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38 蜘蛛に化ける村(13)


オン雷矢カムヤ射貫イルガ!」


 カズハの錫杖から稲光が走った。

 黒蜘蛛の群れを一直線に貫き、本堂の壁に焼き跡を刻む。

 その横で火炎が噴き上がった。

 どごん、と空気が揺れる。

 ルネが爆薬を投じたらしい。

 黒蜘蛛が弾けて墨汁をまき散らした。


 二人のかっこいい立ち回りと違い、俺はなんかこう……。

 きゅんきゅん♪ している。


【魔法少女用ラブ・ピストル】はレア度Sだけあって破格の威力と連射力を誇る。

 だが、和装の高2男子が夜の寺院でハートを振りまくと、場違い感がすごい。

 黒蜘蛛も心なしか冷めた目で俺を見ている気がする。


「キリがないな」


 本堂から黒い湧き水のように蜘蛛が這い出して来る。

 このままでは、ジリ貧だ。


「このあやかしども、妖気の核となるものを感じ申さん! 拙僧の操る式神のようなものかと!」


 カズハがそう叫ぶ。

 術者がほかにいるわけか。

 ほかならぬ陰陽師の見立てだ。

 間違いあるまい。


「いったん退こう!」


 俺は頭上の渡り廊下を目で示した。


「上から回り込むのね!」


「ガッテン承知の助です!」


 仏塔の階段を駆け上がり、廊下を疾走、本堂を目指す。

 黒蜘蛛は猛烈な勢いで追い上げてきてきたが、ルネが廊下を爆破すると、瓦礫とともに落ちていった。


 本堂2階。

 窓のない外回廊になっていて、堂内の様子はわからない。


『右に進めば階下に通じる階段がござる。左は天守閣に通じてござる』


 と、猿ノ進。

 俺はてっきり階下みぎだと思い一歩目を踏み出した。

 だが、ルネは迷わず天守閣ひだりに折れた。


「上に行くのか?」


 猿ノ進の大殊勲で、巨大な蜘蛛とやらは本堂1階に落下したはずだが。


「ユーシン、あんた何言ってんの? 天使が階段使って下りたらマヌケもいいとこじゃない!」


 腰に手を当てて怒られた。

 なる、ほど……。

 たしかに、一理ある。

 俺も初めて女神に会ったとき、女神が翼を使わず階段から登場したら怪しんだかもしれない。

 年末の演歌歌手か! ってな。

 おっちょこちょいの幼馴染だって食パンくわえて通学路でぶつかると相場が決まっている。


 登場シーンは大事な見せ場のひとつだ。

 レポートでも筆が走る場面。

 天使たるもの、演出にも気を配らなくてはいけないのだ。

 勉強になる。


 ということで、最上階へ。

 七蜘蛛大社の天守閣。

 華やかに彩られた至高の空間であるべきこの場所は、猿のイタズラで目も当てられない状況になっていた。

 床が完全に抜けている。

 何もかも階下に落ちてしまったらしい。

 屋根にも大穴があき、不気味な妖雲と星空の大パノラマが広がっていた。


「戦闘型、こっわ」


「最高の褒め言葉だわ!」


『ウィ!』


 カズハが階下を覗き込んで目を凝らしている。

 下は闇に覆われ、黒一色。

 だが、異様な空気が渦巻いているのは俺にもわかった。


「凄まじい妖気です。計り知れぬ妖力を持つ大妖が、あの闇の中からこちらを見ております」


 見られているのか。

 背筋が寒くなった。

 どこ吹く風のルネが羨ましい。


「月が出るのを待ってから行くわよ」


「月が出るのを?」


 何か狙いがあるのだろうか。

 明るいほうが立ち回りやすいってことかな。


 なんにせよ、ルネは頭がおかしい。

 待つにしても、静かにただ待つような真似はしない。


「ぷぷぷっ、爆弾投下っ!」


 半笑いで灰色の粘土みたいなものを投下する。


「いかにも高性能爆薬ですって見た目のものを落としたな……」


「そうね。これで決着がついちゃうと、つまんないわね」


 しかし、爆音が轟くことはなかった。

 下を覗き込んでみるも、真っ暗な静寂があるだけだ。


「……不発か?」


「私、『爆破マスター』よ? 不発なんてありえないわよ」


「つまり、起爆条件を満たしていないってことか」


「下に人がいるってこと?」


「そうなるな」


 ルネの爆弾は殺傷範囲に人がいる場合、爆発しない設定だ。

 ということは、人がいるのだろう。


「きっと化け蜘蛛を操る悪の総帥に違いないわ」


 ウッキウキのルネの顔を月明かりが照らした。

 よし、行くか。


「ユーシンはカズハと一緒に先に下りてて。今回の主筆は私だもの。かっこいいとこ見せたげる」


「……おう」


 何やら悪そうな笑みを浮かべるルネを残して、俺とカズハは階下を目指した。


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