6 セックスしないと出られない村(4)
中天に昇った太陽が容赦なく脳天を焼き付ける。
暑いな、と思ったら、季節は夏らしい。
セミの声がうるさかった。
トコ村を歩き回ってひと通り聞き込みを行ってみた。
結果は芳しからず。
美女とベッドインするフラグは一向に立たない。
ため息が止まらなくなる程度には、俺は落胆していた。
今は、村はずれの小川で涼をとっているところ。
石橋に裸足で腰かけていると、足にこもった熱を風がさらって心地いい。
俺は証言内容をまとめたレポート画面に目を落とした。
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――この村は、セックスしないと出られない村だとうかがって来たのですが。
「そんなわけないべ。普通に出られるで。みんな出ていくわ。この村は何もねえけんな。若いもんはみーんな出ていっちまった」
(農家・60代男)
「誰ぞ村を悪しざまに言うとるんじゃろうな。根も葉もない悪評立てよってからに。けしからんわ」
(鶏卵農家・80代女)
「町の若いのがよう来るで。鼻の下伸ばしたのがなぁ。みんなガックリして帰っていきよるわ」
(大工・70代男)
――この村に一風変わった習慣や奇習みたいなものってありますか? エロい系のやつで。
「そんなもんないわい。普通の村じゃて」
(機織り・70代女)
「わしじゃな! わし、村で一番エロいで。エロジジイ言われとるけぇの! わしこそがトコ村の生けるエロ奇習じゃ、ダハハ!」
(酔っ払い・60代男)
――村で奇妙な事件が起きたりとか。
「まさに今、起きとるでよ。あんたみたいな若い男連中が村さ尋ねてきてよ、みんな肩落として帰っていきよるわ」
(村最高齢の老婆・90代)
「事件なんて起きないわよ。ほんっと何もない村。私も町に行きたいわ」
(エンフェールネン・15歳)
――その他、証言。
「今年は豊作だで。収穫が楽しみだわ」
(農家・50代男)
「そんでもよ、村の外さ出るのはおっかないのう。三ツ眼狼の群れが出るでのう」
(農家・70代男)
「今夜あたり一雨きそうねぇ。カビがわかないか心配だわ」
(主婦・40代)
「フェルネちゃんはええ子よぅ。優しいええ子じゃ」
(通りすがりの老婆・80代)
「そうか? だいぶ口悪いだろ」
(俺・16歳)
『おっしゃる通りかと。でも、そういうメスガキにヒンヒン言わせるのも至高かと』
(ナビ妖精・年齢性別不詳)
「おい、坊主。この村に移り住む気はねえか? 畑仕事やったら、わしが教えたるで」
(農家・40代男)
「村から出ていくもんばっかりで嫌になるのう。村長ンとこの坊も出ていっちまったなぁ」
(通りすがりの60代男)
「じゃから、わし、孫に言うてやったんじゃ。出ていくなら、ガキぐらい作えていかんか、とな」
(腰の曲がった老爺・80代)
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村人の半数から話を聞けた。
だが、因習村であることを裏付ける証言は得られなかった。
セックスうんぬんの話もさっぱりだ。
『乳がでかくてケツの軽そうな女も皆無でしたね。非常に残念かと』
ナビがまたカスみたいな発言をする。
ルネがいるから返事はしないが、後で一言文句を言ってやろう。
「ね、普通の村だったでしょ?」
ルネが俺の隣に腰を下ろした。
俺を真似て石橋から脚を投げ出している。
太ももには日焼けの境目がくっきり。
目に毒だな。
「まだ保留って感じだ」
俺はメニュー画面を閉じて、ルネのほうに体を向けた。
「いろいろ付き合わせて悪かったな。ほかに用事があったんじゃないか?」
ルネは畑仕事を放り出して俺の案内を買って出てくれた。
理由は、面白そうだから、だそうだ。
「用事? あったけど……でも、いいわ。私だってたまには羽を伸ばしたいもの」
ルネがうーんと背伸びして言う。
脇から覗く日焼け知らずの白い肌。
艶めかしい。
「あんたのこと、ある意味、見直したわ。村じゅう聞き込んで回った奴なんてあんたが初めてよ。どんだけ欲求不満なのよ」
心外だ。
そして、当然でもある。
こちとら仕事でやっているのだ。
まあ、3割くらいは下心だがな。
「それで? 何か掴めたかしら」
「そうだな……」
俺は清流に目を落とした。
セックスしないと出られない村なのに、セックスせずに出られる理由。
「ひとつ、これかな、って仮説はある」
俺は頭の中で筋道を立ててから、仮説を口にした。




