20 デュエル申請!
オレンジ髪の青年が駆けてくる。
例のイカロスの彼だ。
蘇生したらしい。
割れていた頭もそっぽ向いていた手足も元通りになっている。
でも、血まみれだ。
およそ天使の町にふさわしくないビジュアルだ。
そいつは、靴の裏でブレーキをかけてルネの前で止まった。
軽薄な笑みがまぶしい。
こいつが誰かは知らん。
だが、どことなく織田に似ている。
よって、俺は一発でこいつが嫌いになった。
「よお、オレのフェルネ!」
青年は前髪をなでつけながら白い歯をキラリ。
……オレの?
「違ッがうわよ! こいつが勝手に言っているだけ。私は誰のものにもならないわ」
ルネは忌々しいといった顔だ。
そして、頬を赤らめつつ俺をチラリ。
「あ、あんたは例外だけど……」
なんだ、お前。
そういうキャラだったか?
青年が俺を睨んだ。
鼻筋をピクつかせながら俺の胸ぐらを掴む。
「誰だ、てめえ? フェルネのなんだよ? いや、言わなくていい。惚れてんだろ、お前も」
お前も?
「そうさ、オレもだ。フェルネに心底惚れてんだ」
青年は人差し指で鼻の下をこすって赤い頬を隠している。
「フェルネにはよ、想い人がいんのさ。昔、離れ離れになっちまったその男をずっと捜しててよ、雨の日も風の日も天界中を駆けずり回ってたな。必死過ぎて見てらんなかったぜ。そして、オレはその一途さに惚れちまったんだ」
ああそう。
離してくれる?
服、伸びちゃうから。
「フェルネ、フェルネ、こいつを見てくれよ」
青年は俺を突き飛ばしてルネの前にひざまずいた。
ちんまりした花を婚約指輪のように差し出している。
「オレさ、あと少しで二町に届きそうだったんだぜ? この花は起きたら握っててさ。きっと二町の花だぜ?」
違う。
その花はそこらの花壇に咲いていたものだ。
俺が供えてやった花だ。
「あの日、オレが言ったこと憶えているか? オレが二町まで飛べるようになったら結婚してくれってヤツだ。この花をフェルネ、お前に捧げるぜ。晴れて中位天使になったあかつきには、オレの女になってくれ」
おい、お供え物で求婚すんな。
なんかこう、不謹慎だろ。
「何度も言っているわよね、レンジ。お断りよ。私には心に決めた人がいるもの」
腕組みしたルネは難攻不落の要塞のようだった。
「それ、どこの時系列にいるかもわかんねえユーシンとかいう奴だろ? 巡り合うのに何十年かかるかわかんねえぞ? その点、オレは今ここにいる。届かねえ高嶺の花より、届くとこにあるオレで手を打てよ」
「届くわよ。もう届いたわ。ね、ユーシン!」
頬で、ちゅ、と音がした。
フローラルな香りが鼻腔をくすぐる。
ルネはただのキスでは不満だったらしい。
もう一度、顔を寄せてきて俺の頬を舌で舐めた。
ぞわっとした。
そんな俺を見て、ルネはヘビ女みたいに舌なめずりして満足げに微笑んでいる。
さすが初キスで舌を入れてくる奴だ。
やることが違う。
「な……。う、嘘だろ……」
レンジとやらは2、3歩後ずさって膝から崩れ落ちた。
「オレ知ってる。これ、NTRだ……」
「BSSだろ」
僕が先に好きだったのに、だ。
そもそも、ルネはお前のものじゃない。
寝取られは成立しえない。
「決闘だ。決闘を申し込んでやる!」
レンジが俺に人差し指を突き付けて、わめく。
すると、小窓が開いた。
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チンナルにデュエルを申し込まれました。
対戦を受けますか?
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チンナル?
誰だ、それ。
レンジじゃないのか?
ま、確実に言えるのは、こいつが面倒臭い奴だということだ。
俺はため息をついた。
やっぱこいつ嫌いだわ……。




