる。

 さらには、漆黒の竜が黒のブレスを吐き出してくる。



「さすがにそれは喰らう訳にはいかないな」



 それらを受ける事を諦め、僕は詠唱なしで身体強化魔術を発動。

 今度は妨害されず、地面を蹴ってその場から退く。



 そのすぐ後に、さっきまで僕が居た場所に黒のブレスが着弾。 

 それは漆黒の獣も巻き込んで、そこに居たすべてを闇に包んだ。



「グルゥッ……」



 ブレスが止む。

 ブレスを喰らったはずの漆黒の獣たちは無傷だった。

 ならば、避けるまでもなかったか?


 否、違う。

 アレだけは避けなければならなかった。

 なぜなら——

 

「……隷従の吐息エンスレイブブレスか」


「ほぅ。知っておるのか。こしゃくな……。大人しく受けていれば我が眷属にし、死ぬまでこき使っていたものを……」


 隷従の吐息。

 使役タイプの魔族の限られた者と、その上位眷属だけが使えるブレスだ。

 そのブレスに触れた物は、何者だろうとその身を漆黒に包まれ、主の命令に従うだけの操り人形と化す。


 このブレスが厄介なのは防御不可能という点。

 仮に魔術で防御したとしても、そのブレスは防御魔術を展開した術者の術式支配権限をはく奪する。

 結果、このブレスを防御魔術で受け止めたが最後。魔術を使っても不発に終わるか、式を相手の都合のいいように改変され、自身に牙をむいてしまう。


 一応、魅了魔術の区分には入っているため、魅了の解除ができれば術から脱することはできるが……一対一で戦っているこの現状だと、受けたらまず間違いなく僕の負けが決定してしまう。


「これを放てるのはあの黒竜と術者の君だけなのかな?」


「さてな? 仮にわらわがそうだと答えたら貴様は信じるのか?」


「ククク、確かに。無駄な問いかけだったね」



 さて、面倒なことになった。


 こうしている間もアリデルの眷属は魔法陣から次々と湧き出ている。

 さらに、今も僕めがけて襲い掛かってきている彼女の眷属達。


 こんなもの、あの召喚の魔法陣ごと焼き払ってしまえばいいのだが……それをやるにはある程度の複雑な魔法陣の構築が要求される。


 そんなものをのんきに構築させてくれるほどアリデルは甘くないだろう。

 さっきと同じように式に介入され、邪魔されるのがオチだ。

 そうする為に彼女は上空からこちらを観察し、その場から動かないで居るのだから。



(かと言って、このまま詠唱なしの魔術だけで無限に湧き出るこいつらを片づけるのも難しい)



 むろん、無限に湧き出るという訳ではないだろう。

 彼女が発動した《群魔召喚》。

 アレは単純に、異空間に封じた自身の眷属を呼び出すだけの魔術だ。


 だから、呼び出す眷属が尽きるまで一匹一匹つぶしていけばいつか片がつく。



(とはいえ、眷属なんていくらでも作れるからなぁ……)


 終わりが来るまで律儀に付き合っていたらこっちが先に参ってしまうだろう。

 ゆえに、選択肢はただ一つ。


(介入されるような複雑な魔術なしの状態で、この囲みを突破。そうしてアリデル本体を狙うか、召喚の魔法陣を破壊する。これしかない)


 言うのは簡単。

 しかし、実行はあまりにも難しい。


 なぜなら、複雑な魔術を封じられた状態で、この包囲を突破すること自体が困難だからだ。


 しかもその間、僕は上空のアリデルからも目を離せない。

 件のブレスは、彼女自身が放つこともできるから。


 アリデルから注意を逸らした瞬間、僕は不意を突かれ、あのブレスを真正面から受けることになるだろう。



 さすがは上級魔族。

 早くもピンチだ。



 劣勢。絶体絶命。

 魔王の頃ならいざしらず、脆弱な人間となった今の僕が彼女に勝てるわけがない。

 それこそ、いくつ奇跡を起こせば勝てるのやら、というやつだ。


 だからこそ。



「クク。クククク。あはははははははははははははははははははっ」



 襲い掛かってくる漆黒の獣たちを拳で粉砕しながら、気づけば僕は笑っていた。


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