2 天界で急展開!?
「セックスしないと出られない村、興味あります?」
「ありますね。かなりあります」
気づけば、俺は真っ白な空間にいた。
これまた真っ白な翼を持つ美人にそう問われ、俺はコクコクと頷いた。
女神みたいな人だ。
なら、そうなのだろう。
女神の実在など取るに足らん。
現代日本に食人族の村が存在していたことのほうが俺にいわせりゃ一大事だ。
「話が早くて助かります」
女神はふふっ、と笑った。
「さっそくですが、伊村勇進。あなたには、これから異世界に飛んでもらいます」
「さっそくですね。異世界転生ですか? チュートリくらい受けさせてくださいよ」
「厳密に言えば、転生ではありません。あなたに与えられるのは仮初の肉体ですから。ユーシン、あなたは女神の使い――天使として、異世界に行くのですよ」
俺が天使?
そんなアホな。
俺は天使になれるほど善人じゃない。
かといって、悪魔になれるほど悪人でもない。
中途半端で何者にもなれない。
それが俺という人間のはずだが?
「それで、異世界に行って何をしろと?」
「因習村を調査してほしいのです。私は天界を留守にはできませんので、代わりに行って調べてきてください」
「いやいや、因習村なんて二度と御免ですよ。俺がどうなったか見ていたでしょ? 女神様なら」
「見ていましたよ。あっさり死にましたね」
あっさりとか言うな。
「ちなみに今、俺の体ってどうなってます?」
「切り分けられていますね。水煮でシンプルにいただくみたいですよ。小さな子供たちもはしゃいでいます」
聞くんじゃなかった。
最悪だよ。
俺は居住まいを正して問いかける。
「それで、どうしてその異世界の因習村とやらを調査する必要があるのです?」
「簡単に言えば、世界を守るためです」
女神が指を振ると、白い空に無数の光が線を引いた。
「世界というのは無限にも思えるほどたくさんあるのです。そして、それぞれの世界は隣り合って並走し、決して交わることはありません」
しかし、と言って女神はもう一度指を振る。
光のひとつが黒く染まり、隣の光にぶつかった。
そして、巨大な爆発が起きた。
核爆発など比較にならない、世界そのものが消えるほどの爆発だ。
「因習村は人心を狂わせます。そして、やがては世界の秩序さえも狂わせるのです。狂った世界は迷走を始め、隣の世界と衝突します。それは、とめどなく連鎖し、やがて何もかもを完全なる混沌に沈めてしまうのです」
世界の連鎖崩壊。
そんな途方もないことが起きるというのか。
世界の崩壊を防ぐために異世界因習村をめぐり、その実態を調査・報告する。
それが天使たる俺の役目。
だいたいそんな感じか。
「でも、どうして俺なんですか?」
自分が特別な人間だとは思わない。
凡人という言葉は俺のためにある、と辞書にも載っていた。
「調査員となる条件は2つです」
女神は2本指を立てた。
「因習村に人生を狂わされたこと。そして、因習村の理不尽に抗う気骨を持ち合わせていること」
「抗う気骨? 俺、あっさり殺られましたよ? 見てたでしょう」
「あなたは最期を迎えるその瞬間、喉の奥底から声を絞り出し、よこしまな因習に染められた友人に悔恨の情を抱かせました。織田はしっかり改心しましたよ」
そうなのか。
改心か。
トラウマを植え付けて一矢報いたかっただけなんだがな。
それが気骨だと言われたら、そうなのかもしれない。
「改心した結果、今喰われてますけどね、彼」
「え、なんかすまん織田……」
女神はポンと手を叩いた。
際限ない爆発の連鎖が掻き消え、真っ白な世界が戻ってくる。
「要するに、俺は調査員なんですね。因習村に突撃リポートをかますのが俺の使命、と」
「そういうことです。調べたらレポートにまとめて報告してください。ユーシンは初めてですからね。今回はナビ妖精をつけて差し上げます」
どこからともなく光る玉が現れ、俺の肩に舞い降りた。
かすかに虫の羽音がする。
詳しくはこいつに訊けってか。
一点確認ですが、と俺は女神を見上げる。
「調査したうえで問題アリとなった場合、その村はどうなるんですか?」
「改善する必要があります」
女神の顔にほんのわずかに影が兆した。
深掘りすべきではないと思いながらも俺は重ねて問う。
「改善とは具体的には?」
「時と場合によります」
声の温度がぐんと下がった。
俺の背筋を冷ややかなものがさすった。
それでも好奇心が勝る。
「……もし、改善の見込みがない場合は?」
「適切に処理されます」
女神は笑顔だった。
だが、笑っているように見えない。
どちらかというと、怒りに近い。
天変地異を神の怒りと呼ぶことがあるが、あれはあながち間違いではないのかもしれない。
改善の余地がないなら、解体しかない。
奇病の蔓延、大規模な災害。
村が一夜にして消えることなど決して珍しいことではない。
俺はそれ以上、言及しないことに決めて口をつぐんだ。
女神がにっこりと笑ったので、内心ほっとする。
「それではユーシン、頑張ってくださいね。レポートの出来に応じて、ご褒美も用意してあげますよ」
突然、白い地面が抜けた。
体が落下していく。
行き先は下界――因習村だろう。
女神が手を振っているのが遠くに見える。
俺は手を振り返そうとした。
だが、意識はすーっと遠くなり、やがて何もわからなくなった。
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