16 女神様のご褒美
「投稿っと」
「ご苦労様でした。これであなたのレポートが天界の津々浦々まで届きますよ。早ければ今日中に評価ポイントが振り込まれるかもしれませんね」
女神の言葉で俺は首をかしげた。
「評価ポイント?」
「レポートの出来栄えに応じて振り込まれるポイントのことです」
女神は手のひらの上に5つの星を浮かべた。
ということは、5段階評価なのだろう。
「星1つにつき2pt。五ツ星評価で10ptです。貯めたポイントは天界の町で通貨としてご利用になれますよ」
天界に町とかあるのか。
住人はもちろん天使なのだろう。
妖精もいるかもしれない。
「レポートの出来がいいほど公正な審判を下せる。だから、評価ポイントというニンジンをぶら下げている、と」
「端的に言うと、その通りです。ユーシンは顔の割に頭がキレますね」
あれ?
今、俺ディスられた?
馬鹿っぽい顔だって言われた?
まあ、聞き流すか。
次は文句を言う覚悟で一回だけ聞き流そう。
しかし、レポートの出来か。
そういえば、と思い出す。
――それではユーシン、頑張ってくださいね。レポートの出来に応じて、ご褒美も用意してあげますよ。
トコ村に俺を送り出す直前、女神はそう言っていた。
女神様のご褒美か。
ちらっとご尊体をうかがう。
露出度・標高ともに高めの二つの山が見える。
俺はごくりと喉を鳴らした。
「不敬では?」
「すいませんでした」
「よろしい」
女神は素早く俺のレポートに目を通した。
満足げに、うん、と頷く。
「初めてにしては非常によく書けていますね。要点もまとまっていますし、主観と客観を要領よく書き分けられています。起承転結とメリハリもあります。正直、期待以上ですね。帰宅部でゲーム漬けの毎日を送っていたとは思えない出来栄えです」
褒められたのかな?
言い回しをもう少し工夫してほしい。
褒められた気がしない。
そういえば、ナビも舌に毒があった。
この女神にしてあの妖精ありか。
「さあ、受け取ってください」
女神は、どうぞ、という仕草で両の手を俺に差し出した。
光る2つの玉が飛んでくる。
玉は俺の胸に吸い込まれた。
吸い込まれて大丈夫なものなんだよな?
ふぉん♪
と、アイテム獲得音。
半透明の小窓がポップアップした。
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神器『贄の御盾』を受け取りました。
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「あなたは死すらもいとわぬ覚悟でエンフェールネンを守り抜きました。よって、あなたには守るための力を授けます」
女神は神妙な面持ちでそう言った。
小窓をたたむ。
すると、俺の左腕に光る紋様が刻まれた。
盾というより、おしゃれな入れ墨だ。
発動すると盾を形になるのだろう。
「この、神器というのは?」
「天使に与える特別な装備品のことです。天使なら誰もが持つスキルと違って、神器はお気に入りの天使にのみ下賜するものなのですよ。名誉に思いなさい」
女神のお気に入りか。
悪くないな。
俺はうやうやしく礼を述べ、慇懃にこうべを垂れた。
「どうやって使うんですか?」
腕を振っても、盾っぽく構えても……うん。
何も起きない。
『贄の御盾』というくらいだ。
何か生贄でも捧げる必要があるのだろうか。
「その盾を通じてわたくしに贄を捧げなさい。贄の価値に応じた強度の盾を貸し与えましょう。具体的に言うと、金塊がベストです。ゴールドです。世界あまた広しと言えども金に優る宝物はありません」
女神の口元がニチャアと歪んだ。
つまるところ、献金の盾か。
課金の盾と言い換えてもいい。
体のいい集金システムに思えてきた。
「贄ってなんでもいいんですよね? たんぽぽの花とかスベスベの石とか」
「わたくしは金塊がベストだと伝えたはずですが?」
「いえ、すみません。なんでもないです」
おっかない顔で凄まれた。
金塊ってどこに行けば手に入るのだろう。
古物商?
見たことすらないよ、俺。
効果音がして、小窓がもう一枚開いた。
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調査達成報酬(初回限定):10,000 pt
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「そちらも頑張ってくれたご褒美ですよ。今後はレポートを投稿して、評価ポイントを地道に稼いでくださいね。ただし、積まれた金塊の高さによっては別途報酬を出すかもしれません。お忘れなきよう」
女神の口調には、これでおしゃべりは終わりです、という響きがあった。
俺は背筋を正した。
「これから、俺はまた異世界の因習村に飛ばされるんですか?」
天使ボディーは疲れも眠気も感じない。
でも、気疲れはする。
中身は人間だしな。
町があるというのなら休ませてもらいたいところだ。
「そんなにハードスケジュールではありませんよ。ご覧の通りホワイトな職場ですからね。気になる村を見つけたら、わたくしのほうから声をかけますね」
女神は人差し指をひょい、と振った。
すると、白い空間に扉が現れる。
「ユーシン、あなたにずっと逢いたがっていた方が見えていますよ。行ってあげてください。さあ、その扉を開けて」
俺に逢いたい人?
ちょっと心当たりがない。
織田の顔が一瞬脳裏をよぎった。
水煮にしたことを謝りたいとでもいうのだろうか。
謝罪はいらん。
一発殴らせてくれたらな。
俺は女神に一礼して、扉を開いた。




