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第5話 悪喰姫と黒コゲ皇子


「エルマ! あの状況でよくお菓子なんかつまみ食いできるわね? まったく、呆れてものも言えないわ」


「だってぇ……暇だったんですもん」


 アルトエンドの皇城内の客室で私はエルマに説教をしている所だ。

 エルマはこんな性格だから、仕事もあまり出来ないし、よく失敗する。 だからマールにいた頃からしょっちゅう説教していたけれど、暖簾に腕押し、馬の耳に念仏、エルマに説教ってな具合に響かない。 まったく響かない。

 今だって正座をしているように見せかけて爪先だけ床に付けて膝辺りは数センチだけ浮かせている…………えっ? どういうこと!? 物理的に可能なの? どんな筋肉してんのよコイツ!?


「と、ところで一体何を食べてたのよ?」


「ポリポリ食感がやみつきになるプレッツェルのお菓子ポリッツェル塩辛味です!」


「何その不味そうなお菓子? アンタって本当変なもの好きよね……それよりちゃんと話は聞いてたの?」


「美味しいですよ〜! 話も聞いてましたって。 姫様が若い皇子が好物だから不老不死を解くのはやめたって話しでしょ?」


「……話し聞いてた? 全然違うでしょ? ルシオ殿下はまた暗殺されるかもしれないから不老不死を残しておくのよ。 決していつまでも歳を取らない美少年を囲いたいからって訳じゃあないのよ? 分かった? 了解? オーケー?」


 びっくりした……コイツたまに鋭い時があるのよね……


「まっそういう事だからアナタも怪しい人物とかいたら報告するのよ……」


 私がエルマに言い聞かせていると、部屋のドアがノックされ使用人らしき男性が入ってくる。

 平静を装っているけれど、その息は荒く汗もかいているし焦っている様子だった。


「シェ、シェリム王女さま! ルシオ殿下がっ……急ぎご足労願えますか?」


 私がエルマとルシオ殿下の居る部屋へと向かうと……近づくにつれ異様な匂いが強くなってくる……

 嫌な焦げ臭さの中に刺激臭が入り混じり、不吉さを予感させるような匂いだ……

 慌ただしく動き回る使用人達を押し退けて部屋へと入ると……


 ──炭化した黒い皮膚の奥に未だ高温を発しているのか内部が赤熱しているのが見てとれる……ルシオ殿下だったであろう黒焦げの焼死体がそこにあった。


「シェ、シェリム王女様!! ルシオ殿下が急に燃え始めたんです!! いくら水をかけても火が消えないのです!」


「はぁ!?」


 部屋に入ると整った顔立ちをした青年が明らかに動揺した様子で声を掛けてくる。

 たしか、彼はルシオ殿下の護衛騎士の1人ジルベールだ。 

 謁見の間での話し合いの後に紹介された人物の1人だ。 もう1人護衛騎士が居たはずだったけど…… 居た、ルシオ殿下の周りにいる治癒術士達に混じって真剣な表情をしている黒髪の青年。 ジルベールが優男風の金髪に対して、もう1人のダムエルは黒髪で地味な顔立ちだ。

 私は勝手にイケメンのジルベール、ジミメンのダムエルって心の中で呼ぶ事にした。


「シェリム王女様。 殿下の火が消えないのです、どうにかできませんか!?」


 私が凄惨な現場を見てもわりと平静に考え事をしていると私に気付いたダムエルが話しかけてくる。

 燃え尽きた黒い殻の奥で、まだ赤熱しているルシオ殿下の体。皮膚は炭化し、骨が浮き出て見える……普通なら絶望的な光景。 でも私は、第一印象の肉塊の方がヤバかったので、思ったほど動揺しなかった。 それに不老不死の殿下はこれくらいじゃ死なないだろうし。


「……退きなさい。 エルマ以外は部屋の外で待ってなさい」


 殿下の身体をよく見れば再生が始まるそばから焼けている。 これだけ周囲が水をかけたりして消えない炎なら、まず間違いなく魔法や呪法のたぐいだろう。

 効果は……『死ぬまで消えない炎』とか『対象を消滅させるまで燃え続ける』とかだろう。


 私の悪喰で食べれるだろうけど、あまり大っぴらに見せすぎない方がいいかも知れない。 だからとりあえず使用人達には出てってもらった。


「ウェッ……にがっ……」


 真っ黒な殿下の姿焼きを発動させた大口に突っ込むと焼き過ぎた魚のような苦味が口の中に広がる気がする。

 殿下の身体を燃やし続けている元凶となる呪いを食べるとぺっと床に吐き出す。


「姫様大丈夫ですか? お水飲みます?」


「……いらない」


 エルマが殿下の消火に使っていたらしいバケツに入った水を差し出してくる……マジでコイツは一度再教育が必要かも知れない。


「ぐっ……あああぁぁぁあ!!」


 呪いを食べるとみるみる再生していったルシオ殿下が意識を取り戻したのか大きく叫び声をあげる。 


「殿下!! 大丈夫ですか!?」


 その声に部屋の外に待機していた使用人達や護衛騎士のジルベールとダムエルが入ってくる。


 それにしても……ルシオ殿下を殺したい相手はずいぶんと必死みたいね。 復活して直ぐに新しく呪いをかけてくるなんて。

 

 ふふふ。 でもまぁ、いいわ。 この悪喰姫がどんな呪いだって食べてみせるから! それでショタ皇子を守って帝国で優雅な王妃ライフを送ってみせるわ!!


「姫様、皇子が不老不死で良かったですね! 安心したらお腹空いてきません? 私はお腹空いたんでご飯食べに行きましょうよ〜? 今日は豪華にステーキとか焼肉にしましょう! えへっ」


 よく肉食べる気が起きるな……犯人よりも先にコイツをどうにかしなくちゃ……




☆★☆★


 ルシオ皇子焼殺未遂事件があった日の夜……

 アルトエンド帝国内のある貴族の邸宅の中。


「失敗いたしました。 やはり皇子の不老不死はまだ健在のようです」


「ちっ! 早くあの皇子には消えてもらわねばならないってのに!! 不老不死だろうがなんだろうが『必滅劫火』なら助からないんじゃなかったのか?」


 騎士服をきた青年の報告に豪奢な服を着た中年男性は怒りと苛立ちを露わにする。


「どうやら、先日皇子の婚約者としてマール王国からやって来たという姫が何かしているようです……」


「もしや『解呪』能力持ちか? ちっ! 厄介な奴を……もう呪殺に使える駒も少ないというのに! しかし、ふむ……他国の姫か……単純に消すのはマズイか……いや、時間がない。 どうにか国帰るように仕向けるのだ! 無理そうならば……わかるな?」


「御意」


 短く返事をすると影の中に消えるようにして騎士服の男が姿を消す。


「まったく忌々しいものだ……早く、あの事に気付く前に……」


 中年の貴族は手に持ったグラスに入ったワインを一息に飲む干すと、窓から見える皇城を憎らしげ睨みつける……

 

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