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第二話 届いた手紙。 







朝食を食べ終えたら、無職の役立たずだろうと食べた分は働かないといけない。

レオは一緒に朝食を食べたちびっ子たち7人を連れて村からちょっと離れた森に行き、自分は薪にする木を切る間にちびっ子たちには薪拾いや野草摘みなんかを自由にさせる子守スタイルだ。


「マヌリ、ライネ、ルーバッタ、ハクラキ、タルカ、ムニ、ポーパ、こっちに並んで手の平を上にして両手出して~」

「「「「「「「あーい!」」」」」」」


小さな右手に人差し指で順番にクルッとまるを描き、簡易的な「探知魔法」を其々に掛けていく。

こうすることでレオから50m以上離れることは出来なくなるし、迷子になっても探し出せるというわけだ。

で。左手にはちょい強めの防御魔法をかける。怪我防止は大事ですよ。


「よーし、これでオッケー!それじゃみんな好きに遊んでこーいっ!」


「「「「やったぁ!」」」」

「「わーい」」


キャッキャと散っていくちびっ子を確認してから、手ごろな大きさの木を切る。

大体3・4本も切り倒せば村で使う薪には十分な量だが、じわじわと移住者が増えているので少し多めにか太くて立派な木を一本だけ倒す。

腕が回らないほど太い木は家具作りに適しているので乾燥させる時間を考えれば、取り合えず常にストックが二本はあった方がいい。

特に難しいこともなく日が当たる場所に放っておくだけだし。


「うーん…おわっちゃったなぁ。」


木こりの真似事をしたところで、レオは元は伝説の勇者であるチート野郎だ。

ものの10分もあれば仕事らしい仕事は終わってしまう。そう、また無職に逆戻り!


「やることねーなーぁ…」


ちびっ子たちに誘われて混じって遊ぶこともあるけれど、子供っていうのは基本的に子供だけで遊んだり探検したいものだしな。

大人な俺が暇だからって邪魔するのも…なぁ。


「しゃーねー、……寝るか。」


ゴロンと地面に寝転んでぼんやり視界を緩くして、肌で風を感じたり、葉音を聞くことに意識を持っていけば眠りに落ちるのはあっという間だ。

まぁ、だからって完全に寝入ってしまうことはしないけど。

ちびっ子たちも居るし、何より昼前には戻らないとリュシエルが怒るし、美味しいお昼ご飯を食いっぱぐれてしまう。


(リュシエルってばちょっと融通が利かないところがあるんだもんな~…まぁ、心配性だからなんだけど。)

いつかの最後の戦いでも、魔王城にはリュシエルはひとりだった。

自分の絶対的な強さを確信していたからそんなことになったのだろうけど、同時に心配性で優しいヤツなんだろうなって思う。って今なら解る。


世界が平和になりましたって最初の時も…そんなこととは関係なくなった、俺と二人だけで身を寄せ合っていた頃は布団を奪い合いパン一個を奪い合いで勝負したけど…結局最後は分け合ってたし。


うつらうつらの微睡みのなか、思い出に耽っていたら


―――― ピーヒョロローッ!

と、甲高い鳥の鳴き声が耳を(つんざ)き、バチっと意識が覚醒する。

舞い降りてきた尾長の伝言鳥に見下ろされ、レオはため息を吐いた。


「久々だな、おまえ…。なにしに来たの?」


『デンセツノユウシャニデンゴン。』


「あっそう。」


『ヒトツキゴニシュウヘンコクノライヒンガクル。トウジョウセヨ。』


「嫌だよ。ふつーに。」


『シタガワナケレバ、ヤマガリスル。カナラズゼンインコロス。』


「………だよな。おまえらっていっつもそーだよな。」


『オマエノセイデ、ミンナシヌ。』


「わかってるよ…。」


言いたいだけ言って伝言鳥は役目を終えて消滅した。つまり、返事を持って帰らない一方的なものだ。


レオは眉間による皺を指で押さえながら、深く溜息を吐いた。いつもの日常、平和な時間をレオは愛している。

こんな命令は、俺とリュシエルと二人だけの頃だったら、無視した。

だけど今は違う。

赤ん坊が生まれるまでに定着した地を見捨てることは出来ない。


「俺のとこに伝言鳥が飛んできたってことは、…家にも手紙が届いてるんだろうなぁ。」


頭を抱えるのはそのせいだ。

むこうは俺の性格をよく知っていて、俺が嫌がる手段を講じるのに長けている。

俺が自分のことより、大切な人のためなら自分を捨てられるっていうことを知っているから、リュシエルが大切にしているものを殺すなんて言うんだろう。


「……くそったれ。」


悔しい悔しい悔しい。

全属性魔法を使える超人だろうが伝説の勇者だったろうが、こんな一方的な命令ひとつにあがらえない自分が悔しい。



「あー…ちがうちがう。違わないけど、ちがう。…うん。」


悔しさで頭に血が上るのは、ちがう。そうだろ?

俺は平凡な平和を求めていたし、今の生活に幸せを感じている。



*******



ちびっ子たちを送り届けてから家に戻ると、リュシエルが難しい顔で豆を剥いていた。

テーブルの上には豆の山と籠と、端の方に王家の印章のついた封筒が置いてあり、リュシエルが不機嫌な理由が一目でわかった。


「その手紙、読んだか?」


「………いや。だが、ロクなことじゃないのはわかる。」


「だよな。」


あはははは、なんて乾いた笑いしか出ない。

それでも一応は手紙のなかみも確認しないわけにはいかない。

あの伝言鳥と同じかなんて見なきゃわかんないんだから。

(っていうか同じわけねーか。あんなこと書いてリュシエルの逆鱗に触れたくないだろうし。)

しかもこの国の王は【伝説の勇者レオが魔王を倒した】ということを発表しており、近隣諸国に比べて国としての格を抜きんでて上げたことで様々に優位に立っている。それを手放す羽目になることは避けたいだろう。


そして内容は…

王都に来いっていうことと、パーティー参加は決定事項であること。だって勇者だしねー。

まぁ、ただ、王都の孤児院の子供たちは()()元気に健やかに過ごしていることなどが書かれていた。


……あぁ、うん。はいはい。

本当にいやらしい書き方だよなー。つまりは、俺が無視して行かなかったりしたら孤児院の子供たちをどうにかしちゃうよ?と言いたいんだってことか。


こっちの手紙の脅しは全然脅しになってねーけどな。。。

そりゃそうだろ。

教会が預かっている自国の孤児が一気に消えたりしたら、彼らを近くで見知っている一般の民が国に不信感を持つ。

(俺はたしかにポンコツだし直情的なアホだけど、何もわからない馬鹿じゃねーっての。)


寧ろ以前の俺は「言われるがまま()()を全うする馬鹿(勇者)」であろうとしていただけで、本当は、沢山疑問も鬱憤も溜まってた。

リュシエル(魔王)を殺せば解放される」って信じたかった。


(けど…まぁ、信じきれなかった。だから、こうなっているわけなんですよね~。)



「……………はぁ。」


「どうした?」


「んー、王都に来いってさ。パーティーの招待状付き。」


同封されていた招待状をヒラリと見せると、リュシエルの眉間にも皺が寄った。


「行きたくないなら行かなければいい。」


「でもさー、そしたら王国中の孤児が元気で健やかじゃなくなっちゃうかもしれないんだってさ。」


「ずいぶんと卑劣な真似をする。」


「ほんとにね。でも、パーティーに出るだけでいいなら、簡単だから。」


「だが、出席すればお前は「勇者」と呼ばれるだろう。…それが、嫌だ。お前はただのレオだろう。」


「……ありがとう、リュシエル。」


リュシエルの飾らない言葉で、俺の心は救われる。

「伝説の勇者」だった俺は、そこに至るまでに…魔獣も魔族も数えられないくらいに殺してきた。戦いの中で沢山の人間も死んだ。


王族や王国の人々が俺の事を「勇者様!」と呼ぶことは、彼らにとっては誉め言葉でも俺にとっては「勇者様(人殺し)!」に聞こえているということ。

リュシエルは気遣って反対している、のが、嬉しい。





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