第11話『魔族でも』
坑道の中を僕とリディムは進んでいく。
途中で魔族が何体も出てくるだろうと少し身構えていたが、誰も現れなかった。
そのまま進んでいくと、やがて広い空間に出た。
そこには多くの魔族がいた。
目視できる魔族の数は三十二人。
おそらく何人かは潜んでいるのだろう。探査魔術では四十八の生体反応があったので、少なくともそれ以上はいるはずだ。
「くっ……もうここまで来たか。おのれ……もう少しだというのに……」
槍を構える魔族。
額から短い角が生えた、長身の男だった。
「ここは通さんぞっ!! グロスは倒せたようだが、俺は奴より──」
「邪魔だよ」
「うごわぁっ!」
喋り続ける魔族の懐に入り、殴り飛ばす。
魔族は壁に激突し、そのまま崩れ落ちた。
僕は周囲を見渡す。
「いちいち相手するのも面倒だ。全員でかかってきなよ。もう君らに期待なんかしてないんだからさ」
やる気のない声でそう告げる。
おそらく、怒声をあげながら雑魚が群がってくるのだろう。
そう思っていたのだが……。
「ひぃっ……人間……」
「そんな……ゴメズが一撃で……」
「あの強さ……まさか勇者か?」
「馬鹿なっ! レイフォード家の動きは常に観測している。だが、勇者を呼んだ様子などなかったぞっ!」
「ならば、たまたまこの領地に勇者がいたか。あるいは……逃亡した我らを追って、ここまで来たか……」
「くぅっ……もう少しでアリデル様が目覚めるというのに……」
「嫌だ……もうあそこには戻りたくない。勇者め……人間めぇっ!! くそぅ……クソォォォォォォォッ!!」
誰もが僕を見て怯えていた。
よく分からないが、僕には敵わないと戦わずして悟ったらしい。
さすがは魔族。賢い判断だ。
その判断は間違っていない。
そして、だからこそ……やはりつまらない。
「来ないのかい? まぁ、いいさ。君らに用はないんだ。封呪核を返してもらうよ」
この広い空間の中央には、大きな魔法陣が描かれていた。
その中心の台座に、黒い石が安置されている。
石の周囲には複雑な魔術式が走り、淡い光を放っていた。
おそらく、あれが封呪核なのだろう。
僕は封呪核を取り返すため、魔法陣へと向かう。
「くっ……」
その動きを多くの魔族が睨みつけるが、誰も歯向かってこない。
そのまま誰にも邪魔されないまま、僕は魔法陣の中へと足を踏み入れようとして──
「やめてっ!!」
それを小さな魔族の少女が阻んだ。
年の頃は十歳くらいだろうか。
背中には小さな赤い羽が生えている。
そんな幼子が体を震わせながら、必死に両手を広げて僕の前に立ちはだかったのだ。
「もうすぐ……もうすぐお母さんに会えるのっ! 邪魔しないでよ!!」
涙を浮かべながら叫ぶ少女。
「っ…………」
その姿に、僕は動きを止めた。
魔族の少女。
非力で、僕に敵うはずもない存在だ。
彼女自身もそれはわかっているのだろう。声は震えているし、足もガクガク震えている。
——それなのに、こうして僕の前に彼女は立ちはだかっている。
その姿はまるで──
「マスター、お下がりください」
リディムが僕の前に出る。
その手には、すでに魔力が集束していた。
「不敬な小娘です。御身の前から存在ごと消し飛ばしてごらんにいれましょう」
「ま、待ってくれ、リディム」
「ですが──」
「待てと言ってるんだ!!」
「は、はい……」
僕はリディムを制し、改めて少女を見る。
やはり少女は震えていた。
リディムの殺気を浴びたからだろうか、先ほどよりも震えは大きなものとなっていた。
それでも、少女は退こうとはしない。
「魔族が格上の相手に……そんなことがあるのか? 君は……」
僕がそう呟いた、その時だった。
ピキ──
封呪核に小さな亀裂が入る。
その亀裂は少しずつ大きくなり、光が溢れ出していった。
「おや? これはまさか封印が……」
「そのようですね。どうやら一歩、出遅れてしまったようです」
リディムがそう言うと共に、封呪核が砕け散った。




