21 勝敗
「対戦モードとかあるのか」
デュエルの申請画面を見ながら、俺はふーんと鼻を鳴らした。
「そうね。評価ポイントを賭けられるから、ポイントデュエルとか言われているわね」
ルネはくだらないという口調でこう続ける。
「ポイントに限らず、両者の同意の下でなら、なんでも賭けられるわ。相手に約束を履行させることもできるわね」
じゃあ、俺が勝ったら結婚してくれ、とかもアリなのか。
「逃げねえよな?」
レンジが片眉を上げてあおってくる。
そんな安い挑発に乗るほど俺は子供ではない。
とはいえ、女子の前だ。
見栄もある。
簡単に引き下がるのもな……。
ゲーマーとしてもPvPは燃える展開だ。
そもそも、こいつは織田に似ている。
なんかこう、一発殴ってやりたくて仕方がない。
受けてやってもいい。
勝てるなら、だが。
「ルネ、あいつの情報をくれ」
「あいつ、本名はチンナルっていうのよ。チンと鳴るから、みんなレンジって呼んでるわ。ただのアホよ」
どうでもいい情報をありがとな。
俺は【はい】をタッチして、対戦申請を受諾した。
俺とレンジを中心に光の檻ができた。
土俵ってところか。
町を行き交う天使たちが面白がって足を止める。
喧嘩が華になるのは江戸も天界も同じらしい。
「ユーシン、てめえ漢だな。このオレの挑戦を受けるなんてよ。フェルネが惚れちまうのも納得だぜ」
レンジは指をバキバキさせてからニカッと笑った。
「賭け金はどうするよ? オレは全額ベッドするぜ。お前も漢ならどんと張れよ」
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【チンナルが13ptをベッドしました】
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「いや、そこはルネを賭けろよ。つか、お前の持ち金13ptかよ」
漫画1冊とボールペン1本分だ。
求婚するなら貯金くらいしておけ。
俺も満額を投じた。
カン、とゴングが鳴る。
決闘開始だ。
レンジは仕掛けてこなかった。
後ろ体重でニヤついている。
「オレがスキルを使っちまったら勝負になんねえからな。拳だけでいくぜ? お前は装備もスキルも好きにしな。着替えくらいなら待ってやってもいいぜ」
そう?
でも、装備なんてないしな。
代わりに、俺は無料ガチャを引いた。
レア度Aの【強化手投げ弾】が出る。
グレネードか。
これも天界の町には似合わない代物だな。
俺はピンを抜いた。
「おい、レンジ。ちょっとこれ持っててくれるか? 今、着替えるからさ」
手投げ弾を投げて渡す。
受け取ったレンジは首をかしげた。
「なんだ、これ? オレの世界にはなかったな」
それが奴の最期の言葉となった。
どかーん。
上半身が爆散して町を朱に染めた。
だろうとは思っていたが、町に被害はない。
フレンドリーファイアが解禁されるのはリングの中だけなのだろう。
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YOU WIN――!!
13ptを勝ち取りました。
120ptを受け取りました。
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俺の勝ちらしい。
見物人たちが苦笑しながら去っていく。
「この120ptはどこから湧いたんだ?」
「投げ銭よ」
と、ルネも苦笑気味に答える。
「デュエルは天界中に中継されるの。高位の天使同士の対戦だと、1分で何万ポイントも動くわよ」
そりゃすごい。
こんなストリートファイトではなく、翼をフルに使った空中戦をするのだろう。
今度、俺も見てみよう。
「でも、1万pt以上賭けたことを考えると割に合わないな」
「そんなことないわ。あんたがベッドした分は、レンジの負債になるのよ」
ルネは、ぷっふふ、と笑った。
「あいつ、これから借金生活確定だわ。恋敵のために貢ぐ生活なんて笑えるわね」
笑えるか、それ……。
俺はレンジが可哀想になった。
もう一輪、供えてやるか。




