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43 蜘蛛に化ける村(18)


 ふと気がつくと、俺は牢獄にいた。

 地下牢だ。

 あたりには菓子の袋や読みかけの漫画などが散乱している。

 この陰気さ……。


「ルネんとこの神殿か」


 幸いにして、牢に鍵はかかっていない。

 通路に出ると、隣の牢でゲームに没頭する肉塊……じゃない、堕六尼(ダラクネ)を見つけた。

 挨拶したが、ぶぅ、と小さく返ってきただけだった。

 怠惰の女神様は本日も怠惰でいらっしゃるようだ。


 さらに隣の牢でルネを発見。

 眼鏡をかけ、レポート画面に熱中している。

 こちらは鍵がかかっている。

 レポートを投稿するまで出られない部屋なのだろう。


「お疲れ」


「あんたもね」


 軽く目を上げただけで、ルネは執筆作業に戻った。


「今回はいいレポートになりそうよ。私が体を張ったから近隣の村々は守られたんですもの。……あ、クレーターのサイズ教えてくれる?」


「だな。小さな村の大冒険だった。深さ3メートル。幅は10」


「ほら見なさいよ。私が自爆するとこ、ちゃんと撮れてるわ。レポートに添付して読者に見てもらうの。……深さ30メートルで幅は100、と」


「おい、トカゲをドラゴンみたいに盛るな」


「テクよ、テク。盛ったほうが盛り上がるところはモリモリでいいの」


「つか、レポートに動画とか添付できるのか」


 動画には俺の顎とカズハの頭、それから黄金の盾が映り込んでいる。

 どうやら、猿ノ進の目線らしい。

 撮影機能を持つ妖精ってわけか。

 すごいじゃないか。

 俺は檻にぶら下がっている猫っぽい猿をなでてやった。

 咬まれるまでがお約束だ。


「今回は因習と妖怪のダブルパンチがもたらした悲劇って感じかしらね」


「そのようだな。ナグモ村の村人は旅人に対する加害者であり、妖害による被害者でもある。そして、9割方の村人はすでに死亡済み。この場合、天はどんなジャッジを下すんだ?」


「お咎めなしじゃないかしら。少なくとも、天界のほうでは、ね」


 ルネは意味ありげな笑みを浮かべている。

 天が罰しないなら、……地か?

 天界があるなら、地獄もあるだろう。

 俺はえげつない棍棒を持った鬼の群れと、それを従える閻魔大王を想像してブルッとした。


「んーっ! 投稿完了っと!」


 ルネが伸びをすると、ガチャンと音を立ててロックが外れた。


「あの豚、レポート呼んでくれるまで3日はかかるから、お尻蹴りにいかないと」


「おい、隣の牢だぞ? 聞こえちまうぞ」


「あーれー? 私は豚って言っただけよ? ダラクネ様のことだなんて言ってないわ」


 ニヤニヤしていたルネだったが、不意に凍り付いた。

 隣からすさまじい殺気が飛んできている。

 地下牢が激震している。

 ダラクネ様は怠惰だが、怒るときは面倒臭がらないらしい。


 と、俺の前に扉が現れた。

 ウチの女神様の神殿に続く扉だ。

 呼び出しか。


「ルネ、先に帰っていてくれ。無事生きて帰れるなら、だがな」


「ちょ、ユーシン!? ま、待っててば……」


 ぱたん。

 俺は容赦なく扉を閉めた。

 ダラクネ様、思う存分やっちゃってください。


 俺は真っ白な空間を見渡した。

 純白の翼を広げた女神が慈愛の微笑みをたたえている。


「お呼びですか?」


 と、俺は少し緊張した声で尋ねた。


「そんなに身構えることはありませんよ。一言お礼を伝えたいだけですから」


 そう言って、女神はどこからともなく蜘蛛の黄金像を取り出した。

 俺が捧げたものだ。

 急速に喉が渇くのを感じた。

 女神様ともあろうお方に、純金とはいえ、邪教の……それキッショい蜘蛛を献上するなんて。

 不敬のそしりを受けてもおかしくない。


 俺は謝罪の言葉を叫ぶべく、深く息を吸い込んだ。

 が、その前に、


「とっても素敵ですね! こんなに素晴らしい贈り物は初めてですよ、ユーシン!」


 と、女神が声を弾ませた。

 喜んで……いる?

 いや、そんなもんじゃない。

 頬ずりしている。

 上気したちょっとエロい感じの顔で、はあはあしながら黄金の蜘蛛を愛撫している。

 どうしたんですか?

 蜘蛛がお好きなので?


 ハッと我に返り、女神は恥じらいを見せた。


「わたくし、実は金脈の女神なのです」


 金脈の女神、か。

 ダラクネは怠惰を司っていた。

 神々にはそれぞれ自担があるのだろう。


 いかにも女神といったオーソドックスな見た目をしているくせに、


「意外と低俗な女神なんですね……」


「黙れ。殺しますよ?」


「あ、いや、すみませんでした……」


 全身がぞくっとした。

 おお怖……。


「わたくしはわたくしのものを取り戻しているだけです。金脈から人々が奪っていった金をこの手に」


 ふむ。

 金脈の女神からすれば、人間は……特に金鉱山で働く鉱夫たちは野菜につく害虫みたいなものだ。

 すべての金は本来、この女神様のものなのだ。


「また贄を見つけ次第、貢ぎますね」


「お願いします。あなたには期待しているのですからね、未来の大天使さん」


 大天使?

 俺が?

 未来の?

 いずれ上位の天使になれるってことか?

 それとも、単に巨大化する伏線ってこともあるな。

 デカイ天使だ。


 女神が指を振ると、扉が現れた。

 時は金なり。

 謁見の時間は終了らしい。

 でも、最後にひとつだけ。


「女神様のお名前をうかがっても?」


「わたくしは金脈の女神アウロマリア。アウラ様でいいですよ。ユーシンだけ特別です」


 にこっと笑う様がチャーミングだった。

 俺だけ特別か。

 うふっ。

 みんなに言っているとしても、言われると悪い気はしない。

 あれだ。

 男はみんな社長と呼ばれたいのだ。


 次の村も頑張ろう。

 俺は心からそう思った。


これにて、完結です。

読んでくださった皆様、ありがとうございました。

現在連載中の↓作品↓も読んでいただけると嬉しいです。


模倣魔法が強すぎた ~努力ゼロ、真似するだけで世界最強。聖女も賢者も剣聖も、完コピしたから俺一人で十分な件~

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