23 ルネの家
Hな描写があります。
ルネによると、スキルは生前の性格や習慣を加味して付与されるらしい。
剣道に明け暮れていた人は剣術系スキルになるとか、料理好きなら料理系スキルとか。
生前、毎日欠かさず遠方凝視をしていた人が鷹の眼を得たり。
水泳上手が水中で呼吸できるようになったり。
まあ、いろいろだ。
俺の場合は『ガチャマスター』。
ゲームばかりして過ごしていたから、その影響だろう。
『帰宅マスター』とかではなくて本当によかった。
「ちなみに、ルネのスキルは?」
「『爆破マスター』よ! 爆弾の威力が5倍になるの!」
ルネは真っ赤な髪を躍らせてピースを頬に当てた。
無邪気なスマイルだ。
でも、ルネのスキルも彼女の生い立ちに起因する。
物心ついたときから毒親に支配されていた。
ずっと解放されたいと願っていた。
その募りに募った抑圧感と鬱屈した感情が爆発力に転換されているのだろう。
スキルは時として心の傷を映す鏡でもあるわけだ。
気づけば、青かった空は茜色に染まっていた。
天界に地平線はない。
太陽がどこにあってどこに沈むのかは知らない。
だが、それでも夜は来る。
町を歩くルネはそわそわとしていた。
俺もこの空を見ていると落ち着かない。
ルネと一本松の下で口づけを交わしたことを思い出す。
切ない時間帯だ。
「ユーシン」
「ん?」
「今夜の宿泊先、あてはあるの?」
「ないな。天使ってどこで寝泊まりするものなんだ?」
「……」
俺の質問にルネは答えなかった。
そのまま、言葉少なにトボトボと赤い町を歩く。
「あのとき……みたいね」
ルネが不意にそう言った。
あのときって、どのとき?
もちろん、一本松の中州からの帰り道のことだろう。
ファースト・キスの後だった。
お互いふわふわした気分だった。
たしかに、そのときと雰囲気が似ている。
ルネはじっとりした目で俺を見つめていた。
「き、来なさいよ、私のうち。泊めてあげるわ」
「おう。助かる」
とか言ってしまった。
いいのか?
女の子の家に気軽にお泊りしてしまって。
家に行くということは、そういうことなのでは?
などと考えているうちに、目的地に到着。
ルネの家は目抜き通りからずいぶん離れたところにあった。
宙に浮かんだ離れ小島みたいな場所だ。
本島と吊り橋で繋がっていて、なかなか情感がある。
そんな小島の崖っぷちにある一軒家がルネの家。
空に張り出したテラスがおしゃれだ。
「は、入んなさいよ」
「おう」
中はこぢんまりしていた。
キッチンのほかには風呂とベッドルームしかない。
「そこ、かけなさいよ」
「おう」
椅子もないので、俺はベッドを椅子代わりにすることになった。
隣――それも肘の当たる距離にルネが腰かける。
「どう? 私の部屋」
そう尋ねるルネの声は硬い。
「いい匂いだな」
「なんで嗅覚でレビューしてんのよ。前世、犬だったの?」
そうかもしれない。
おとなしくお座りしているのがその証拠だ。
しばらく沈黙が場を圧倒した。
そして、ルネが口火を切る。
「わ、私にする? お風呂にする? それとも、ごはん?」
何を言っているんだ、こいつは。
「ごはんがメインみたいに言うなよ」
「か……かんだだけよ! うるさいわね!」
「かんではいないだろ」
スーハー、とルネは胸を膨らませて息を整えた。
そして、若干血走った強い目で俺を見る。
「ユーシン、お願い聞いてくれたらセックスしてあげるって話、憶えてる?」
憶えている。
ルネの中ではそれなりに時間が経っているのだろうけど、俺の中ではつい昨日の話だ。
俺はこくりと頷いた。
ルネはもう一度深呼吸した。
「私、天使になったからかしら。背中の傷も綺麗さっぱりなくなったの。綺麗になった体、あんたに見てもらいたいわ」
ルネは背中を向けた。
するすると白ワンピを脱ぎ捨てる。
ブラも外した。
真っ白な背中が目に痛い。
鞭の痕は綺麗さっぱりなくなっていた。
代わりに、翼の形をした光る紋様が脈打っている。
エロスかつ幻想的な背中だった。
「どう?」
「素敵かと」
俺はナビみたいな口振りで率直に評した。
きゅ、っとくびれた腰がいいんだわ。
よく見れば、ルネは地上にいた頃といろいろな部分が変わっている。
髪は滑らか。
日焼けは薄れ、唇には艶がある。
芋臭さが消えた。
あか抜けた。
原石がブリリアント・カットのダイヤモンドになって帰ってきたって感じ。
俺の胸がざわっと揺れた。
「あとはどうする? 私もうパンツだけなんだけど……」
ルネは真っ赤な顔で自分の体を抱いている。
さすがに自分で最後まで脱ぐのは抵抗があるらしい。
俺はごくりと喉を鳴らした。
「俺が脱がすよ」
まさか俺にこんなセリフを吐く日が来ようとは。
感慨深いな。
とか思いつつ、パンツに手をかける。
――脱がす部分がないというのも、いささか妙味に乏しいかと。
ナビは金言を言った。
まったくだ。
すっげードキドキする……。
そろそろとパンツを下ろす。
うっすらした和毛が目を引いた。
髪より淡い赤色だった。
勝負パンツは装備品だったらしい。
膝のところまで下ろすと、光の粒子になって消えてしまった。
脱がしきったという変な達成感で胸がいっぱいになる。
「い、いつまで見てんのよ……」
手が伸びてきて俺の頭頂部の髪をがしっと掴んだ。
引っ張られるままにベッドに手をつく。
目の前にくっきりした鎖骨と胸の膨らみが見えた。
「約束だもの。させてあげるわ」
完熟トマトみたいな顔で言われる。
「ええっと、……避妊」
「いいわよ、そんなの。天使は子供を作れないもの」
それは……寂しいな。
「でも、どこか遠くの新しい世界でアダムとイブになるって説もあるわね」
「そうか。じゃあ、人類誕生の瞬間だな」
俺は自分でも何を言っているのかわからなかった。
そんな俺を見て、ルネもムニムニと口元を歪めている。
「あんたのおかげで緊張がどっか行っちゃったわ」
ルネの手が俺の頭をなでて頬で止まった。
愛おしそうに見上げてくる。
「今日から毎日シてあげる。シたくなったら、いつでも言って。あんたのシたいときが私のシたいときだから」
そう言って目をつむった。
俺は半ば無意識に返事をし、ルネの顔に焦点が合わなくなるまで近づいた。
唇の先の神経にすべてを捧げ、溶け合った。
ひんやりしたルネの肌が熱を帯びていく。
俺の胸に触れていたルネの手が、首の後ろに回った。
俺もルネを抱きしめ返す。
逃がさないようにきつく締め付け、迷える先端で必死に入り口を探り当てて……、一気に思いの丈をぶつけた。
重ねた唇の隙間から、熱い息と小さな悲鳴が漏れる。
隙間を塞いで黙らせ、いたわりながらも、乱暴に蹂躙していく。
頭の中がぐるぐる回って……。
あとはもう何もわからなくなった。
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