表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/38

6 セックスしないと出られない村(4)


 中天に昇った太陽が容赦なく脳天を焼き付ける。

 暑いな、と思ったら、季節は夏らしい。

 セミの声がうるさかった。


 トコ村を歩き回ってひと通り聞き込みを行ってみた。

 結果は芳しからず。

 美女とベッドインするフラグは一向に立たない。

 ため息が止まらなくなる程度には、俺は落胆していた。


 今は、村はずれの小川で涼をとっているところ。

 石橋に裸足で腰かけていると、足にこもった熱を風がさらって心地いい。


 俺は証言内容をまとめたレポート画面に目を落とした。


◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━


 ――この村は、セックスしないと出られない村だとうかがって来たのですが。


「そんなわけないべ。普通に出られるで。みんな出ていくわ。この村は何もねえけんな。若いもんはみーんな出ていっちまった」

(農家・60代男)


「誰ぞ村を悪しざまに言うとるんじゃろうな。根も葉もない悪評立てよってからに。けしからんわ」

(鶏卵農家・80代女)


「町の若いのがよう来るで。鼻の下伸ばしたのがなぁ。みんなガックリして帰っていきよるわ」

(大工・70代男)



 ――この村に一風変わった習慣や奇習みたいなものってありますか? エロい系のやつで。


「そんなもんないわい。普通の村じゃて」

(機織り・70代女)


「わしじゃな! わし、村で一番エロいで。エロジジイ言われとるけぇの! わしこそがトコ村の生けるエロ奇習じゃ、ダハハ!」

(酔っ払い・60代男)



 ――村で奇妙な事件が起きたりとか。


「まさに今、起きとるでよ。あんたみたいな若い男連中が村さ尋ねてきてよ、みんな肩落として帰っていきよるわ」

(村最高齢の老婆・90代)


「事件なんて起きないわよ。ほんっと何もない村。私も町に行きたいわ」

(エンフェールネン・15歳)



 ――その他、証言。


「今年は豊作だで。収穫が楽しみだわ」

(農家・50代男)


「そんでもよ、村の外さ出るのはおっかないのう。三ツ眼狼(サードアイ・ウルフ)の群れが出るでのう」

(農家・70代男)


「今夜あたり一雨きそうねぇ。カビがわかないか心配だわ」

(主婦・40代)


「フェルネちゃんはええ子よぅ。優しいええ子じゃ」

(通りすがりの老婆・80代)


「そうか? だいぶ口悪いだろ」

(俺・16歳)


『おっしゃる通りかと。でも、そういうメスガキにヒンヒン言わせるのも至高かと』

(ナビ妖精・年齢性別不詳)


「おい、坊主。この村に移り住む気はねえか? 畑仕事やったら、わしが教えたるで」

(農家・40代男)


「村から出ていくもんばっかりで嫌になるのう。村長ンとこの坊も出ていっちまったなぁ」

(通りすがりの60代男)


「じゃから、わし、孫に言うてやったんじゃ。出ていくなら、ガキぐらいこさえていかんか、とな」

(腰の曲がった老爺・80代)


━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇


 村人の半数から話を聞けた。

 だが、因習村であることを裏付ける証言は得られなかった。

 セックスうんぬんの話もさっぱりだ。


『乳がでかくてケツの軽そうな女も皆無でしたね。非常に残念かと』


 ナビがまたカスみたいな発言をする。

 ルネがいるから返事はしないが、後で一言文句を言ってやろう。


「ね、普通の村だったでしょ?」


 ルネが俺の隣に腰を下ろした。

 俺を真似て石橋から脚を投げ出している。

 太ももには日焼けの境目がくっきり。

 目に毒だな。


「まだ保留って感じだ」


 俺はメニュー画面を閉じて、ルネのほうに体を向けた。


「いろいろ付き合わせて悪かったな。ほかに用事があったんじゃないか?」


 ルネは畑仕事を放り出して俺の案内を買って出てくれた。

 理由は、面白そうだから、だそうだ。


「用事? あったけど……でも、いいわ。私だってたまには羽を伸ばしたいもの」


 ルネがうーんと背伸びして言う。

 脇から覗く日焼け知らずの白い肌。

 艶めかしい。


「あんたのこと、ある意味、見直したわ。村じゅう聞き込んで回った奴なんてあんたが初めてよ。どんだけ欲求不満なのよ」


 心外だ。

 そして、当然でもある。

 こちとら仕事でやっているのだ。

 まあ、3割くらいは下心だがな。


「それで? 何か掴めたかしら」


「そうだな……」


 俺は清流に目を落とした。

 セックスしないと出られない村なのに、セックスせずに出られる理由。


「ひとつ、これかな、って仮説はある」


 俺は頭の中で筋道を立ててから、仮説を口にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ