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36 蜘蛛に化ける村(11)


 ルネ調べでは、ナグモ村がゴースト・ヴィレッジと化したのは、ここ数日のことらしい。


「だから、まだ生きてる奴もいると思うわ。助ける価値があるかは知らないけど」


 ルネは関心なさげにそう評した。

 ミイラ取りがミイラに。

 愚か者にはお似合いの末路だと考えているのだろう。

 しかし、繭玉の中に囚われている人間はなにも村人だけではない。

 哀れな旅人が1人でもいるなら助けてやらねば。


「ってワケで、蜘蛛の親玉を爆殺するわよ!」


「異論はない。が、もう少し穏やかな表現をだな……」


「拙僧も頑張り申す!」


 そういう方針で我々は一致した。

 救出も妖怪退治も調査員の仕事ではない。

 が、頬かむりを決め込めば、女神の名が泣こう。


「カチコミよ!」


 意気揚々と七蜘蛛大社を目指すルネ。

 俺とカズハは家来みたいに付き従った。


 東の山から昇った太陽が、西に届かぬうちに沈んでいく。

 太陽が低いのだ。

 南南東から昇って南南西に沈んだというのが実際だろう。


 白かった空にわずかな赤が差している。

 またあやかしたちの時間がやってくる。


「俺、この世界嫌い」


「私は好きよ。楽しめるもの!」


 手投げ弾を指の上でくるくる回しながら、爆弾魔はそんなことを言っていた。





 ナグモ村の中心。

 七蜘蛛大社――。

 近くで見上げると、その威容がよくわかった。

 雲を突くような高さだ。

 小さな村にあっていい構造物じゃない。

 大波のように反り上がった石積みの壁などは、もはや城である。

 天守閣まであるガチっぷりだ。


「村人の信仰心の具現だな」


 四肢を捧げるだけじゃ飽き足らず、飢饉のさなか、せっせと苦役に励んだのだろう。

 蜘蛛のための村って感じだ。


「城に潜入か。忍者の血が騒ぐな」


「あんた、いつ忍者になったのよ……」


 俺に的確なツッコミを入れた後、ルネは思い出したように言った。


「でも、忍者っぽい奴ならいるわね。出ていらっしゃい、猿ノ進!」


『ウィ』


 光が弾けて、小猿が現れた。

 猫っぽい猿だ。

 忍びの衣装を身につけている。

 妙にふわふわしていて存在感が希薄な奴だった。


「私の妖精よ」


 ほう、妖精か。

 俺についていたナビ妖精はどこかに消えてしまった。

 こうして使い魔のごとく使役することもできるのか。


 なでてやると、ゆるふわな毛並みに癒やされた。

 でも、ガブリ。

 指を咬まれる。


「この猿、胡乱な顔で睨んでくるんだが」


「ユーシンと二人で過ごす時間を邪魔されたくなかったから、私ずっと猿ノ進をOFFの設定にしてたのよ。だから、スネてるのね」


 OFFの設定って……。

 ひでえ飼い主だ。


「俺じゃなくルネに咬みつけよ」


『姫の指はしゃぶるもの。咬みつくなどもってのほかにござる』


 猿ノ進はルネの人差し指を棒付きキャンディーみたいに舐め回している。

 殺してやろうか?


「やだ、ユーシンがやきもち妬いてるー!」


『キッキー!』


 ルネと猿ノ進が同じ顔であおってくる。

 飼い主とペットは似るって本当なんだな。

 つか、姫って呼ばせてんのか。

 田舎の小娘のくせに生意気な。


「妖精は何かと便利よ。偵察にも使えるし、支援攻撃とかしてくれる奴もいるわね」


「じゃあ、俺も自分の妖精を持つべきだな」


 どこで捕獲するのだろう。

 虫っぽかったから天界の草むらとかか?


「お前、便利なんだな」


 褒めてやると、猿ノ進はルネの頭の上で鼻を高くした。


『ウィ』


「うぃ?」


「猿ノ進はフランス語かぶれの忍者って設定なの」


「の割には『はい(ウィ)』しか言わねえのな」


『ウィ』


 ルネが猿ノ進に手投げ弾を渡した。

 なんのつもりだ?


「猿ノ進、あんたは先行しなさい。怪しいところを見つけたら、それ投げ込んでおきなさい」


『ウィでござる!』


 猿ノ進は巻尾で手投げ弾を絡め取ると、猫っぽい身のこなしで城壁を越えていった。

 おっかない猿だ。


「うっわ……」


 少し離れたところから、そう聞こえてきた。

 カズハが俺たちを見てキモがっている。


 俺はルネに顔を寄せた。


「もしかして、猿ノ進は天使にしか見えないのか?」


「そういう設定にしているわね。爆弾運ばせる都合、見えると困るもの」


「じゃあ、俺たち今、見えない猿を可愛がっていたのか……」


「道理でキモがられるわけだわ……」


 二人揃って震撼した。

 カズハには妖気が見えるが、俺たち天使には見えない。

 俺たち天使には妖精が見えるが、カズハには見えない。

 ここらへんは知的好奇心がくすぐられる差異だ。


 それでは、我々も城に潜入するとしますか。


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