22 天使たちの武器屋
町を歩いていると、中継を観たらしい天使たちからナイスファイトと声をかけられた。
「人気なんだな、デュエルって」
「下位同士の闘いが注目されることなんて稀よ? 今回は特別ね」
ルネは頬を赤らめている。
「どう特別なんだ?」
「なんていうか、その……。ほら、女を取り合っての決闘じゃない」
「あー、納得した。たしかに、それは見ものだな」
決闘内容でなく、決闘に至る経緯が注目されたわけか。
ともかく、投げ銭のおかげもあって、俺の持ちポイントは1万300ptほどになった。
漫画1030冊分の銭闘力だ。
「いろいろと店を見て回りたいな」
「なら、武器屋とかいいわね。あんた、まだ装備品をひとつも持っていないんでしょ?」
その通りだ。
いちおう、神器の盾はある。
だが、盾に捧げる贄はない。
丸腰同然だ。
因習村の調査には危険が伴う。
この町でデュエルが許されているのも自衛のための戦闘スキルを磨くためだろう。
武器屋は見ておくべきだ。
ということで、裏通りのあなぐら的武器屋にやってきた。
「なんというか、……これじゃない感がすごいな」
陳列棚を見て、ドン引きした。
銃がずらりと並んでいる。
アサルトライフルに、サブマシンガン。
スナイパーライフルに、ショットガン。
擲弾筒、ロケットランチャー、重機関銃、対物ライフル、水中銃、自爆ドローン、各種爆弾に地雷などなど。
まるで黒い八百屋だ。
極め付きは、これ。
近未来的デザインの掃除機をとにかくデカくした感じの兵器。
携行型高出力電磁加速砲。
天使が持っちゃいけないもののオンパレードだ。
武器屋の名前は『エンジェル・キッス』。
女子向けのアクセ・ショップみたいな看板出しやがって。
何が天使のキスだ。
こんなもん、死の口づけ以外の何ものでもない。
「俺は剣と魔法の世界の担当だからな。剣や槍があるのかと思っていた」
「私なんて初めて見たときは、なんだかわからなかったわ。でも、いいわよね。私、これで悪代官を蜂の巣にしたことあるわ」
ルネが軽機関銃をなでながらニヤッとする。
悪代官ってなんだよ……。
でも、因習村に行くならこのくらいの武装は必要だ。
魔物もいるしな。
「サブマシンガンとかいいな」
どう見てもイングラムM10にしか見えないものを手に取ってみる。
かさばらないサイズ感がいい。
制圧力も期待できそうだ。
サードアイ・ウルフに囲まれたときに持っていたら、自爆しなくてすんだのに。
「1万ptか。ちょっと手が出ないな」
かなり汚れが目立つ中古品でも3000ptだ。
レールガンなんて60万もする。
手が届くのはリボルバータイプの拳銃くらいだ。
それだって、弾代は別途かかる。
「強力な武器って意外に役に立たないわよ? 準備したのに結局使わなかったり、運び疲れたり、無用の長物になりがちね。それに、目的は調査だもの。談判破裂した時点で、調査失敗だわ」
ルネがそう評する。
経験談だな。
藪の中を機関銃背負って汗だくで進むルネをちょっと想像。
……うん。
すっげえ悪態ついてる。
腹立ちまぎれに乱射するまでがセットだ。
「天使にもタイプがあるのよ。探偵型、戦闘型、隠密型って感じでね」
「トコ村での俺は探偵型だな」
「そ。セオリー遵守で真っ向から聞き込みをかけていくスタイルね。コミュ力が高い人に多いかしら」
褒められた気がして俺はスッと鼻を高くした。
「戦闘型はふた言目には殴るわね。危ないデカってとこね。隠密型は最初から最後まで誰の目にも留まらず目的を達成するわ」
ルネは忍者みたいに印を結んだ。
所持する武器も型で選べばいいわけだ。
さて、問題はその型をどう選ぶかだが。
「スキルを軸に型を決めていく感じか?」
「そうなるわね。あとは性格よ」
「ちなみに、ルネは?」
「私は戦闘型! コソコソするのは性に合わないもの。それにね。不思議なことに、人って殴られたときに一番利口になるのよ。強く殴れば殴るほど、よくしゃべってくれるわ。ほんと不思議よね」
機関銃で武装してふた言目には殴る天使のほうが不思議であろう。
悪魔型と名乗りなさい。
「ユーシンってどんなスキルなの?」
ルネがダマスカス・ナイフを鞘に納めて好奇心を俺に向けた。
「『ガチャマスター』だ。レア度B以上が確定で出る。ついでに、50%の確率でもう一度引ける」
ランダム性の高いスキルだ。
スキルを軸に調査するなら、出たアイテムで調査方針も変わってくる。
名探偵にも、乱射魔にも、忍者にもなれる。
俺が向いているのは臨機応変型かな。
「面白いスキルね。レア度B以上が確定って課金ガチャと同じだもの」
「それ、課金で代用できるスキルってことでは?」
「そうとも言えるけど。でも、課金ガチャって高い割にハズレが多いのよ。期待値で考えると、普通に店で買ったほうがお得なの」
でも、俺なら50%でもう一度引ける。
期待値倍増とまでいかないが、当たる率は跳ね上がる。
「無料ガチャを課金レベルで引けるのはかなり強みだわ。無料ガチャってたいていクズアイテムしか出ないけど、当たるとデカイの」
メニューを開いてごらんなさいよ、と言われたので、そうする。
ルネは【本日の無料ガチャ】の右端にある小さな【?】をタッチした。
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【レア度ごとの出現確率】
S:0.001% → 10%
A:1% → 20%
B:4% → 70%
C:15% → 0%
D:80% → 0%
【注意事項】
※無料ガチャで得たアイテム・装備品を売ることはできません。
※出現したアイテムは72時間経過で消失します。
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「はあああ!?」
と、ルネが耳元でわめいた。
「レア度Sの出現率、1万倍じゃない!? なによ、これ。インチキスキルだわ!」
ふむ。
たしかに、そのようだ。
本来の確率ならレア度Aでも1年に3~4回しか出ない計算だ。
しかし、俺はSが10日に1回出る。
それも、もう一度引く機会もあるから、実際には週1で出る計算だ。
そもそも、上位5%を確定で引けるだけでだいぶ強い。
神スキルに思えてきた。
「無料ガチャでSランクを引いたらニュースになるわよ?」
毎週ニュースになる気? とルネが白い目で見てくる。
レポートのPV数が増えるなら、それも悪くない。
「ユーシンなら自力で装備を引けそうね。ポイントがもったいないし、不足を感じた部分を課金アイテムや装備で補えばいいんじゃないかしら」
というルネの方針を採用し、この日は財布の紐を締めることになった。




