第一話
『序』『一話』は連続投稿致します。ヒロイン(主人公)は病弱設定なので、今後動いてくれる子達が登場する予定です。
この話までは、新規で書き起こしました。ブログ連載時とはヒロインの設定が微妙に異なっています。
『二話』以降は、昔書いた文章を直していきUPする予定ですがどうなるかは未定です(^-^;
では、第一話お楽しみ下さい。
※ヒロインの病名については、突っ込みは無しの方向でお願いします・・・
ピ・・・・ピ・・・ピ・・・
(・・・ん・・・ここは?)
ピ・・・・ピ・・・ピ・・・
朦朧とした意識に規則正しく響く電信音が、耳を打つ様に聞こえてくる。
(私は・・・)
ゆっくりと目を開けると、そこは、真っ白な壁に包まれた部屋。
「ん・・・あ・・・う」
声を出そうとして、喉が酷くかれている事に気がつく。
鼻を突く、消毒液の匂い。
「な・・・ん・で?」
どうやら、病室のようだ。私は、体を起こそうとして、右手に僅かな痺れと暖かな重みを感じた。
ふと横を見ると、点滴に繋がる私の右手の平を握る用にしてベットに俯せで寝ているらしい小さな身体を見つける。
「・・・徹?」
弟の徹だった。
「え?・・・あれ??」
その姿を見たとたん、なぜか私の頬を流れ落ちる、大粒の涙。
「どうして・・・私、泣いて・・・あれ?・・・ひぐぅ」
流れ出した涙は、まるで堰を切った様に止まらず。次々と流れ落ちる。
「ひっ・・・うぅ・・・なんで?どうして?」
それはまるで、失った物が帰ってきた様な・・・
私は、空いている左腕でそっと、その小さな頭に手を置く。
子供特有のさらさらとした、髪が指の間を抜けていく。
「本物・・・よね?」
自分の感想に、「何を馬鹿な事を言っているの」と頭の中で別の私が言う。
次の瞬間
大量の情報が、私の中に飛び込んできた。
私は、市ノ瀬 翼
両親は失った
両親は健在だ
世界は浸食されていて
世界は今日も平和で
私は必至に生き延びていた
でも私は、死の病に掛かってた
大切な幼なじみは、目の前で命を引き取った
大切な幼なじみとは、病院を移って以来会っていない
日に日に、行き場を無くしていく
日に日に、弱っていく身体
そんなある日、逃亡の道連れになった彼
入院生活の中、偶然知り合った彼
『その人は、私の心の安らぎ』
『でも世界は優しくなくて』
『終わり日は、目の前に』
終わり・終わり・終わり・終わり・終わり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『終わるのは私?終わるのは世界?』
『置いていかないで・・・?置いていくしかないの・・・?』
私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・私は・・・・・・・・・・・
「くああああ、わ・・・私はははははは」
止めて、止めて、私は私・・・止めて止めて・・・
まるで、濁流のように流れ込む、私と言う名の二つの人生。
頭が割れる!
「お姉ちゃん!」
その時、私を呼ぶ声が聞こえた。
「・・・と・お・・る?」
情報の海に飲み込まれそうに成っていた私は、失ったはずの大切な弟の声に正気に戻る。
「お姉ちゃん、頭痛いの?大丈夫?平気?」
左手で、頭を抱えるようにして俯いている私の顔を、覗き込む曇りのない二つの瞳。
「とおる・・・と・おる!・・・・ひぐっ・・・うわあああぁぁぁぁ」
私は、無意識の内に小さな弟の身体を抱きしめると、大声で泣いた。
西暦20××年 7月15日
予てより、重度の遺伝子病により病棟に着いていた少女 市ノ瀬 翼 の様態が急変する。
同日午後10時15分、心停止を確認、回復処置を施すが再始動に至らず呼吸共に停止、午後10時35分死亡と認定される。
同日午後11時03分、傷心の遺族に囲まれる少女の遺体が、突如痙攣状態となる。緊急コールに拠よる呼び出しで、主治医によって心拍機能及び、呼吸の回復が確認される。少女とは思えぬ力で暴れる身体を、医師、看護士、数人に拠って、押さえる続けること約10分、突如痙攣が停止。患者は昏睡状態となる。
3日後 7月18日 午後17時12分
昏睡状態から突如覚醒する。軽いヒステリー状態に陥っていたが、精神安定剤の投与により落ち着きを取り戻す。
覚醒後の検査で、当初心配されていた、長時間の心停止による脳障害については、多少の記憶の混乱が認められるものの、大きな機能傷害及び、記憶障害は確認されず。
継続入院による検査に置いても、問題なしと判定された。検査に立ち会った医師に拠れば。
「まさに奇跡です」
としか言えない事態であった。しかし奇跡は此だけに止まらなかった。
同年 8月
少女の体力回復に伴い、持病の遺伝子病について精密検査が行われる。
結果は驚くべき物と成った。
「お嬢さんの今の身体の状態は言葉で表すなら、最も安定した状態で病状が固定されています・・・」
この言葉に対して、困惑を表した少女の家族に説明されたのは、次の様な内容だった。
曰わく、本来この病気の進行が止まることは無いと言う事。
曰わく、最悪と思われた状態から、病状が回復している事。
曰わく、当初『20歳までは生きられない』と予想されていた寿命は、現状が継続するならば当てはまらないと言う事。
曰わく、無理をしなければ、一般的な生活に戻っても問題は無いと言う事。
曰わく、同様の症例で、この様な状態になった患者居ない事。
その言葉を聞き、喜ぶ家族に対して。検査を担当した医師は、念を押す様に付け加えたと言う。
「病気が治った分けではありません、また治療方法が見つかった訳でもありません」
「お嬢さんの病状がこの先、悪化しないと言う保証は無いのです」
そして、年が明け、さらに時は過ぎ。
5月
少女・市ノ瀬 翼は、一月遅れで、如月大学附属高校1年として入学する事になる。
「やっと、此処に来られた・・・」
桜ちり、ちらほらと緑映える桜並木を背に立つ少女は、風になびく肩口で切り揃えられた、白銀に輝く髪に右手を軽く沿え。
小高い丘の上に立つ、白亜の校舎を、その色素のない赤い瞳で見上げる。
朝日を浴び、真新しい学校指定のブレザーに身を包み、一年生をあらわす胸元の赤いリボンが、抜けるような病的に白い肌に映えるその姿は、幻の様に見えて。
まるで、幻想の中の美しい妖精を思わせた。
季節は春、新しい物語りが始まる。
その先にあるのは、希望か絶望か。
今はまだ、その答えは出ていない。
渡る世界・幸せの祈り 第一話 完