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27 蜘蛛に化ける村(2)


 河童のいた川からなるべく離れて、俺は濡れた袖口を絞った。

 村の中に直接落下したらしい。

 どこを見ても家が見える。


「マジか。月が2つもある……」


 いやに明るいと思ったら、さすが異世界だ。

 なんなら3つ4つあるかもしれない。

 時間帯としては夜なのだろう。

 山の向こう側が白んでいる。

 夜明け前ってところか。


 太陽が出る方向を東ってことにしておこう。

 因習村めぐりも2村目となれば手慣れたものだった。


 しかし、ルネとはぐれたのは痛い。

 連絡を取る手段もない。

 まあ、目的は同じだ。

 調査を進めていけば自然とかち合うだろう。


「まずは、ガチャだな」


 俺は【本日の無料ガチャ】で今日の運勢を占うことにした。

 神仏のいる世界らしいので、気休め程度に両手をこすり合わせておく。


 ――パンパカパーン♪


「お?」


 いつになく派手な演出だ。

 七色に輝くアイテムが俺の手に舞い込んだ。


◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━


 大当たり!!

【魔法少女用ラブ・ピストル】レア度:S


━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇


「魔法少女用ラブ・……なんて?」


 俺は手の中で光る拳銃? 的なものをジト目で見下ろした。

 レインボーでミラクルでハートフルな銃だ。

 銃口もハート形。

 日曜朝の変身少女とかが持ってそう。

 これは、高2の男子が持っていいビジュアルじゃないな。


「レア度Sってのが救いだ。ゴミってことないだろう」


 もう一度、回せる。

 次だ、次。


◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━


【爆弾ベスト】レア度:A


━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇


 ほう。

 つまり、何か?


「俺は爆弾ベストを着て、魔法少女の鉄砲を撃ちながら妖怪退治するんだな?」


 なんてゲームだよコレ……。

 ジャンルは?

 どの層が喜ぶんだ……。


 でもまあ、武器が手に入ったのは大きい。

 基本は探偵型で調査を進めつつ、いざというときは戦闘型に移行しよう。

 お望み通り、爆弾ベストを着た魔法少女になってやる。


 現在の装備品とアイテムはこんな感じだ。


◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━


【装備品】

・魔法少女用ラブ・ピストル:S

・爆弾ベスト:A

・光剣:B


━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇


◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━


【所持品】

・バフ・ポーションセット:B

・デコイ人形:B


━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇━━◇


 どうせ72時間で消失する。

 もったいぶらずにドンドン使っていこう。


 俺は夜の村に分け入った。

 ナグモ村。

 景観は時代劇で見る江戸の町並みに通じるものがある。

 ただ、細部はけっこう違う。

 八角形が多い。

 窓枠、柱、屋根瓦、どれも八角形だ。

 四角い壁も、わざわざ四隅に斜めの骨組みを渡して八角形を作っている。

 路地裏に転がっている木桶に至るまで八角形だ。

 この分だと馬車の車輪も角ばっているに違いない。


「ここまでくると宗教だな」


 ……いや、因習か?


 開け放たれた戸口の奥に障子が見える。

 御多分に漏れず、八角形。

 放射状にさんが組まれている。

 パッと見、蜘蛛の巣だ。

 そういえば、村の遠景も蜘蛛の巣に見えた。


「蜘蛛に化ける村、か……」


 旅人たちの間でそう呼ばれている。

 ダラクネが教えてくれた前情報はこれだけだ。

 化け蜘蛛が巣喰う村でも、蜘蛛が化けて出る村でもなく、『蜘蛛に化ける村』――。

 言葉通りに受け取るなら、この村そのものが蜘蛛に化けるってことだ。

 だが、いくらなんでも荒唐無稽すぎる。

 普通に考えて、蜘蛛に化けるのは村人だろう。

 村人が蜘蛛の格好をして出歩いていたり、ケツから糸を出してぶら下がったりしているのだ。

 ちょいとイカれた万年ハロウィン村だ。


 問題なのは、その村人が一向に見当たらないことなのだが……。


 俺は暗い街並みを見渡した。

 人っ子一人いない。

 夜だからか?

 それにしては、あまりにも静かだ。

 今のところ河童しか見ていない。

 この世界の標準的な住民が河童という可能性は十分ある。

龍鳴界マドランシェル』にもリザードマンとかいるらしい。

 亜人種もいちおう人間というくくりだとルネが言っていた。

 でも、夜の川辺で聞き込みとかしたくないな。

 三途の川って言葉もある。


「大通りのほうを探してみるか」


 裏路地を歩いていると、上からロープのようなものが垂れてきた。

 先端が輪になっている。

 絞首刑用のロープみたいだ。

 ちょうど首の前で止まる。

 なんともこれ見よがしにな……。


 俺は光剣を取り出してロープを切り落とした。

 何か重いものが屋根の上を這うような音がする。

 あやかしか?

 村人という線もある。


 俺は地面でとぐろを巻いているロープに指で触れた。

 黒い繊維。

 トリモチのように粘着質。

 極太の蜘蛛の糸といった印象だ。


 よく見れば、あちこち糸だらけだ。

 首の高さ。

 踏みそうなところ。

 うっかり人が触れてしまいそうなところに黒塗りの糸が潜んでいる。


「思いっきり罠だな」


 俺は光剣で糸を切りながら、表通りに出た。

 ギシッ、と上から音。

 さきほどの重い気配の主が屋根の上に現れた。


 黒くてずんぐりしている。

 8本の脚に8つの眼。

 蜘蛛だ。

 巨大な蜘蛛。

 あやかしのご登場だった。


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