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第四話 焚火の灯りは揺れて




「出発は明後日くらいでいいか?」


レオはのんびりとした口調で、朝の食卓からふと顔をあげた。


「それでは遅い。」


即答したリュシエルは手にしていたカップを置く。


「徒歩で王都に向かうなら、それなるに日数がかかる。魔力移動は使えない以上余裕をもって今日には行くつもりだとおもっていた。」


「え、そうなの?なんで?魔力移動って、転移魔法のことだろ?それってそんなに危ないか?」


「魔痕跡が一定時間残る。そうなれば移動元を逆追跡されるし、王側がよけいな詮索をする可能性もある。…お前は勇者で、魔力痕跡も目立つから。」


「あ、たしかにそれはそう。」


レオは苦笑して頭を搔いた。

【伝説の勇者】は誰もが知るほど有名で、その魔力痕跡だって王国の魔法師ならば簡単に察知されてしまう。

かといってリュシエルの力で移動すれば、魔王がまだ生きていると周知することにもなってしまう。


「そっかー、そういえばそうだね。俺はどうせ村人っぽい恰好してりゃバレないかな~っておもってたし、着替えとかはホラ亜空間収納に入れちゃってるし…いいかなって。」


そう言ったレオをリュシエルは半眼で見ていた。


「本当に俺を伴って王都に行く気があるのか、お前は。」


「え、あるある!ちゃんとあるって!」


「その割に…危機管理が薄すぎやしないか?」


「……ぅ、それは、ごめんって。」




レオにとっては急な出立になったが、荷物の用意は先にリュシエルがしていたので何も問題は無かった。


村人たちも、今日がそうだったと知っていたのか当然のように見送ってくれる。


リュシエルが地図を広げてルートを説明してくれたから森を三日迂回して回り込むように王都へと入る前の()()()()()()()()()()()()()に納得もした。

この道順なら、問題ない。


「要するにこの三日で山道を迂回して移動するってことか。」


「王国の直轄地への直線移動は避けたいからな。」


「まぁねぇ。なんだかんだで真っす王都を目指せば四日もあれば着くもんな。」


「あぁ、あと路銀の問題もある。村では物々交換でどうにかなっているが人里ではそうもいかないだろう。適当に魔獣を狩って皮や爪を素材として町で売れば金になる。」


「だとしたら、低級魔獣を多く狩ったほうがいいな。中級や大物だと目立つ。一般市民のフリして移動するんなら――――「おい。」


「…なんだよ?」


「おまえは、自分が何者と呼ばれているのか忘れているのか?」


「え、そりゃまぁ…「ユウシャサマー!」、ですけど?」


「顔もバレているのだから、今更だろう。伝説級の大物を狩ったって誰も不思議ににはおもわん。魔王を倒しておいて小物ばかりの方が却って不自然だ。」


「ぁ……たしかにぃ」


「むしろこの前の邪竜が処分に困っていたからアレも持っていこう。アレは食えんし邪魔なだけだが、人間どもには価値があるんだろう。」


「あぁ、まあ…呪物を作るのになんか使ったりするらしいねぇ…?」


「魔族にはそもそも呪物の呪いは効かないからな。持っていっていいとおもうぞ。」


「あ~…伝説の勇者の名声がまた更に高まっちゃう。。。。」


「そういう牽制も必要な場に行くのだ、いっそ倉庫に置いてある五体ぜんぶ持っていけ。」


「まーそれでもいいのかもなぁ?邪竜って食えないし腐らないし燃やせないしで邪魔だもんなぁ。」


しかもだからって死体を放置していたら瘴気を発し始めて新たな魔獣が生まれたり土地自体にもダンジョンが出現したりするから持ちかえざるおえない厄介者。

人間の価値観と魔族の価値観とでは雲泥の差があるのはわかってはいたけど、邪竜や魔獣に関しては人間には素材として価値があるしそれでいいか。

(低級魔獣も()()()()()には食肉にするにも毒なんだもんな。…俺は平気だけど。なんたって勇者チートがあるし。)


「つーことは、路銀問題はアッサリ解決?」


「だが、辺境から急に出すべきではないだろうな。顔を隠しながら移動しつつ素材や肉を売って中央都市に近くなるにつれて売り物のランクを上げればいい。ただ、このあたりの価値観は人間のレオにしかわからないから売り物の采配は任せる。」


「あぁ、まー、そうかもね?」


魔族は邪竜に価値を感じないけど低級魔獣の一角兎は魔族的には美味しいお肉として需要が高いから価値がる。…みたいなことだよね。

人間は討伐の難しさで価値を決めるけど、魔族にとっては美味しいとかの基準が先にあるっていうか。



…とはいえ、その面で俺に役立てることがあるのかは少々の不安もあるんだけど。

なんせ勇者として育てられただけじゃなくチートもある無敵だったせいで、一般常識という世間のズレは否めない。



◇◇◇



出発から二日目。

山道を移動中に意外な出会いがあった。


「あれ?わわ……ティナ?」


普通の人間には解らない道なき道を進んでいたのだが、まさかのその道中で懐かしい顔を見つけた。

枝葉を掻き分けて現れたのは見知った顔で驚いた。


「わぁ!会えてよかった!久しぶりだねレオっ!」


パッと花咲く笑顔で快活に声をあげるのは、かつて魔王討伐の旅程で協力してくれた情報屋のティナだった。


おーい、ノアぁ!レオいたよ~!」


振り返って呼ぶ先には、ひぃはぁ死にそうになりながら山道を歩く()()()の回復・支援担当だった仲間(パーティーメンバー)



「ノアも!?」


待つこと20分。1キロ先から息を切らしながら到着したノアとは最下位の喜びに浸る前に、今にも死にそうな心配が先に来る。


「はいはい、とりあえず水のみなー?」


「ってかさ、相変わらず体力無さ過ぎだし。ノア。」


ティナは腰に下げていた水袋をノアに渡し背中を摩って介抱している。


「あー、つーかさ、こんなところで偶然…な訳ないよな?なんでこんなとこにいんの??」


本来、優しい人間ならば、ノアの息が整うのを待つべきなんだろうけど。監視か諜報かは解らないけれど行動を先読みされていたというのは面白くない。いくら以前はティナのそういった手腕に助けられたとしても、だ。

そして問い詰めるなら二人揃ってからの方がいいからという理由だけで待った。


「あちゃ~!それ聞いちゃう~?」


「聞いちゃうー。」


あっけらかんとした応酬だが、レオ実はそんなに歓迎していなかったりする。

しかし、ともあれ話はしたいし、日が落ちかけている時間帯だ。

ひとまず先に野営の準備をしてからでも話をするのは遅くない。


リュシエルでもレオでも野営スペースを作るのに旅路で魔力を使う気は更々無い。

なので、物理だ。やろうとおもえばこの国自体を一瞬で更地に出来るだけの魔力は十分にあるが、剣ではなく(なた)で周辺の草木を刈り十畳ほどのスペースを作る。

そこに其々で野営の寝床を作る。


不器用なレオにはとてもできやしないが、なかなかどうして。リュシエルは元魔王なのに木を組んで蔦で縛り草を被せて簡易的な家を作り、その中にもまた草を敷いて快適な住空間を作り出した。

方やティナとノアはマジックバックに収納していたであろう簡易テントを組立るのも忘れて唖然とその光景を見ていた。

なんせ文明的な簡易テントは雨風凌げればいいだけではなく様々な想定をされてデザイン設計されているから設置に手間取るのに反してこっちのリュシエル作の寝床はシンプルなだけにあっという間に出来上がったのだ。

もちろん、寝るだけだから立てるほどの高さもないし、狭いけれど。どうせ寝る時はいつも身を寄せ合って横になるのだから問題ない。村の家でもいつもそうしてるし。

(まぁ…これだけ狭いとリュシエルの長い脚は曲げなきゃなんないから横向きに寝て俺の足を挟みこんでしまうしかないけどさ。)


レオはそんな様子を見ながら集めた枯葉や薪に火種入れから火を移し焚火の用意をしていた。


「おーい、リュシエル~!焚火もう出来たけど、あとどうするー?」


「湯を沸かしておいてくれ。その間に食材を切る。」


「はーいよ。」


移動途中に狩った魔物肉を細かく切ったものと摘んでいた野草などを鍋に入れて煮る。味付けは少量だがマジックバックに入れてあったものをつかうらしい。

え?どうして亜空間収納(アイテムボックス)があるのにそこに入れないのかって?

そんなの邪竜を五匹も入れてれば、ねぇ。なんか汚いっていうか…食材が汚染されそうな気がするから嫌だなーっていう気持ちの問題だよね。

大雑把な(レオ)はそんなの気にしないけど、リュシエルのほうが逆に気にするらしいからそうなった。

だってごはんをつくるのはリュシエルだしレオは頷くだけだ。短期だから調味料や食材はマジックボックスに、って。



「うわ~めっちゃイイ匂いする~」


レオとリュシエルが食事をする焚火の隣で干し肉などの携帯食を食べているティナが恨めしそうに見てくる。


「魔獣肉で作ってるから人間には猛毒だけど…自己責任で食べる?」


「猛毒なら、……いらにゃい。」


悔しそうに干し肉を嚙みながら言うティナはほんとうに恨めしそうな視線でこっちを見ている。


伝説の勇者(クソチート野郎)めェ…っ!」


小声で呟かれた声が呪詛っぽい。

でも、ほんとうに俺はクソチート野郎なので、気にせずにリュシエルが作った美味しいスープをおかわりしておもう存分食べた。

ちなみにパンもわけてやらなかった。だってティナにもノアにも毒だから。






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