表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/15

第10話 ひとのものを とったら どろぼう

 現在のアジトからさらに森の奥、強固な岩盤を掘って臨時拠点を作った。

 本拠地からおよそ300km離れている。臨時とはいえ、十分な防御力を備えた拠点だ。

 副官ミーナと仲間、それにタマに留守を頼んだ。


 この拠点を作った理由は、武器不足のためだ。

 ロシアマフィアの裏切りで取引が途絶し、武器が手に入らなくなった。

 ヤクザは日本製の電化製品を扱うが、重火器の入手は不得手だ。

 ロシアマフィアは頼れる相手だったが、一方的な裏切りで関係は途絶した。


 もちろんアジトに備蓄はある。AK74などライフルは数百丁あり、現状の戦力では十分だ。

 だが、東部で革命を起こして建国した暁には、パドシャイとの全面戦争が起きるだろう。

 魔法使いに対抗できる武器を揃え、平民を武装させねばならない。


 検討の結果、こう決めた。

 マフィアと取引できないなら、異世界から直接奪えばいい。

 森林で捕らえたロシアマフィアの下っ端から情報を聞き出すと、快く国内事情を語ってくれた。

 水魔法で神経を刺激する尋問を行ったのが効果的だったのだろう。最初の一人は加減を誤り廃人にしてしまったが、その後は皆素直に話すようになった。


 ロシア極東には旧ソ連崩壊で放棄された武器庫が点在し、マフィアはそこから補充しているという。

 話を聞く限り、俺でも直接取りに行けると思っていた。


 ミーナの手を借りながら、開発した異世界で呼吸する為の装置を装着する。

 背中のタンクに20kgの魔石を収め、熱で魔力を昇華させ、それを吸気に混ぜる仕組みだ。

 肩のダイヤルで魔力量を調整できる。

 魔力隠蔽モードで約100時間、戦闘時は約4時間持続する。

 ただし魔力隠蔽中は平民並みの力しか出せず、魔法も使えない。

 だが魔石は高価で常用は難しい。


 臨時拠点の前で、ミーナが涙を浮かべて送り出してくれた。

「キットゥ様、お気をつけて」

「俺の帰還はお前にかかってる。頼むぞ」


 ロシアへ続く門は中原ゲートからの距離の関係で非常に不安定だ。

 俺が渡った後に閉じる可能性もある。

 その場合はミーナにゲートを探してもらい、異世界の電波網を通じて緯度経度を伝える必要がある。

 信頼できる彼女を同行させたのはそのためだ。


 ゲート探知機も渡している。

 名前は大仰だが、要は電波探知機。異世界から漏れる電波を拾い、ゲートを割り出す。効率は悪いが、闇雲に森林を歩くよりはましだ。


 出発しようとするとタマがついて来ようとする。

 だが臨時拠点の守りは必要だし、そもそもゲートが小さくタマは通れない。


 タマの頭を撫でながら、俺は言った。

「ミーナを守ってやってくれ。頼むぞ」

「ギャウ!」


 お返事ができて偉い。意味は分かっていないだろうが。


 この装置の効果や限界は、動物や捕虜として連れてきた魔法使いを使って検証済みだ。

 魔力切れで異世界に倒れた魔法使いの萎びた魔力機関を思い出し、ああはなるまいと胸に誓う。


 ミーナ、タマ、留守番頼んだぞ。

 俺は生まれて初めて、門をくぐった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 門をくぐって最初に感じたのは、鋭い冷気だった。目の前には一面の銀世界――これが雪というものか。

 異世界はもっと暖かいと聞いていたが、こんなに寒いとは。このままでは凍死してしまう。

 魔力出力を上げて寒さに耐えることにした。まず道路を探して走り、トラックを見つける。


 道路の真ん中に立ってトラックを止めた。怒鳴りながら降りてきたおっさんを銃で始末し、服を奪う。やはり現地の服装が一番だな。これでなんとか過ごせる。死体は道路から遠いところに投げておいたので、簡単には見つからないだろう、多分。


 奪ったトラックの操作は意外と難しかった。クラッチ付きの車だ。何度もエンストさせながら操作していると、なんとか前に進み出した。

 一度走り出すとそれほどでもない。

 異世界では車は道路の左側を走ると、本に書いてあった。

 ハンドルを安定させられず、ふらつきながら左側を保つ。


 うわっ、前から車が!!


 逆走してくる車ばかりだ。

 治安はどうなっているんだ。非常に危ない。一度、カーブの先で事故りかけて、相手の車を魔法で吹き飛ばす羽目になり、貴重な魔力をかなり消費してしまった。


 封鎖された施設の入り口を開け、トラックを中へ入れる。マフィアが何人かいたので失神させて縛り、荷台に放り込んでおく。

 異世界に来るマフィアは下っ端ばかりで、持っている情報は乏しい。我が組織は、この世界の情報を提供してくれる協力者を常に求めている。

 協力後は森林の栄養分として世界に貢献できる。


 武器庫に入ると、素晴らしい数の武器が並んでいた。片っ端からトラックに積み込んでいく。さすがに俺が一番欲しかった品はなかったが、それでも大収穫だ。


 おぉ、これはデグチャレフPTRD-1941じゃないか。

 こんなものまで残っているのか。対戦車ライフルはこの世界では既に廃れた武器だが、口径が大きく、高威力に作られている。魔法使い相手に有効だろう。


 トラックが満杯になるまで武器を詰め込む。こんなに一気に手に入るなら、最初から異世界で調達すればよかったと後悔するほどだ。

 ミーナからの定時連絡では門はまだ維持されているらしい。トラックで何往復かすれば、数千人規模に武器を配れるだろう。


 ただ結局、往復はできなかった。門へ戻る途中、何台もの警察車両に追われたのだ。

 無免許運転がバレたのかもしれない。

 最初は所持していたAK74でパトカーを撃退できていたが、どんどん数が増えていく。相変わらず対向車は逆走ばかりで走りづらい。

 最後にはタイヤを狙撃され、往復を諦めた。もし複数のタイヤがあるトラックに乗っていなければ、走行不能になっていただろう。


 なんとか門の前まで逃げ延びることができた。門近くにトラックを駐めた瞬間、周囲をパトカーで完全に包囲された。

 目に入るだけでも少なくとも五十台は集まっている。

 荷物を運び込む途中で襲われれば作業は不可能だ。だから殺すしかないと判断した。

 もう門の前だ。魔力の消耗を気にする必要はない。


 魔力を全開にし、全員を始末した。

 パトカーにはカメラが付いていることが多いらしい。証拠隠滅のため、まずガソリンタンクに穴を開け、火を放つ。


 炎の熱気の中、次々と武器をゲートに投げ入れていく。

 門の向こうから仲間が受け取りの合図を返してきたため、安心して送り込めた。

 流石、有能副官ミーナちゃんだ。

 最後に証拠隠滅のためトラックを燃やし、そのまま門をくぐった。


 門の向こうでは、ピョンピョン跳ねるミーナとタマが迎えてくれた。

「キットゥ様! 大漁です! 武器がたくさん!」


 往復できなかったのは残念だが、それでも五百人分くらいの武器は手に入ったのではないか。もちろん弾薬も相当な量だ。しかも高威力な武器を確保できた。

 この門は危険すぎる。土砂を崩して塞ぎ、跡形もなく消した。


 それにしても、あんなに警察に追われるとは予想外だった。捕まえたマフィアに理由を聞くと、意外な答えが返ってきた。

「道を逆走していたからでは…?」


 なんと。左側通行だと思い込んでいたが、実際は右側通行だったらしい。次は気をつけよう。その後、近くの門から再び武器を調達しようとしたが、沿海州の警備が非常に厳しくなっており、この時も往復は断念した。


 結局、臨時拠点は放棄して、新しい拠点を遠く離れた場所に移した。そちらは警戒が手薄で、門と武器庫を何度も往復することで十分な武器を確保できた。

 最初から右側通行を守っていれば警察に追われることもなく何往復でもできたはずだと思うと、悔しさが込み上げてくる。


 だが、万単位の兵を武装させるに足るだけの武器は揃った。

 ただひとつ欠けているのは、決定打となる戦略級の兵器だ。それさえ手に入れば、貴族たちを確実に打倒できる。

 革命はもうすぐそこまで来ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ