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オンボロ自転車は恋の始まりになるか

掲載日:2025/12/15

放課後の空気は少し湿っていて生ぬるく、空は朱色に染まっている。

ボストンバッグを肩にかけて、健斗は駐輪場に入った。

そこで、古いクリーム色の自転車の前に、しゃがんでいる美羽を見つけた。


特別印象のないクラスメイト。声をかける理由もなかった。


だが今日の美羽は、自転車のフレームを撫でて肩を落としている。

気づけば健斗は声をかけていた。


「どうかした?」


美羽は振り返って、小さく答えた。


「自転車のチェーン、外れちゃった......」


自転車は年季が入っているのに、すみずみまで手入れが行き届いている。

外れて垂れ下がったチェーンだけが、どこかまぬけでかわいい。


「おれ、直せるよ」


健斗はしゃがんで、チェーンをギアに掛ける。

「ガチャリ」という心地の良い音。

隣の美羽がほっとしたのを感じた。


「ありがとう! 器用なんだね」


美羽の笑顔に夕陽が当たる。

なぜか眩しくて目をそらした。


「ずいぶん古い自転車だな」


「おばあちゃんのお下がりなの。キコキコうるさいし、すぐにチェーンも外れるけど、愛着湧いちゃったんだ」


やさしい口ぶりに、美羽の人柄がにじんでいる気がした。

気づけば、自然と視線を奪われていた。


ふいに、まっすぐこちらを見ている美羽と目が合う。

心臓の奥がドクンと跳ね、健斗は慌てて言葉を探した。


「......お下がりを大事に使ってるなんて、さ。偉いや」


「ふふ、直してもらえて助かったよ」



さっきまでまぬけに見えた自転車は、太陽を斜めに受けて、誇らしげに立っている。

そんな型落ちの自転車を大切にする美羽に、不思議と惹かれ始めていた。


「じゃ、気を付けて帰れよ」

熱くなった頬を隠すように、ヘルメットを被った。


「またね」


美羽も自転車に跨り、健斗とは反対方向に漕ぎ出す。

健斗が振り返ると、彼女の後ろ姿が、夕陽を浴びて暖かく光っていた。





健斗と別れて少し経った美羽は、自転車を漕いで帰っていた。

「カシャン」

暗い路地裏に差し掛かったところで、チェーンはまた外れた。


美羽は少しため息をつき、後ろを確認する。

健斗の姿は見えない。


「よし」


美羽の指は滑らかに動く。すぐにチェーンは元通りになった。


そう、美羽は本当は自分で直せるのだ。


「だって、話すきっかけ、ないんだもん......」


言い訳のようにつぶやきながら、再び自転車を漕ぎ出す。


「キコキコ」


お下がりの自転車は、彼女の背中を押すみたいに返事をした。

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― 新着の感想 ―
後半が素晴らしい。3メートルの法則って奴を見事に応用していて、さすがと思ってしまいます。そして、男子はこういう「奥ゆかしさ」にさらに惚れるのですね。 男子は女子の掌の上ってのが良くでていました。 羨…
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