19 目抜き通り
シラバネ三町の目抜き通り。
天使たちでごった返している。
車や馬車の類はなし。
みんな翼を持っているから移動手段には困らないのだろう。
建物の高い位置に交通標識らしきものがある。
飛行する天使に向けたものだ。
飛行速度制限とか空中一時停止とかある。
二段階右折とかも探せばあるかもしれない。
店はどこも盛況だった。
行列ができている店もちらほら。
「経営しているのも天使なのか?」
ルネに訊く。
「そうね。店番を妖精に任せているところもあるけど、オーナーはみんな天使よ」
調査員以外の天使、一般天使とやらが切り盛りしているのだろう。
ブティック、雑貨店、駄菓子屋、料亭、美容院、ジム、スポーツ用品店、Hなお店などなど……。
店の種類も豊富だ。
異世界の娯楽らしきものを扱う店も多い。
漫画まで売られているじゃないか。
「退屈しなさそうだな」
「世界の数だけ娯楽があるもの。私はユーシンの世界の漫画とかアニメとか観てるわ。あれ、勉強になるわよね」
ルネは感銘を受けたように声を弾ませている。
勉強になるか?
まあ、生きざまとか死にざまとかは学べるか。
あと、カッコイイ漢字とかな。
女神も言っていたが、「pt」が通貨として使われているらしい。
漫画1冊が10~20pt。
ボールペンが1本3ptくらい。
「レポートの評価点が財力になる世界か」
「そ。私だと3万ptくらいかしら」
ルネは少し得意そうだ。
漫画3000冊分の財力。
なんか強そう。
俺は初めてルネを尊敬した。
「平均月収はどれくらいなんだ?」
「下位の天使だと100pt稼げればいいほうね。飲まず食わずでも死なないから、ぶっちゃけ実入りがなくてもやっていけるわ」
そうはいっても、穀潰しを置いておくほど神々も寛容ではあるまい。
ある程度のノルマはあるはずだ。
ノルマを達成できなければ……。
怖いから考えないようにしよう。
「俺、まだ1本目を投稿したばかりなんだよな」
メニュー画面から【投稿済みレポート一覧】を開いてみる。
渾身のデビュー作を確認してみると、【評価ポイント:48pt】となっていた。
5段階評価で星1つにつき、2ptが入る仕組みだ。
評価者は計5名。
ということは、うち4人が満点評価をくれたらしい。
残る1人も星4評価だ。
「投稿してすぐなのに、すごいじゃない。これならランキングにも載るわね」
ランキングとかあるのか。
タイトルに「セックス」とか書いたから食いつきがよかったのかもしれない。
「私の処女作なんて散々な評価だったわ」
ルネが仏頂面でメニュー画面を見せてくれた。
ゲーマー仕様の俺と違って、畑っぽいデザインだった。
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【投稿済みレポート一覧】
『究極の天使となった私が華麗なる女神の至高なる妖精に導かれた時、相克する陰と陽が紅蓮に爆ぜ、創世の歌が鳴り響く。天は割れ、地は裂け、今隠されし真の闇を暴き、究極の審判が下る。今ここに真の天使が舞い降りん』
(PN:ルネ 連載 ファンタジー)
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あっ、絶妙に興味を引かないタイトルだ……。
というのが、俺の率直な感想だ。
強い言葉を並べれば強いタイトルになると思っている感じが実に痛々しい。
そして、肝心な「どんな村か」が何も伝わらないという……。
平均評価点は星2.2。
本文はまあ、お察しだ。
読むまでもないだろう。
「【セリフ回しがくどい】とか、【意味不明すぎ】とか、【中二病の人?】とか、コメント欄もずいぶん荒らされたわ。天使って暇人が多いのね。何回も死ねって叫んだわよ私。1週間がかりで6万字も書いた大作だったのに」
ルネはムッスゥー、としている。
お前が暇人と呼んだ連中は、まっとうなアドバイスをくれていると思うぞ?
反省しろ、反省を。
「ねえ、ユーシン。ポイントもあるみたいだし、買い物しましょうよ」
ルネは気を取り直して俺の手を引いた。
「私、あんたと町デートするのが夢だったの!」
そんなふうに言われて拒否る男子はいない。
俺もスキップ気味についていこうとした。
そこに、声がかかる。
「おーい、フェルネー!」
やってきたのは、一輪の花を持ったオレンジ髪の青年だった。
見覚えあるな、こいつ……。




