2.婚約者の距離と変化
「わたくし、実験台になるつもりはないわ!」
結構衝撃的な事を言ったつもりで、なんなら怒り出すんじゃないかと身構えていたのに、目の前のルーカスは驚いたように目を丸くしている。
「え、」
「…私の呪いを知っていて、研究したくて求婚したのでしょう?」
「そんなつもりはありませんが、どうし」
ルーカスが困ったような顔で答えるので動揺して、変化してしまいそうになったのでその場から脱兎の如く逃げ出した。
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別に断る理由もないというこであれよあれよと婚約が決まった。
もともと社交の場には出ていなかったのだ。今更仰々しい儀式をする必要もないので、婚約期間だけれど早めにルーカスの家に越すことになった。
ルーカスは男爵家の生まれだったが彼の母が元々公爵家の出とのことで公爵家の養子になるとの事だった。
生家の男爵家の方は「やっと相手の男が腹を括りまして」と妹とその婚約者が継ぐことを教えてくれた。
最後にお父様に挨拶に伺ったけれど、
「彼は大切にしてくれると思うよ」
と困った様に口にして頭を撫でてくれただけだった。
市街地から少し離れた丘の裏手にある洋館へ越し
一息つこうと応接に案内された昼下がり。
ルーカスは窓際に立ちご機嫌そうに窓の外を見ている。
「今日は体調はいかがですか?」
侍女を下げた二人きりの空間。
慣れた手つきで私のカップに二杯目を注いだルーカスはそのまま隣に腰掛けた。
今日は幾分調子が良いがやはり気怠さは無くならない、変化の呪いにかかってからもうずっと上手く眠れないでいる。
「平気よ」
至近距離で見つめられることに慣れなくて
腕で目線を遮りながらこたえる。
「本当に?」
ルーカスが距離を縮め、顔を覗き込もうとする。
「だ、大丈夫だってっ」
振り払おうとした瞬間、後ろ向きに倒れ気づいたらアライグマになっていた。