9 セックスしないと出られない村(7)
Hな描写があります。
裸の付き合いなんて言葉もある。
パンツ一丁で背中合わせに座った俺とルネだったが、会話のほうは意外にも盛り上がっていた。
女子と話す話題の引き出しなんて俺は3つくらいしか持っていない。
だから、質問に終始していた。
俺はこの世界『龍鳴界』のことを何も知らない。
訊きたいことは山ほどある。
魔法のこと。
冒険者のこと。
ダンジョンのこと。
空飛ぶ島のこと。
この国のこと。
ほかの国のこと。
そして、龍のこと。
あれは何? これは何?
質問攻めにしてやった。
ルネは嫌な顔ひとつせず、むしろ楽しそうに答えてくれた。
おかげで、俺にもこの世界のアウトラインが見えてきた。
ぼんやりとだがな。
下ネタがない分、ナビよりよっぽど頼りになる。
「私、こんなに楽しかったの初めて。今日が生まれて一番幸せな日だわ」
太陽が西の山にかかった頃、ルネがそんなことを言った。
弾むような声から笑顔なのが伝わってくる。
聞き込みして回って、水かけっこして、おしゃべりして。
それだけだ。
生まれて一番幸せというのは言い過ぎだろう。
と思ったが、口には出さなかった。
幸せの尺度は人それぞれだ。
同年代の友達が一人もいない村。
ぼっちとはまた違う孤立感があるはずだ。
俺もこの世界に一人きりだから、心細さはわかる気がする。
それに、背中の傷のこともある。
ルネが幸せだと感じたのなら、それでいい。
「独り言を言うわけわからん奴に村じゅう連れ回された挙句、びしょ濡れにされて、半裸で質問攻めだ。ルネ、お前は俺を大きめの石で殴るべきだ。それが許されるくらいには大変な目に遭っているしな」
「ふん!」
俺の頭頂部に拳が落ちた。
「手ごろな石がないからグーで勘弁してあげるわ」
そりゃ寛大なことで。
「もうとっくに乾いただろう」
俺は膝に手をついて立ち上がった。
しかし、後ろからパンツを引っ張られて岩に座り直すハメになる。
何しやがる?
「もうちょっと一緒にいましょうよ」
背後からそう言われた。
心なしか、声が暗い。
半裸の美少女に一緒にいたいと言われて断る馬鹿はいない。
俺は背筋を伸ばして聞き耳を立てた。
「ユーシン、明日には町に帰るのよね?」
「そうなるだろうな」
町ではなく、天界だがな。
レポートが完成すれば任務完了だ。
「あんたが羨ましいわ」
「そうか」
同年代のいない村。
村のジジババは元気だし、ルネを可愛がっているようだ。
それでも寂しさはあるだろう。
俺は一人の教室を思い出した。
体育の授業の後、教室に帰ったら俺しかいなかった。
5分待っても誰も戻ってこない。
あのときの寂しさはよく憶えている。
みんなどこかに行ってしまい、俺だけ置いていかれたような気分。
ほかの教室から聞こえてくる喧騒が大きい分だけ孤独感も大きくなる。
俺の場合はすぐにクラスメイトが戻ってきた。
だが、ルネは違う。
待てど暮らせど誰も戻っては来ない。
ずっと一人のままだ。
背中にひんやりした感触があって、俺は体をビクっと震わせた。
ルネがもたれかかってきたらしい。
俺は石になったみたいに身を固めた。
『当方、小川の小魚でも眺めておこうかと。ユーシン様はぜひぜひお楽しみください、グフフ』
ナビが気を利かせて離れていった。
その実、茂みの陰からこちらを観察する腹だろう。
カマキリにでも食われてしまえ。
「ユーシン、私が言ったこと憶えてる?」
どの言葉だろう、と少し考える。
あれしかないな。
――セックス? ああ、セックスね。そんなの私がしてあげるわ。
ルネはたしかにそう言った。
そして、こう続けた。
――お願い聞いてくれるなら、だけど。
ひんやりしていた背中が徐々に熱を持ってくるのを感じる。
「私、この村から出たいの。町でもどこでもいいわ。私を連れ出して、ユーシン」
「それがお願い……なのか?」
「そう。私、もうこんなとこ、一日だっていたくない。苦しいの。もう自由になりたいわ」
背中が離れた。
かいた汗に風があたり、冷たくなる。
しかし、すぐに温かい感触に包まれた。
ルネの腕が俺の鎖骨のあたりでクロスしている。
後ろから抱きつかれた格好だ。
そして、背中に当たる未知の感触……。
俺の仮初の心臓がドクンドクンと早鐘を打った。
「ぁく……!?」
突然、髪を鷲掴みにされて後ろに引き倒された。
岩で後頭部を打つ。
……かと思ったが、柔らかな感触に受け止められた。
膝まくらだった。
茜色の空を2つのお山が隠している。
「私がセックスしてあげる。そうすれば、ユーシンもこの村から出られるでしょう?」
お山の向こうから目をつむった顔が近づいてくる。
うっ、と息が詰まった。
唇に熱い感触がある。
大きなナメクジが這い回るような、ぞわっとする感触。
でも、気持ち悪さとかはない。
体から力が抜けて、目がとろんとしてくる。
おでこに当たる真っ赤な髪がくすぐったかった。
「……」
「……」
ねっとりした濃厚なキスが続いた。
息が続かなくなってきた頃、ルネの手が俺のパンツをまさぐった。
不器用な手つきだ。
なかなか手を入れられずにいる。
結局、パンツの上から触ることにしたらしい。
刺激が脳に突き抜けて、俺は脚をびーんと突っ張った。
……と、ここで息が限界。
俺たちは同時に唇を離して中州に転がった。
「はあ、はあ……」
しばらく、赤い景色の中に荒い吐息が響いた。
間がもたなくなって顔を上げると、真っ赤な顔のルネと目が合った。
「お願い、聞いてくれる?」
そう問われる。
俺は返事ができなかった。
願いを叶える代わりにセックスさせてもらう。
そこに愛はあるのか?
ルネにしてもだ。
村から出るために体を売る。
それで正しい未来を掴めるのか?
そんなプラトニックな感傷が俺の口を塞いでいた。
「……そっか」
黙りこくる俺を見て、ルネは小さくそう言った。
笑顔だった。
だが、俺にはルネが泣いているように見えた。
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