表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/39

4 セックスしないと出られない村(2)


「この【レポートを書く】というのは?」


 俺はメニュー画面を指してナビを見た。

 タッチすると、半透明のキーボードが視界に浮かんだ。


『女神様への報告書を出す欄ですね。レポートを提出するか、仮初の肉体が破壊された時点で調査は終了となります』


 メモ帳としてもお使いいただけるかと、とナビは付け加えた。


「死んだ唯一の利点がレポートを書かされずにすむ、ってことだったんだがな」


 まあ、いい。

 地域文化よりは筆が走りそう課題だ。

 なんたってセックスしないと出られない村だしな。


「仮初の肉体、か」


 俺は手をグッパーさせた。

 軽く跳んでみる。

 なんの変哲もない自分の体って感じだ。

 脈も触れている。

 たぶん血も赤い。


「羽なし、だっけか? 天使といっても、輪っかも翼もないんだな」


『ユーシン様はまだ駆け出し調査員ですので。経験と実績を積んでいけば、ほかの皆様と同じように特殊な力を秘めた光輪と、飛行能力を持った光翼が手に入るかと』


 そういうものか。

 そして、やはり、俺以外にも調査員てんしはいるわけだ。

 世界は無数。

 因習村も無数。

 となれば、天使も無数。

 こうしている今も、蚊柱のように飛び交っていることだろう。


「それじゃ、行きますか。セックスしないと出られない村へ」


 俺は行く手に見える村を睨んだ。

 手はじっとり汗ばんでいる。

 やっぱ普通に怖いな。

 因習村って。


『ユーシン様にとっては初めての調査ですね。ですが、心配ご無用かと。女神様はお優しい方ですから、難易度・危険度ともにイージーな村を割り振ってくださったはずですよ』


 と、ナビが気休めを言う。


「なら、あまり身構える必要もないのか」


『はい。チュートリアルだと思って、のんびり行くのがよろしいかと』


「ふむ。難易度低めな上に、比較的安全で、セックスまでさせてくれる村か」


 すごいな。

 急に天国に思えてきた。


「でも、初体験のレポなんてちょっと恥ずかしいな」


『初体験ではなく、村の実態をお願いします』


 それもそうか。

 頑張ろう。


『それと、もう遅いですが、ユーシン様』


 ナビが俺の鼻先にとまった。


『当方、妖精ですので、ユーシン様にしか見えませんし、声も聞こえません。よって今、傍目にはユーシン様が一人でしゃべっているように見えるかと。完全に異常者ですね。ご注意を』


「誰が異常者だ」


 と、言ったところで、俺は戦慄した。

 もう遅い……だと?


「あんた、なに一人でしゃべってんのよ?」


 突然、背中に声がかかった。

 なるほど、たしかにもう遅いようだ。

 俺は顔が熱くなるのを感じながら振り返った。


 少女が一人、立っていた。


 歳は俺と同じか、少し下。

 背景の緑に真っ赤な髪が映えている。

 化粧なし。

 日焼けした肌。

 髪には、くしさえ通していない。

 田舎のイモ娘といった雰囲気だ。

 でも、綺麗な子だ。

 原石的な美観がある。

 磨けば光りそう。


 ぜひ、話をしてみたい。

 手に鎌さえ握っていなかったらな。


 俺は慌てて腹を守った。

 だが、腹だけ守ってどうする?

 中国拳法の構えを取ろうかと思ったが、やったことないからやめた。

 ダチョウのものまねだと笑われるのがオチだ。


 落ち着いてよく見れば、逆の手に野菜の入った竹籠を抱えている。

 周りは畑。

 農作業の途中だったのだろう。


「なんか言いなさいよ。今の今まで一人でくっちゃべっていたじゃないの」


 胡乱な吊り目で睨まれる。

 あばば、何か言わないと。

 これ以上、怪しまれるのは困る。

 調査に差し障りが出る。


 俺は腹をくくった。


「俺の名はユーシン。セックスしないと出られない村があると聞いて調査に来た」


 素性と目的をあえて明かす。

 天使であることさえ黙っていればいい。

 変に隠し立てすると怪しさに拍車をかけるだけだ、という判断。


「はぁ」


 と、少女は気だるげにため息を吐く。

 まーた馬鹿が来たわ、と顔に書いてあるぞ?

 失礼な。


「私はエンフェールネン。フェルネでも、ルネでも好きに呼んで。私はあんたのこと馬鹿チンって呼ぶから」


 おっと、これは手厳しい。

 勝気な子だな。


『ユーシン様。この人間、完全に舐めてますよ。女神様に仕えし天使たるユーシン様に対して、なんと不敬な』


 白く光っていたナビが黒々とした光に変わった。


『ユーシン様、このメスガキに御身の馬鹿チンをねじ込んで、まずは下の口から黙らせてやるのがよろしいかと』


「お前、凄まじく口悪いな……」


 ドン引きのあまり、つい声に出してしまった。

 だが、問題ない。

 文脈的にはルネの言葉と矛盾はない。


 ルネはふん、と鼻を鳴らした。


「あんた、町から来たの?」


「……町?」


 そう言われ、落下中に見た地上の光景を思い出す。

 山をひとつ挟んだ向こう側に小さな町があった。

 じゃあ、そういうことにしよう。


「ああ、町でこの村のうわさを耳にしてな」


「ふーん。羨ましいわ。こんな村と違って、いいとこなんでしょうね」


 ルネの声は暗く湿っていた。

 村に不満があるのか?

 因習を快く思っていないとか。


 とも思ったが、都会に憧れる若者は珍しくない。

 単に羨ましいだけかもしれない。


「それで、ずばり訊く。この村はセックスしないと出られない村なのか?」


 俺は喉をごくりと鳴らした。

 イエスorノー。

 運命の瞬間だ。


「セックス? ああ、セックスね」


 ルネはまた、ため息をついた。

 そして、言った。


「そんなの私がしてあげるわ。お願い聞いてくれるなら、だけど」


ここまで、読んでくださった皆様、ありがとうございます!

少しでも「面白い」と思っていただけましたら、

『ブクマ登録』と下の★★★★★から『評価』をしていただけると嬉しいです!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ